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第72回春高/鎮西高・水町が見せた最後の姿

[第72回春高バレー]

■鎮西高・水町泰杜 最後の舞台で取り戻した本来の姿

 1月5日に開幕した『第72回全国高等学校選手権大会』(春高バレー2020)は、7日までに準々決勝が終わった。センターコートを目前にして敗れた選手の一人が、鎮西高(熊本)の水町泰杜。今大会で最も注目を集めたプレーヤーである。

 春高バレーでは1年生時に優勝を経験し、名門校のエースとして高校バレーボール界を沸かせてきた。高校生活最後の大舞台で彼が見せた姿とは

(※カッコ内の所属は現在のもの)

水町泰杜(鎮西高3年/身長182センチ/アウトサイドヒッター)

かつて口にした、バレーボールにおける“楽しさ”

 

 水町泰杜の中で、バレーボール人生における最高の時間の一つとして今も胸に刻まれている大会がある。それは中学3年生時に熊本県選抜で臨んだJOCジュニアオリンピックカップ第30回全国都道府県対抗中学大会(JOC杯/2016年)のこと。

 

 この大会では、のちに鎮西高で一緒に戦うことになる谷武珍や荒尾怜音、前田澪といった「どんな場面でも楽しめるチームメイトたち」(水町)と頂点を目指した。

 

 その道のりでは強敵たちと剣を交えた。例えば、予選グループ戦では砂川裕次郎や橋本岳人(ともに埼玉栄高<埼玉>)という交友関係を持つ選手がそろった埼玉県選抜と対戦。決勝トーナメントでは最終日のベスト4進出を懸けて、佐藤隆哉や阿部晃也(ともに東北高<宮城>)ら強力アタッカーを擁する宮城県選抜と激突した。決勝では、のちに日本代表のアンダーエイジカテゴリーで仲間になる伊藤吏玖や森居史和(ともに駿台学園高<東京>)の東京都選抜が立ちはだかった。それでも終わってみれば失セット0での優勝を成し遂げた喜びは格別だった。

 

 その中で、水町は持てる力を存分に発揮した。当時の身長は179センチと目立って大きい数字ではなかったが、最高到達点320センチに届くほどの打点から繰り出されるスパイクは強烈の一言。また、スパイクの助走時にはステップごとにフェイントをかけることで相手ブロッカーを揺さぶる。前衛・後衛を問わずアタックに入り、得点を重ねた。

 

 そうした一つ一つの動作に工夫を施し、試合の駆け引きを制すること。それは水町にとって、バレーボールをする上で感じる楽しさそのものだった。

 

 「駆け引き、大好きなんですよ。それに23-24で負けている時のほうが楽しめる。負けるかもしれない状況の中で、自分に何ができるか、それ自体がプレーを上達させる機会だと思うんです。大差をつけて勝つよりも、競って、競って、それを取った時のほうがやっぱりうれしいですから。その駆け引きが楽しいです」

 

 そう話す水町は、にんまりと笑顔を浮かべるのであった。

笑顔を弾けさせながらプレーしたJOC杯
仲間たちと最後の春高バレーに臨んだ

高校二冠から一転。抱えた悩みと、迎えた最後の春高バレー

 

 県の名門・鎮西高に進学後は即戦力ルーキーとして、すぐにレギュラー入りを果たした。1年生時には、キャプテンの鍬田憲伸(中央大)とダブルエースを形成し、インターハイと春高バレーの高校二冠を達成する。鍬田が卒業した後は伝統のキャプテンマーク『3』を身につけた初めての2年生となった。だが、そこからは苦難の時期が続く。

 

 2年目はインターハイ、春高バレーでいずれも準決勝敗退。3年目になってからは、仲間たちの成長を感じつつも、九州大会で敗れるなど苦い思いを味わった。同時に水町も大小含めた怪我の影響のため、満足にプレーができない時期も。

 

 昨年の夏ごろには、ふと「最近、バレーボールがあんまり楽しくない。というよりも嫌なんです、自分らしくないのが。自分の中で波があって、チームも結果が出せていない。バレーボール自体が嫌になったわけではないけれど…」と打ち明けたこともあった。

 

 勝ち負けがある以上、もちろん「優勝は狙うもの」と水町。だが、「以前は負けたらどうしようもないくらい悔しかったのに、今はそれほどです」(水町)という言葉からは、2年生以降で過ごしてきた時間がいかに悩ましいものだったかが伺える。

 

 それでも高校生活最後の春高バレーを控えた昨年11月下旬、水町はこのように意気込みを語った。

 

 「これで最後という実感もあるようで、ないような…。でも、頑張らないと。楽しみですよ!! 組み合わせも激戦区になると思うので(笑)

 最後は意地を出さないといけない。その上でやることをやって、終わりたいです」

 

