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埼玉アザレアでデビューの中野竜が放つ“牛若丸”の輝き

 V.LEAGUE DIVISION2 MEN(V2男子)も2020-21シーズンは終盤戦に突入した。この時期になると、各チームの内定選手が登場する試合も出てくる。その中で、今回取り上げるのは埼玉アザレアに新たに加わった中野竜。身長は180センチと決して高くはない。だが、ひとたびコートに立てば、持ち前のジャンプ力を光らせて得点を重ねる。

 

■それはまるで八艘飛び!? 埼玉アザレアの中野竜が放つ“牛若丸”の輝き

中野 竜(なかの・りゅう/中央大4年/身長180センチ/アウトサイドヒッター)

 

 その姿を見て思い出したのは、一つのキャッチフレーズだった。

 

 『牛若丸』。

 

 それは、元日本代表のエース越川優(ヴォレアス北海道&ビーチバレーボール)を筆頭に数多くのバレーボール選手を育てた高校バレー界の名将・壬生義文監督(当時)が指導してきた長野県の創造学園高、現在の名称は松本国際高のエースに対して代々用いられてきた表現だ。

 

 俊敏な動きを武器として数々の逸話を残した平安時代の武将・源義経になぞらえて、『月刊バレーボール』の全国大会出場校名鑑では、跳躍力の秀でたエースの【特徴】の項目に決まって「牛若丸」と記されている。例えば直近でいうと、2019年のインターハイでチームを日本一に導いたエース柳田歩輝(筑波大1年)は「松本国際の牛若丸」と表現されていた。

 

 そのフレーズを創造学園高時代に与えられた一人、中央大のアウトサイドヒッター中野竜がV2男子・埼玉アザレアの内定選手として、Vリーグデビューを飾った。

 

埼玉アザレアのユニフォームを着て、コートに立つ

 

2度目の長野GR戦ではチーム最多得点をマーク

 

 デビューは2020年12月19日の長野GaRons戦。三郷市総合体育館(埼玉)でのホームゲーム、その第3セット途中でリリーフサーバーとしてコートに立った。その後もコンスタントに出場機会を与えられては、最高到達点345センチから切れ味鋭いアタックを繰り出した。

 

 鮮烈だったのは、2月7日の長野GR戦。12月の前回対戦時ではストレートで勝利していたが、この試合では第1セットを奪われる展開に。第2セットも5点リードを許した中盤で、中野に出番が回ってきた。

 

 「デビュー戦で経験している相手ということもありましたし、事前にビデオも見ていました。ですが、前回とはメンバーも異なりましたし、自分がプレーしていない第1セットから相手をきちんと見て、研究していました。どう対応しようか、と考えながら、リラックスした状態でコートに入ることができたと思います」という言葉どおり、冷静にコースを見極めてアタックを打ち込んでいく。

 

 このセットの終盤22-22の場面で中野は後衛にいたが、「セッターの浜田(翔太)さんがトスを上げてくれると信じていました」と積極的に攻撃に参加。結果として23点目、24点目を自身の連続バックアタックによって刻むと、セットカウントをタイに戻す立役者となった。

 

 これで勢いを取り戻した埼玉は逆転勝利に成功。中野は第3セットに24-19のセットポイントからノータッチエースを決めたほか、終わってみれば、この試合でチーム最多17得点を記録する活躍を見せる。試合後の記者会見で、中野はチームへの思いと、プレーができることの喜びを口にした。

創造学園高(当時)のポイントゲッターの一人として名を馳せた(写真中央が中野)

 

大学生活最後の苦難を乗り越えて、Vリーグへ

 

 Vリーグは高校生の頃から、立ちたいと思っていた夢の舞台。その夢の第一歩を授けてくれた埼玉アザレアに対して中野は、「このチームに貢献したいという思いです」と言ってやまない。内定選手として合流まもない状況ではありながら、出番がくれば「若さと元気のよさを出してプレーすることで、チームを盛り上げたい」という一心だ。2度目の長野GR戦も、「第1セットを落としたことでチームの雰囲気も悪くなってしまっていたぶん、みんなを笑顔にさせたいと思って頑張りました」とフレッシュな気持ちをボールにぶつけた。

 

 そうした思いは、バレーボールができることの喜びもあって、さらに高まっている。中央大4年目の2020年はコロナ禍のため、大会は軒並み中止に。大学生活の集大成として息巻いた全日本インカレは、チームに新型コロナウイルス感染者が出たため、出場辞退を余儀なくされた。

 

 「全日本インカレに向けてトレーニングや練習を一生懸命に頑張っていましたが、大会に出られず、とにかく悔しい思いでいっぱいでした。その分、(出場が決まっていた)天皇杯があったので、そこでは同級生たちと一緒に楽しもうと思って、悔しさを乗り越えました」と中野。昨年12月11日の天皇杯ファイナルラウンド一回戦でパナソニックパンサーズに敗れる結果に終わったものの、大学での競技生活に区切りをつけ、入団が内定している埼玉へと向かった。

 

2月7日の長野GR戦で途中出場ながらチーム最多得点をマーク

 

「今はバレーボールが楽しい」。跳躍力を武器に、成長を誓う

 

 コロナ禍は2021年に入っても収まることを知らず、Vリーグでも試合の中止が見られる。リーグ戦が続く中で、どのように状況が転ぶかわからない。そんな中で感じることを、2月の長野GR戦後に中野はこう語っている。

 

 「こうして今日のように試合ができる環境が与えられている中で、ほんとうに楽しくプレーができました。バレーボールができること、今はそれが楽しいです」

 

 春になれば会社に就職し、“仕事と競技の両立”が待っているが、「それをきちんと乗り越えられる社会人になりたい」と口元をきゅっと締める。その上で、目指す選手像を聞くと、中野は言葉に力をこめた。

 

 「跳躍力が持ち味である以上、自分は“跳ばなければいけない”選手です。そして、状況に応じた対応力がなければ、空中戦を制することはできません。跳躍力と対応力を生かして、勝負どころで安定して得点を決めることができる、そんな選手になりたいと思います」

 

 アザレアの牛若丸、ここに現る――。そのように銘打たれる日も、そう遠くないはずだ。(文/坂口功将〔編集部〕)

 

長野GR戦後のコートインタビューに登場し、活躍を誓った

 

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