早稲田大・中澤恵が石川真佑に学び、育むエースの心
- コラム
- 2021.01.28
同級生の石川真佑からのアドバイス
そうした悔しさに苛まれることもあったが、「自分から学びにいかないと成長できない」と感じた中澤は、自身を成長させてくれる教科書が身近にあると気づいた。中学・高校、日本代表のアンダーエイジカテゴリーを経験したことで、交流ある面々のレベルの高さは言うまでもない。そこで連絡をとったうちの一人が、現在はVリーグの東レアローズに所属する石川真佑だった。
石川は2019年に女子U20世界選手権で初優勝をもたらし自身もMVPに輝くと、その後のワールドカップバレーではシニア代表としてセンセーショナルな活躍を見せていた、同年代を代表する存在。2020年はコロナ禍とあって直接会うことは難しく、電話での連絡だったが、そこでアウトサイドヒッターについて質問をぶつけた。
「そもそもレフトからはどのように打てばいいのか?」
「どういう練習をしているのか?」
そうした問いかけに石川は親身になって答えてくれたという。ほかにも石川の代名詞ともいえるクロス方向や超インナーの打ち方、またブロックアウトを取れる確率が上がるボールの叩き方、といった多くのアドバイスを受けた。
「そう教えてもらって、マユ(石川)のプレーを映像で見ると、『こういうことか!』とさらに納得できました。ありがたい存在でした」と中澤は感謝する。
そもそも中澤にとって石川は、他の誰よりも“エース”だった。同級生として過ごした裾花中時代、その存在の大きさに間近で触れている。
「マユは、ただエースの名前をつけているだけではないんです。『自分がエースなんだ』という思いは、プレーでも言葉でも常に持っていました。ほんとうに頼りになりました」
2018年のインターハイ決勝、石川(写真左)のアタックは3枚ブロックでも止めることができなかった(写真コート右、中央のブロッカーが中澤)
エースという役目を果たす、それが目標
一方で、石川のエースとしての凄みをいっそう感じたのは高校時代だった。中澤は金蘭会高、石川は下北沢成徳高(東京)でともに下級生時からレギュラー入りを果たし、全国の舞台で何度も対戦している。そのたびに、「すごく意識します」と高校3年生の中澤は明かしていた。と同時に、それは悔しい記憶を伴うものだった。
「2年生の春高準決勝で勝ちはしましたが、マユはブロックに入った自分の手が届かないくらいのインナーを打ってきました。それでも止められず、3枚ブロックでようやく止められるくらい。意識しても止められないコースに打ってくるのは、相手としては嫌。それに友達だから意識もするし…。けど、成徳に勝つにはマユを止めないといけません」
その後、高校3年生時のインターハイ決勝では、石川のアタックを止めることができず、リベンジを許している。
仲間なら誰よりも頼りになり、敵だと誰よりも脅威になる。それが中澤の抱いた、石川真佑というエース像だった。
「その姿を見てきたし、一緒にプレーもしてきたから、私の頭の片隅にもあるんです。エースは何をすればいいのか、って。ああいう存在になるのは何が足りないのか、という道筋が見えます。だから、今の私にとってエースとは、乗り越えなくてはいけない“壁”ではなくて、“頑張りたい”と思えるものなんです」
そう話す中澤は、大学生活で研鑽を積む日々を過ごす。アタックではレフト方面だけでなくバックアタックに取り組み、ウエイトトレーニングで体づくりにも励む。また、全日本インカレ4連覇を遂げた男子バレーボール部の練習にも交ざり、女子では味わえない高さや強さを経験することで、自身の成長につなげている。
「エースという役目をきちんと果たせる選手になる、それが大学での大きな目標です」と中澤。じきに大学3年目が始まる。コート上で見せたいのは、仲間が上げたボールを決めきる、エースの姿だ。
(文/坂口功将〔編集部〕)
大学3年目は副キャプテンを務める。責任は増すが、それも自身のレベルアップの糧にする(写真は昨年のもの。提供:関東大学バレーボール連盟)