堅実な守備から、粘り負けすることなく長いラリーを制し、黒鷲旗で大躍進を遂げた早稲田大。「守備は僕たち二人が中心で、ブロックは武藤(鉄也)に任せて、という役割分担がうまくできていました」と、快進撃を終えた堀江友裕主将は、課題を感じつつも少し満足げな表情で語った。攻守で大車輪の活躍を見せた村本涼平も、「大塚(達宣)には後衛でもバックアタックに入ってもらわないといけない。なるべく負担をかけないように、僕たちで守備を固めよう、と思っていました」と試合を振り返る。
スパイカーほど目立たない。でも、彼らがいなければチームは崩れる。早稲田大にとって唯一無二の存在である堀江と村本。黒鷲旗での名勝負を陰で支えた、“僕たち”二人の絆とは——。
■黒鷲旗ベスト8の快挙を支えた“職人”
5月に開催された黒鷲旗のグループ戦C組。堺ブレイザーズ、豊田合成トレフェルサ、富士通カワサキレッドスピリッツらV.LEAGUE所属チームが名を連ねる中、早稲田大が大健闘。グループ戦全勝で決勝トーナメント戦へ進むと、準々決勝戦では第1セットを先取したのち東レアローズに惜敗したものの、ベスト8入りの快挙を成し遂げた。大学勢のベスト8進出は、2010年の東海大以来、9年ぶりの出来事だ。
次々にジャイアントキリングを成し遂げた早稲田大は、巧みさが光るミドルブロッカー武藤鉄也、村山豪、サウスポーエース宮浦健人、若鷲賞に輝いた実力派ルーキー大塚ら豊富なスパイカー陣を軸に、セッター中村駿介が多彩な攻撃を展開。また、要所でコートに立ったサブメンバーやアナリストらチームスタッフの手腕も光り、V.LEAGUE所属チームにも劣らないチーム力を発揮した。
体育館で声援を送る観客の視線の多くは華麗なスパイカー陣に集中したかもしれないが、この快挙を、地道な活躍で支え続けた選手がいる。それが、アウトサイドヒッターの村本とリベロ堀江だ。
村本は、ブロックの間を抜けた相手の強打を体全体で受け止め、つなぎでも存在感を発揮。前衛でも、相手ブロッカーをうまく利用した技ありのプレーで貢献した。堀江は、レシーブはもちろん声でチームを奮起させ、キャプテンシーを大いに発揮した。
まさに“職人”と言わんばかりの丁寧なプレーと心意気で、チームの窮地を幾度も救った二人。そんな“職人”について、「村本はとても頭がいい。この選手が抜けたら確実にチームが変わってしまいます」とアナリストは目を輝かせ、有力なスパイカー陣も「二人が味方でよかった」と、そろって口にした。
堀江と村本、思い合う二人の絆
その村本、実は、昨年からアウトサイドとして練習を始めていたが、リベロ堀江のケガも重なり、昨年の中盤からはリベロとして活動していた。そして、全日本インカレでは、ベストリベロ賞を受賞する活躍。リベロとして練習を重ねる中での苦悩を乗り越え、チームをインカレ優勝へと導いた。
そうして、手術と厳しいリハビリを乗り越えた堀江が復帰。村本は、今年から本格的にアウトサイドへ転向した。洛南高時代に経験はあるものの、大学でアウトサイドとして試合に出場するのは今年の春季リーグ戦から。村本自身は、「自分たちが4年生になったらアウトサイドが足りないな、と思ったんです。大塚が来るとわかっていましたが、“もう一人、誰?”って(笑) 堀江は将来、日本代表でリベロをしないといけないレベルの選手なので、自分がやろうと思いました」と笑いながら話したが、松井泰二監督は“そうではない”と断言。「彼は謙遜してそう言っているのかもしれませんが(笑) 間違いなく、彼でなければできないポジションです」(松井監督)
こう語る村本に対し、堀江は、「去年は涼平(村本)に本当に迷惑をかけたので、“ごめん”と思っていて…。でも、二人がうまく組み合わさって守備ができればいいものができる、というイメージが自分にはある。涼平は僕にできないことをいっぱいできるし、その分、涼平にできないことを僕にはできる。なので、これからもっと二人で頑張っていきたいです」と、熱い胸の内を語った。
中学、高校と全国大会で切磋琢磨してきたライバルと、大学では仲間として——。様々な経験をしてきた中で、二人の間には強固な“絆”が築かれていた。
“僕たち”がチームを支える
元気に声で盛り上げる堀江と、おとなしく淡々とプレーをこなす村本。「たまに、“もっと声出せよ”とイラつくこともありますが、それが涼平やから(笑)」と、堀江ははにかむ。それに対して村本は、「アウトサイドはやっぱり疲れますね。僕はあまり目立ちたくないので…(笑)」と照れ笑い。それでも、今後の意気込みを尋ねると、「守備で堅さを作っていきたい」と二人は口をそろえた。
まったく対照的な二人だが、試合となると阿吽の呼吸でコートを守り抜くからまたおもしろい。
互いにないものを補い合いながら、チームを支える。そんな二人は、大学バレー最後の年、仲間と共にどんな花を咲かせるのだろうか。苦楽を共にし成長を続ける“僕たち”は、また新たな物語を紡ぎ始めた。(取材:永見彩華)