さまざまな全国大会が中止になり、一発勝負となった春高で、選手たちはなぜ力を発揮できたのか。月刊バレーボール3月号(2月15日発売)では、3章にわけてその要因に迫る。第1章では「頂点に導いた信念」をテーマに、男女優勝チームを深堀りする。
今年度最初で最後の全国大会となった春高。男子優勝の東福岡(福岡)、女子優勝の就実(岡山)には、チームを日本一に導いた信念があった。
決勝では3-1で駿台学園(東京)を下し、東福岡は5年ぶりの日本一に
「日本一への願望」をかなえたバレーノート(東福岡)
東福岡の選手たちは、鬼気迫る表情で戦っていた。3年生でコートに立つのはエースの柳北悠李のみ。それでも、下級生たちのプレーは最後の大会に挑む3年生のように映った。その姿を見ていると、大会前に聞いた藤元聡一監督の言葉が思い出された。「『日本一になりたいか』と聞けば、『なりたい』と言う子は全国に何万人といると思います。でも、実際に寝ても覚めてもそんなことばかり考えている人間は多くない。これまで優勝したときは僕と子どもたちの『日本一への願望』がいつも同じくらいでした。今の2年生はそのときにかなり近いです」。
2015年には永露元稀(ウルフドッグス名古屋)を中心に、春高初優勝を含む三冠を達成。その翌年の春高では連覇した。春高では2度の優勝を経験していた藤元監督が、永露がいた代と同じような強い「願望」を感じていたのが2年生たちだった。中でも、言動でチームを引っ張る葭原昂大と坪谷悠翔については、「2人の書くノートはすごいですよ」と称えていた。
その「ノート」とは、バレーノートのこと。形式は決まっておらず、書き方は選手によってそれぞれ。藤元監督は目は通すが、必ずコメントを書いて返却するわけではない。ノートを書くこと自体ではなく、選手自らの成長の過程を記録することを目的としているからだ。日本一への強い思いを実現するための一つの手段として、選手たちは毎日書いている。
2年間でそれぞれおよそ10冊にも及ぶ葭原と坪谷のノート。この1年に書かれた文章を読むと、プレーへの反省だけでなく、心境の変化も見えてくる。
≪ノートで日本一、生活習慣で日本一、トレーニングで日本一の取り組みをこの臨時休校の期間で遣り続けることで夏の日本一に一歩ずつ近づいていくと思う≫
≪インターハイはなくなったけど、その分春高までの期間は延びた。練習が再開したら自分が引っ張る側に入り、チーム全員が同じ方向に向くようにする≫
さまざまな葛藤を乗り越え、強い思いでたどり着いた頂点。本誌ではノートの一部を掲載し、そこから1年の歩みに迫る。
伝統校の不変のテーマ「基本に忠実に」(就実)
就実の試合では「基本に忠実に」と書かれた横断幕が掲げられた
就実のコートサイドには、「基本に忠実に」と書かれた横断幕が掲げられている。これは、就実高3年生時にインターハイと国体を制した西畑美希監督が高校生だったころから変わらないモットーだ。2015年に指揮官になってからも、西畑監督はその言葉を大切にしている。「難しいボールを捕るのではなくて、誰でもできるような当たり前のプレーを当たり前にすると習ってきました。それは私も大事だと思っています」。
昨年は対外試合を行えず、実戦感覚を磨けない中で、重視したのが基本となるつなぎのプレー。「例年の倍は取り組んだ」(西畑監督)という成果もあり、今大会では安定したレシーブから最優秀選手賞に輝いた深澤めぐみやその双子の妹のつぐみ、周田夏紀らの攻撃につなげた。「当たり前」のプレーを磨くことで、25年ぶりの優勝を飾ることができた。
リオデジャネイロオリンピックに出場し、日本代表に欠かせない選手の一人である石井優希(久光スプリングス)も、就実で過ごした3年間が今の土台になっているという。周田と深澤ツインズとの座談会を通して、メッセージを送った。
「当時は朝練でサーブレシーブ30分、サーブ30分のメニューをやっていたけど、そこで固めた基本は今でも変わらず大事。『基本に忠実に』というテーマは今後も絶対に生きるので、今の気持ちのまま頑張ってもらいたいです」
卒業してもなお胸に刻まれる「基本に忠実に」という言葉。そのモットーを軸に、選手たちの座談会と西畑監督のインタビューを通して優勝を振り返る。
(文/田中風太〔編集部〕)
レシーブする小林なづな。安定したつなぎのプレーで攻撃に流れを引き寄せた
2月15日発売の月刊バレーボール3月号では、東福岡はバレーノート、就実は周田夏紀選手、深澤めぐみ選手、深澤つぐみ選手と石井優希選手の座談会から、優勝の舞台裏に迫ります。そのほかにも、連続写真を見ながら選手どうしがプレーを解説する「春高戦士に学べ」、今年度の高校男子バレー界を引っ張りながらも無念の棄権となった東山(京都)について語る「東山への思い」など、大ボリュームで春高を振り返ります。