[第72回春高バレー]
■東九州龍谷高・荒木彩花に、大好きな先輩が贈るメッセージ
『第72回全日本高等学校選手権』(春高バレー)が1月5日に開幕した。6日には2回戦が実施され、シード校も登場。そのうちの一校に、名門・東九州龍谷高(大分)がいる。春高バレーでは直近2大会で銀メダルを手にしているが、同時にそれは、優勝まであと一歩届かずにいる悔しさを意味している。
今シーズン、東九州龍谷高のキャプテンを務める荒木彩花は最も頂点への思いを募らせているといっても過言ではないだろう。春高バレー本番を前に荒木は「去年、一昨年とセンターコートを経験しているので、今年でその歴史を崩すわけにはいかない、という思いは大きいです」と胸の内を明かし、こう続けている。
「ことわざにも『3度目の正直』ってあるじゃないですか。今回で私にとって春高も3回目なので、その言葉どおりになるような気持ちでチームを導けたらな、と思うんです」
荒木の中で、春高の舞台は悔しさと併せて、強烈な記憶として刻まれている。振り返れば、1年生時はまだ成長途上にあり、公式戦でプレーする機会は多くなかった。自身にとって春高バレーのデビューは、オレンジ色のセンターコートで、それも優勝を懸けた決勝戦だった。
「センターコートに立つことが私の目標だったのですが、欲を言えば、自分の取り柄であるブロックで点を取りたい、とは思っていました」(荒木)と試合に臨むと、第2セット途中から出場を果たす。果ては相手の金蘭会高(大阪)のキャプテン林琴奈(当時/現JTマーヴェラス)のスパイクを見事にブロックシャットしてみせた。
この大舞台での経験を糧にメキメキと成長を遂げ、2年生時にはチームの主軸として台頭。相原昇監督(当時/現女子U20日本代表監督)から「跳ぶ時のステップや腕の使い方、判断力を学ばせていただいた」(荒木)というブロックは絶対的な武器となった。そうして臨んだ2年目の春高バレーで前年に続き、決勝のコートへと挑んだ荒木には「成績がほしい」という願望ともう一つ、思いを強くしていた。それは「今まで引っ張ってきてくれた3年生を勝たせてあげたい」というものだった。
荒木が2年生時、1学年上には憧れの平山がいた
当時の3年生で主力を務めていたのが、現在はV.LEAGUEの久光製薬スプリングスに所属する平山詩嫣。荒木にとって1学年上の平山は親しく接することができ、憧れの存在でもあった。同じミドルブロッカーとして試合では対角に入り、荒木は「目の前にいるお手本の先輩が平山さん。自分にとっても一緒にプレーさせてもらうことは、大きく成長できるチャンスでもありました」と言ってやまない。
実は2人が出会ったのは、中学生時代のころ。福岡県出身どうしであり、県の選抜でチームメイトになったことがきっかけだ。その当時のことを、平山はこう振り返る。
「それまでは、存在も知らなかったんです。私が中学3年生の時の県選抜のトライアウトで、“私より大きな選手がいる!?”って驚いたくらい。しかも聞いたら、2年生で。身長の順番で並んだら、絶対に前にいるんですよ(笑) ただ、そういう時に声を出すのは、いちばん背の高い人、みたいな決まりがあって。そのころはまだ、あやか(荒木)も何もわからずにいたので、私からちょっと声をかけたりしたのが始まりですね」
当時、荒木はバレーボールを始めて2年足らずであり、平山の存在が助けになったことは想像に難くない。
そんな大切な存在と臨んだ春高バレー。荒木は準決勝で下北沢成徳高(東京)を下した後に、ホテルで平山からかけられた言葉を胸に留めている。
「『私の対角はあやかしかいないと思ったし、あやかがいてくれたおかげで勝てたんだよ』。そう言ってもらえたのが、うれしかったです」(荒木)
「最後は3年生の気持ちが鍵をにぎる」。平山が伝えたいこと
荒木が憧れている、そう言うと平山は照れくさそうに「そうなんです。私のこと、めっちゃ好きみたいです」と笑う。平山にとって最後の春高バレーは悔しい結果に終わったが、以降も荒木とは交流を持っている。また、昨夏には女子U20日本代表メンバーとして女子U20世界選手権を戦った。そこでは平山も、荒木の存在を強く感じていた。
「あやかは控えのミドルブロッカーだったのですが、私がリベロチェンジでアップゾーンに戻るたびに、声をかけてくれて。相手の動きを教えてくれたり、私からも“ここを見てほしい”と伝えていました。
バレーボールに関しては先輩後輩も関係なく、はっきり言ってくれるんですよ」
平山にとって、荒木はどんな存在か? どうやら答えは出ない様子だ。
「いい感じの関係。後輩だけど、仲間でもあるし…、そういう存在。名前はつけがたいですね」
東九州龍谷高時代、平山は今の荒木と同様にキャプテンマークをつけていた。同じ立場、同じポジションだったからこそ、シーズンの集大成に向けて、かけられる言葉がある。平山はこう話した。
「最後は気持ちかなと思うんです。もう伝えてはいるんですけどね、最後は3年生だから、って。後輩たちに助けてもらうことはあっても、大事な時は絶対に自分で決めにいく気持ちを持っていかないといけない。そうしたら、絶対にミドルブロッカーって出番が回ってくるんですよ。気持ちがある選手にチャンスは巡ってくる。だから、それを逃さないようにしてほしいです」
真紅のユニフォームをまとい、代々3年生たちが紡いできた栄光と勝負師の心。荒木がそのハートをより強くプレーで表現したとき、“3度目の正直”を叶えるチャンスはやってくるはずだ。
(取材・文/編集部 坂口功将)