冷静な男からあふれた熱【リベロがBクイック東京2020オリンピック編】
- コラム
- 2021.09.11
「待て、待て、待て。冷静にだろう」
と思う自分もいましたが、行武アナリストのその声を聞いたときに、熱くなってもいいのではないかとも思い直しました。Vリーグで過去10年間のうち、優勝5回準優勝4回を果たしている百戦錬磨のパナソニックパンサーズのアナリストがこれだけ熱くなっているのです。熱い言葉があふれてはいるが、きっと頭は冷静なはず。ならば熱い気持ちを持って、その上できちんと仕事することもできるのではないかと思いました。もちろん、人によっては声を出さずに気持ちを秘めたまま黙々と仕事する方もいるでしょう。
ただ、この時の僕は、この声に惹かれるものがありました。普段は落ち着いた物腰の方からあふれたその言葉たちは熱を感じさせるものでした。戦いの舞台において発散される熱は、そこまで溜め込んでいた思いがあふれたからこそ、強いものであるように思いました。
アナリストの仕事は試合中だけではありません。1日6試合ある予選ラウンドでアナリスト席に座り続けて、他の試合のデータも取っています。また、それらを分析してチームと共有するために、文字通り朝から晩まで準備すると聞きます。それを日本代表の活動のたびに繰り返し、準備し、きたるべき一戦に備えてきた日々の積み重ねが、いよいよ選手たちに託され、結果となって現れるのです。行武アナリストから発せられる言葉は、その準備で溜め込まれた熱のように感じました。
その後、撮影ポジションを移動した僕はその声を聞けなくなってしまいましたが、日本はフルセットの大激闘の末、勝ちました。勝利の瞬間、選手たちは雄叫びを上げて喜び、しだいに歓喜の輪へと変わっていきました。石川主将はとびきりの笑顔を弾けさせ、中垣内監督は涙を流していました。試合終了後、恒例の選手スタッフも含めた集合写真を撮影し終わった頃でした。行武アナリストがコート内に駆け込んできたのです。もう一度全員の入った集合写真を撮ろうとしたけど、すでに散らばり始めた選手たちを集めることは叶いませんでした。行武さん、ごめんなさい。
集合写真を撮影したコートとは反対のエンド側3階席からここまで走って来たであろう行武アナリストを見ながら、この人はやっぱり熱い人なのだと思いました。そして、次の試合で勝利したら、行武さんも入ってもらって集合写真を撮ろう、と心に誓ったのでした。
29年ぶりの予選突破を決めた男子日本代表。この3分後くらいにコート内に駆けてきた行武アナリストを目撃した
【写真:FIVB】