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春高2025

観戦記『イタリア男子/この深き愛に包まれて』

  • コラム
  • 2018.10.10

最後は奇跡を信じて、イタリア男子はポーランドとの一戦へ

 

名実ともに世界トップレベル。それでも…

 

 その応援団に囲まれてプレーする、選手たちの表情は幸せそうだった。ミラノで先発出場も果たしたベテラン、ガブリエレ・マルオッティは感謝の気持ちを言葉にした。

 

 「イタリアでは一般人でも、バレーボールを楽しんでいるんだ。ほんとうにアメージング。だから、ベストを尽くすこと、それが僕たちにできることなんだ」

 

 また、試合後にコートから選手たちがあらかた引き上げても、最後の最後までファンの一人一人と触れ合っていたのは、リベロのサルバトーレ・ロッシーニだった。

 

 「チケットは完売だよ。びっくりさ。僕たちのプレーを、大勢の方が見にきてくれる。それはなんて幸せなことなんだろうね…!」

 

 ミラノではロシアに敗れたものの、いよいよファイナル6(3次ラウンド)から決勝まで行われる最終決戦の地、トリノへ。だが、そこで待っていたのは、辛い悲しみだった。

 

 3チーム1組で争われるファイナル6初戦のセルビアに完敗を喫し、続くポーランド戦で1セットを奪われたことで、夢は敗れた。

 

 ここぞの場面で決めるザイツェフのサービスエースは強烈だった。ユアントレーナのスパイクは力強く、フィリッポ・ランザのそれはハンマーで叩きつけるかのよう。セッターのジャネッリの、ときに見せるツーアタックは切れ味抜群。ミドルブロッカーのダニエレ・マッツォーネやシモーネ・アンザーニは前衛で壁となり、速攻も決めた。リベロのマッシモ・コラーチは体を張ったレシーブで、チームをもり立てた。

 

 レギュラーだけでない。マルオッティはいぶし銀のプレーを見せ、リリーフサーバーとして投入されたミケレ・バラノビッチはそのサーブで相手を揺さぶった。巨人のごときガブリエレ・ネッリは、そのパワーを見せつけた。

 

 強さはあった。けれども、それより上がいた。だから、彼らは勝てなかった。

 

ポーランド戦の第1セット、アンザーニ(コート奥)のクイックがブロックされた瞬間、戦いは終幕した

 

ここはイタリア。無限の愛が注がれる

 

 世界一のタイトルという、最高の形でアッズーリたちはファンの期待に応えることができなかった。ポーランド戦の第1セットで現実を突きつけられた以降は、観客たちの声もやはり、どこか悲しさが混じっていた。イタリアはフルメンバーで戦い続け、フルセットで勝利はしたが。

 

 試合が終わり、ザイツェフがマイクを手に感謝の気持ちを述べて、ようやく熱気を取り戻した。ただ、それは、この大会での最後の、代表チームとファンとが思いを共有する時間だった。

 

 悲しいエンディングだった。それでも、代表チームを愛してやまないファンたちの心は常にあったのだろう、そう思えた場面がある。

 

 9月28日。最後のポーランド戦、きわめて厳しい状況に置かれていることは試合前から明らかだった。その国歌斉唱で、選手たちは声を上げ、スタンドの観客たちも大声を出す。

 

 その途中で、国歌『マメーリの賛歌』のBGMが途切れた。

 

 それでも誰一人歌うことをやめず、そこからは会場中が手拍子を鳴らし、選手もファンも、全員が、最後まで歌い上げた。

 

 『これが愛するイタリアだから。オレたちワタシたちの、アッズーリだから!』

 

 きっと、そんな愛とともにつづられた、3週間に及ぶ戦いだったのだ。(文・坂口功将<編集部>)

 

国歌斉唱の際、スタンドはイタリアカラーの照明で彩られた

 

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