■トップ選手の意見を聞いて得た新たな気付き
――石川選手との共同開発は、どのようにしてスタートしたのですか?
石川選手の要望を聞きながら開発を進めることで、納得してデサントのソックスを使ってもらいたいな、という思いがまずありました。
また、バレーボールではサポーターとソックスが消耗品。買い替え需要が多いので、石川選手と一緒に開発することができれば、もっといろんな人の手元にデサントの商品が届くかもしれない、という思いもありましたね。ソックス以外でも、共同開発とまではいかなくとも、石川選手の意見を取り入れながら開発を進めています。でも、今回、グッと入りこんで話を聞きながら開発を進めたのが、このソックスです。
――共同開発の際、まずどのような形で選手に提案するのですか?
デサントには既に他のバレーボール用の5本指ソックスがあったので、その商品を持参して石川選手のところへ行きました。その持参したソックスも、つま先の立体構造で特許をとっている商品で、「2cm高く跳べる」高機能ソックスです。自社の研究開発拠点である「DISC(ディスク)」で検証したところ、バレーボールのジャンプはどちらかというと棒高跳びみたいな、“棒をグッと曲げてポンと伸ばす”イメージのスパイクジャンプだったんです。棒高跳びの棒の支点が滑ったら、力が発揮されない。なので、足の指の裏側にシリコンをつけて、跳躍の時にグッと支えられるように設計されているソックスです。
石川選手にこの商品を提案したら、石川選手にはすべり止めが強すぎて「負荷がかかる」との意見をもらいました。石川選手はすでに高く跳べる選手なので、それよりも「長くプレーがしたい」とおっしゃられたのですが、それが、すごく僕の中で響いたんですね。「あ、そうか。日本を代表する選手は、ギアに頼るのではなく、ケガなく長くプレーがしたいんだな」って。
そういうことから話が進み、その後も何度かやり取りをして、最終的に、「この商品を着用したいです」と言ってもらうことができました。
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■当初は競技者向けだった思想を180℃転換 石川選手の思いに導かれた商品
――「長くプレーをしたい」という石川選手の言葉を受けて、発想を転換された。
そうです。僕の中で、この商品は、当初の思想から大きく意図が変わった商品ですね。でも、石川選手のおっしゃられていたことは、「確かにそうだよな」と、納得できる話ですよね。
マラソンなどでも、速く走れる選手ほど、いろいろなギアが外れていくそうです。高いレベルで頑張って速く走りたい人は、段階着圧を付けたりアームスリーブをつけたりするけれど、ほんとうにトップの層になると、ギアが外れていく。石川選手もそういう選手なんだな、と感じました。
――共同開発の魅力はどのようなところでしょうか。
ユーザーに納得してもらえるものが完成したら、うれしいです。でも、開発の段階で意見を言ってもらうことのほうがが多いので、「違ったか~。これじゃなかったか~」と、思うことばかり(笑) とはいえ、そうやってこだわりながらトップアスリートと一つの商品を作っていけることは、いいことだなと思います。
――商品に込めた思い、アピールしたい部分を教えてください。
トップ層だけではなくて、老若男女みんな、上手な人もこれからスポーツをやりたい人も、幅広い世代や環境の方に履いてもらえるようなソックスが完成したと思っています。僕らは当初、「少しでもパフォーマンスを上げるために」と思っていたけれど、そこから違う発想を持って完成した商品。ママさんバレーをしている方や学生さんもそうですし、もちろんトップレベルで活躍する選手たちにも使ってもらえるソックスができたことが、一番の特長かなと思います。
そんな石川選手の「長くプレーできる商品を」という思いを、多くの方に、このソックスを着用していただくことで、実感していただけたらうれしいです。
■石川選手も愛用する5本指ソックスの重要性と立体構造の機能性
――そもそも、なぜ5本指のソックスを開発されたのですか?
デサントの商品開発拠点である「DISC」で検証した結果、バレーボールのジャンプは、“5本指で床をつかむ感じでグッと跳ぶ”という検証結果が出てきてました。ちなみに、ランニングなどで走る時は、親指や人差し指に7割~8割の力が乗って、あとの指はほとんど遊んでいる状態みたいです。スポーツの動作によってこんなにも足の指の使い方が違うのは、おもしろいですよね。
そういう検証結果も含めて、5本指ソックスは、バレーボールをする人たちにはすごく機能的だと考えています。また、石川選手が5本指のソックスを着用されていることと、僕らが5本指ソックスを推奨していたことも重なって、「5本指ソックスを」という点での意見の合致は早かったですね。
――指の部分の立体構造が一番の魅力だと伺いました。
商品を床に置いたときに、指を入れる部分がベタっとしていると、指の間の水かきの部分が“点”であたることになるんです。平たいところが点に当たってしまうので、そこを今回の商品では立体構造にしました。
床に置いた時の見栄えは普通のソックスとは異なりますが、指を入れた時には、水かきの部分が“面”になるというのが、大きな特徴です。点にあたるか面にあたるかで、力の分散され方が違う。“面”のほうが力を分散してくれるので、水かきの部分に負荷がかからないことになります。
――足の裏のアーチサポートなど、その他機能的なデザインも盛り込まれていますね。
ずっと動いていたら、土踏まずが下がってきて足の疲労が蓄積しやすいので、最近では、足裏の締め付けというのは、結構どのソックスでも採用されています。ですので、石川選手に提案していく中で、このアーチサポートも盛り込みました。でも、締め付けがきついと、逆に疲れるので、その加減が程よいソックスになっています。
■ものづくりのモットー 「デザインは機能に付随する」
――モノづくりをする上での、岡野さんのモットーは?
これはデサントの考え方かもしれませんが、「デザインは機能に付随する」と思っています。機能的なものを作れば、それ自体がきれいなデザインになるかな、と思っているので、そこは、デザインに対して大切にしているところです。無駄なことはやらなくていいかな、と。あとは、楽しく仕事をすることが一番ですね。
――それは、デサントの企業理念にもつながってくるところでしょうか。
企業理念の「スポーツを遊ぶ楽しさを」というところでは、今回のソックスもそうですが、パフォーマンスをする選手やスポーツをする人たちが「これを着てよかった」と思える商品を作ることができている。そこは、企業理念に沿っていて、僕もやりがいを感じている部分です。
あとは、先ほどお話ししたのファンの子たちのように、“あそぶ楽しさ”という部分。そこを今後広げていきたいですね。どちらかというとデサントは、「ものづくり! 開発!」みたいに真っすぐになってしまうところがありますが、もうすこしファンの人たちや、今から運動を始めよう、という人たち向けの商品を作っていけたらいいな、と最近は思い始めています。
特に、コロナ禍で多くの人が自由にスポーツを楽しめない状況になったことで「動きたいな」とより強く感じている人がいたり、スポーツイベントなどに影響されて運動を始めようと思う人がいるかもしれません。そういう人たちの、“0から1になる時”を応援してあげられたらいいな、と、最近は強く思っていますね。
石川祐希×デサント共同開発
「5本指スーパーショートソックス」