サイトアイコン 月バレ.com【月刊バレーボール】

VC長野・山本憲吾がハッスルプレーに込めた思い

 昨年末に開催された『令和2年度天皇杯・皇后杯 全日本選手権大会ファイナルラウンド』から、コート上で奮闘を見せたVリーガーの模様をクローズアップする。

 

◆VC長野のリベロ山本憲吾がハッスルプレーに込めた思い

山本憲吾(写真中央/やまもと・けんご/1992年6月22日生まれ/身長170センチ/大塚高→中京大/リベロ)

 

 自分がするべきことは分かっていたし、実際にできたことはあった。だけど、それは到底満足できるものではなかった。ゲームが終わり、悔しさが胸を締めつける。

 

 12月11日、天皇杯ファイナルラウンド1回戦。VC長野トライデンツのリベロ山本憲吾はFC東京との初戦に敗れた直後、唇をかんだ。

 

 懸ける思いは強かった。

 

 この試合の1週間前、チームはVリーグでFC東京との2連戦に臨み、いずれもフルセットの末に敗北を喫していた。それでも天皇杯に向けては「負けた原因を確認して準備してきました。みんなが今回は絶対に勝つんだ、という気持ちでいました」と山本は振り返る。平日は個々がバレーボールとは異なる仕事に携わる中、週末の激闘は大きな疲労として残っていたが、それ以上に、三度、同じ相手に負けてなるものか、と気合いを奮い立たせた。

 

 一方で、この日は舞台が異なった。先のVリーグはアウェーとはいえ有観客だったが、天皇杯ファイナルラウンドの第1週(1回戦〜準決勝)はコロナ禍を鑑み、無観客での開催に。それがチームの出鼻をくじく要因の一つとなった。

 

 「自分たちで雰囲気を作らなければいけないという、無観客で試合を戦うことの難しさを感じました。そうして、相手は先週どおりの戦いをしてくる中で、自分たちは“何かを変えなければいけない”を求めすぎた。いろいろと考えているうちに、自分たちで崩れてしまいました」と山本。

 

天皇杯1回戦に臨んだVC長野。写真左から2番目が山本

 

ベンチに飛び込んでまで、ボールをつなごうとした

 

 このとき、コート上には停滞感が漂っていた。考えすぎるあまり、「次に何をしなければいけないか」という話し合いもなされぬまま、試合は淡々と相手ペースで進んでいく。

 

 そんな苦しさの中、“何かを変えよう”と足を動かしたのが山本だった。それはたった一つのプレーだった。コートの外、ベンチからアップゾーンあたりにまで飛んでいったボールを山本は懸命に追いかける。そこにはリベロを務める男の矜持があった。

 

 「自分は点数を取ることができないので、『たとえ自分の体がボロボロになっても、スパイカーが得点してくれればいい』とは、ずっと思っています。でも、今日はできなかった。あのワンプレーしか、できませんでした」

 

 1本のパスでも雰囲気を変えることはできる。そのことは、開幕から11連敗と苦しんだ今季のVリーグで待望の初勝利をあげた、11月29日のパナソニックパンサーズ戦で味わっていた。「勝つためには、相手よりもいいパフォーマンスをして、会場が盛り上がるようなプレーをしないと簡単には勝てない」のだと。

 

 だからこそ、変えたかった。たとえベンチに身を投げ出そうとも、コート上の雰囲気が変わるならば。仲間たちの、暗いムードを振り払えるならば。

 

 年が明けてVリーグは再開したが、昨今の情勢ではこの先、無観客の開催が増えたとしてもやむをえない。そして、この先もリーグ戦は2ヵ月近く続き、戦いはより厳しいものとなる。それでも、「チームの盛り上がるプレーは、バレーボールでいちばん大事なもの」と言ってやまない山本が見せたようなプレーを一つずつ積み重ねていくことで、道は切り開けるはずだ。(取材・文/坂口功将〔編集部〕)

 

コート上では最年長としてプレーする場面も。その分、思いを強くし、チームをリードする

 

**************

『令和2年度天皇杯・皇后杯 全日本選手権大会』ファイナルラウンドのダイジェストは、本誌2月号に掲載!

お求めは【NBPオンラインショップ】まで

モバイルバージョンを終了