東山の花村と東福岡の柳北。あのときの約束を、今こそ
- コラム
- 2021.01.07
■最後の春高で決着を。東山高の花村和哉と東福岡高の柳北悠李の約束
<東山高の花村>
現在、東京体育館を舞台に第73回春の高校バレーが開催されている。連覇を目指す東山高(京都)でレギュラーの座をつかんだ花村和哉と、同年代を牽引するアタッカーとして名を馳せてきた東福岡高(福岡)の柳北悠李。ともに最高到達点340センチを超えるハイジャンパーとして、今大会注目の2人の間には、長らく育んだ友情がある。
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高校生バレーボーラーにとっての集大成であり、コロナ禍に見舞われた今季でいえば、唯一の全国大会となっている今回の春高。
その晴れ舞台で、3年越しの決着をつけたいと願う者がいる。前年度覇者・東山高(京都)の3年生、花村和哉は声を弾ませた。
「今、1勝1敗なので。あのとき実現しなかっただけに、春高では当たればいいなと思っています」
対戦成績をドローとしている、その相手とは東福岡高(福岡)のエース柳北悠李のこと。固い友情で結ばれた2人の、3度目の対決が叶わなかった“あのとき”とは。時計の針を、彼らが中学生の頃に戻そう。
<東福岡高の柳北>
中学3年生時の全国大会で2度対決
2人が接点を持ったのは、中学2年生時のこと。花村は愛媛県、柳北は福岡、と県こそ違うものの練習試合をする機会が多く、合宿で柳北が話しかけてきたのがきっかけだという。すぐさま意気投合した2人は、合宿の合間もバスケットボールに興じたり、自由に体育館を使える夜には一緒に練習したことも。
当時の力関係でいえば、花村が勝利することが多かった。だが、やがて柳北はメキメキと成長を遂げ、「中学3年生の夏あたりに練習試合をしたときには、それこそバケモノみたいに悠李(柳北)がレベルアップしていたんです」と花村。その年の全日本中学校選手権大会(全中)を前にした合宿での対戦成績は五分五分であり、2人は公式戦での対決を誓い合う。
「決勝か、当たったとしても準決勝で会えたらいいね、という話をしていました」(花村)
宮崎市を舞台に開催された全中ではさっそく、予選グループ戦で同組に入ると初戦で対戦。まずは柳北の板櫃中が2−1(25-21,17-25,25-19)で勝利する。それでも花村の雄新中はグループ戦を突破してみせ、抽選の結果、決勝トーナメント2回戦で両校は再び対戦することに。今度は2−1(21-25,25-15,25-23)で雄新中がリベンジを果たした。
その試合後、涙する柳北から花村は「俺の分は託したから頑張れよ」とエールを受けたが、雄新中も続く準々決勝で駿台学園中(東京)に敗れる。
「ごめん」
託された思いに応えることができず、柳北に謝る花村。すると、返ってきた言葉は、新しい約束だった。
「これで1勝1敗だから、JOCでやろうな」
高校進学後、お互いの立場には隔たりも
3度目の決着をつけよう。その年の暮れに行われるJOCジュニアオリンピックカップ第31回全国都道府県対抗中学大会(JOC杯)で2人は県選抜入りを果たしており、舞台は整った。互いに予選グループ戦をクリアし、決勝トーナメントへ。組み合わせとしては、勝ち上がれば準決勝でぶつかることになる。
だが、このときは柳北のいた福岡県選抜が準々決勝で岡山県選抜に敗れる結果に終わる。花村の愛媛県選抜は準決勝に駒を進めていたが、決着はお預けとなった。このとき花村は準決勝を前にした取材で、このように思いを明かしていた。
「ほんとうはやり合いたかったですけどね。仲がいいんです、柳北とは。だから、明日(準決勝)は、あいつの分まで頑張りたいと思います」
<JOC杯最終日。スタンドには花村(写真手前①)へ視線を送る柳北の姿>
これを最後に、2人による“3度目の決着”のチャンスが再び訪れるまで、しばらくの時間を要した。
中学を卒業後、花村は東山高へ、柳北は東福岡高へ進学し、以降も交友関係は続いた。けれども、それぞれの立場はまるで異なるものへと変わる。柳北は1年生時からレギュラーに抜擢され、個人としても男子ユース(U18,U19)日本代表として国際大会に出場。対照的に、花村は高校でレギュラーの座をつかめずにいた。この隔たりは残酷な現実として、当時の花村の胸に刺さった。
「悠李がユース日本代表に入って、正直すごいなと思いましたし、大会で活躍したと聞いて、うれしかったですよ。でも、自分は何をしているんだ、とずっと思っていました。周りも僕たちが親友どうしだと分かっているけれど、自分は果たして悠李のことを親友と呼んでもいいのかな…、って」
そんななか、いつも励ましの言葉をくれたのは、やはり柳北だったという。やがて高校3年目のシーズンを迎え、花村はレギュラー入りを叶えた。
花村が叶えたい夢。いつか日本代表で−
そんな2人がチームメイトになる機会があった。昨年2月に行われた第17回2020全日本ジュニアオールスタードリームマッチ。高校生の選抜強化事業の一貫として催されたこの大会で、花村と柳北は同じ『チームMAX』のユニフォームを着ている。それは花村にとって、柳北の存在の大きさをあらためて味わうことになった。
「そのとき初めて一緒のチームで試合を戦ってみて、敵としては分からなかった悠李のいいところが見えたんです。それをたくさん吸収できましたし、悠李も自分のプレーを見て、『よかった部分をマネするわ』って(笑)
自分たちは親友なんですけど、いいライバルでもあるんです」
<ジュニアオールスタードリームマッチにて。②柳北と⑧花村>
花村の携帯電話のロック画面は、『ユース日本代表として日の丸をつける柳北のスパイク』。それはこれまでも、そして、今も自分を引き上げてくれる親友の姿である。
「試合で自分の調子が悪かったり、練習でいまいちだったときに、帰ってから携帯電話の画面を見たら、悠李がいる。すると、『負けたくない!!』って、頑張る気持ちが湧いてくるんです。負けたくない、早く追いつきたい。その一心です」
小さい頃から、花村が抱く将来の夢は『日本代表になって、オリンピックで金メダルを獲る』こと。その夢にはもちろん、親友の姿も加わっていてほしいと花村は願っている。
「最終的には悠李と対角を組んで、暴れたいですね!!」
いつか叶えたい壮大な夢。その前に、まずはあのときの約束を果たそう。
3度目の決着は、春高で−。
勝ち上がれば、準々決勝であいまみえることになる。3年越しの思いは結実するか、果たして。(文/坂口功将<編集部>)
<中学3年生時のJOC杯にて。夢とともに、花村は親友との約束を果たさんとする>