昨年末に開催された『令和2年度天皇杯・皇后杯 全日本選手権大会ファイナルラウンド』から、コート上で奮闘を見せたチームの模様をクローズアップする。
◆富士通が“明るく、楽しく、そして強く”、世界最高峰と対峙した日
天皇杯ファイナルラウンド1回戦、富士通(写真コート手前)vs.WD名古屋(写真提供:JVA)
選手たちにとって、かつてない体験だったに違いない。昨年12月11日、天皇杯ファイナルラウンド1回戦でV.LEAGUE DIVISION2 MEN(V2男子)の富士通カワサキレッドスピリッツは、同DIVISION1 MEN(V1男子)のウルフドッグス名古屋と対戦した。
過去にも富士通は、天皇杯や黒鷲旗などの国内大会のほか、上位リーグとの入れ替え戦でトップカテゴリーに相当するディビジョンのチームと対戦したことがある。現在はV1に所属するためのS1ライセンスを保持していないことから、現行ルール上、入れ替え戦に進むことはない。それでも、昨季までにリーグ3連覇を成し遂げるなどその実力は確かなもの。そして、チームのモットーである『明るく、楽しく、そして強く』をコート上で体現する姿に魅了されるファンは少なくない。
そんな富士通が今回、天皇杯で対峙したWD名古屋には世界で指折りのアタッカーであるバルトシュ・クレクがいた。そのことに、富士通の栁田百織キャプテンは「こんなすごい選手と試合ができることが幸せです」と口にした。
クレクといえば世界王者ポーランド代表の一員であり、2018年の世界選手権MVPである。今季からWD名古屋に加入し、V.LEAGUEでも、そのアタックとサーブで猛威を振るっている。そのすごさをこの日、富士通の選手たちはまざまざと味わった。
クレク(写真左端)を前に、攻撃を仕掛ける富士通(写真提供:JVA)
世界トッププレーヤーをブロックシャット
高く、速く、力強い。世界最高峰のバレーボール選手のパフォーマンスは富士通の選手を未体験ゾーンにいざなった。ある場面では、クレクの強打が栁田を直撃した。上半身全体でボールを受け止めたものの、その衝撃で体はゴロリと後ろに一回転。栁田の顔からは思わず笑みがこぼれた。
「びっくりしました(笑) ボールの速さというよりも、角度がすごかったですね。ネット越しに、“絶対にここにはこないだろう”という場所に立っていたのですが、強打が飛んできたので。ちょっとこれはどうしようもないな、と笑ってしまうくらいでした」
とはいえ、やられっぱなしではなかった。試合終盤にはクレクのアタックを、加藤大雄がブロックシャット。チーム全員が、無邪気に遊ぶ子どものように飛び跳ね、その一点に歓喜した。
結果として0−3(17-25,25-27,18-25)で敗れたが、試合後に栁田は「ラリーを得点につなげることができた点はよかった」と手応えを口にした。勝負事である以上、勝利を目指すのは当然だ。と同時に、富士通の選手たちが抱いていたのは、「相手のカテゴリーに関係なく、V2らしい“速くて、おもしろい”バレーを繰り出して、どこまで通用するか」(栁田)という純粋な探究心。
“明るく、楽しく、そして強く”リーグ連覇を目指すチームにとって、世界トッププレーヤーとの攻防は強烈で、それでいて痛快だった。(取材・文/坂口功将〔編集部〕)
クレクをブロックし、歓喜する選手たち(写真提供:JVA)
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