 その1週間後、組み合わせ抽選が実施され、1回戦では天理高(奈良)との対戦が決定した。いざ迎えた本番、「エースどうしの打ち合いになるだろうな」(水町)と踏んだ天理戦は、開始直後のファーストプレーで相手ブロックにつかまった。以降もスパイクでは跳び上がってからのスイングに力が入り、ボールをうまくコントロールできず。仲間の奮闘もあり勝利したものの、試合後、水町は「りきみ過ぎでした…」と肩を落とした。その一方で、はっとした表情でほほえんだ。

 

 「最後の実感はそれほどない、って言ったじゃないですか。でも…、明日も試合があると思うと、めちゃくちゃうれしいです」

 

埼玉栄高の砂川(コート手前)と空中戦を繰り広げる

大会本番、チームメイトへの突然の告白

 

 翌日2回戦の相手は埼玉栄高。かねてから水町が「一緒にバレーボールをするのが楽しい」と言っていた、砂川や橋本が相手コートにいた。この試合の第1セット開始早々、水町はローテーションで隣に並ぶ谷に言葉を発した。

 

「やばい。バレーボールの試合で、オレ、初めて緊張している」

 

 水町とは小学生時代から中学校、JOC杯、高校と同じチームで過ごしてきた谷にとって、それは初めて耳にした言葉だった。

 

 「しかも試合中にいきなりだったので、思わず笑ってしまいました。マジか、って。

 たぶん本人も、りきんでいる自覚はあったんでしょうね。ほどよく力を抜いてくれたら調子も上がってくる、とは思ってはいましたが」(谷)

 

 谷の不安は的中し、この試合でも、りきみは取れないままだったが、水町は埼玉栄戦を「ドキドキしていました」と振り返った。ネットを挟んで友人たちと対戦する、そこには抑えきれないほどの高揚感があったのだ。

 

 そして迎えた大会3日目。3回戦では今大会出場チームのうち、レギュラーの平均身長が最も高いと評される東北高と対戦。佐藤や阿部らが、猛然とスパイクを打ち込んできた。それに対抗するように、水町も果敢にアタックに入る。フルセットにもつれた激闘は局面が進むにつれ、その顔からは疲労も見えたが、「出し切らないと東北高には勝てなかったので」(水町)と、30得点越えのパフォーマンスで勝利に導いた。

 

 試合が終わり、サブコートでは入念に体をケアする水町の姿。この日はダブルヘッダーで、続く準々決勝には優勝候補の駿台学園高との対戦が控えていた。

 

最後の笛が鳴るまで、コート上で躍動した

駿台学園高との準々決勝。全開プレーを貫き、戦いを終えた

 

 大会前に“激戦区になる”と予想していたトーナメントは、なぞってみれば、かつてのJOC杯で頂点へと駆け上がった道のりを再現するかのような対戦カード。

 

 続く駿台学園高戦で、水町は一段とギアを上げた。というよりも、あの楽しくてたまらなかった大会で見せた、本来のプレーそのものだった。

 

 駿台学園高の組織的なブロックシステムに対して、この大会中はまるで見られなかったステップワークを繰り出して助走に入る。サーブレシーブを返球すると、すぐさま攻撃に転じて、前衛後衛お構いなしにスパイクを打ち込む。

 

 第1セットを落としたが、もう負けられない第2セットの終盤で競り合う中、セットポイントからバックアタックを炸裂。握りこぶしを作り、吼える。すでに勝利への執念は、水町の身によみがえっていた。

 

 この試合で、公式戦ではJOC杯の決勝以来に水町と対峙した駿台学園高の伊藤も、「しっかり3枚ブロックをついても、それを越えてくる。あれだけボールが集まって、自分たちのブロックを攻略して、レシーバーが拾えないくらいのスパイクを打ってくる。彼の強さそのものに、尊敬します」と、そのすごさをあらためて実感するほどだった。

 

 だが、水町の力闘はここまで。第3セット、駿台学園高のマッチポイントから水町はバックアタックに入り、相手ブロックに阻まれてもなお、セッター前田澪から託されるトスを打ち込む。3度目のアタックがブロックされ、ボールがコートに落ちた瞬間、戦いは幕を閉じた。

 

 試合直後はプラカードで隠してはいるものの、大粒の涙がほおをつたった。それでも、すっきりとした顔で、駿台学園高の森居たちへジョークを飛ばしながら会場を去る。

 

 大好きなバレーボールを全身で表現した。勝ちたくて力を振り絞り、負けて感情があふれ出た。

 

 それが最後の春高バレーで、水町泰杜が見せた姿だった。

(取材・文/編集部 坂口功将)

1月17日発売予定の『月刊バレーボール』2月号では

春高バレーの全チーム、全試合を掲載!! 水町選手のほか、大会を彩ったプレーヤーたちの姿も。お楽しみに♪

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