今夏の全日本中学校選手権大会(埼玉全中)で通算5度目の日本一に輝いた女子の金蘭会中(大阪)。その決勝では主力選手の負傷退場に見舞われたものの、直後の選手起用が見事に的中した。その采配の裏にあったのは、たった一つのシンプルな気の持ち方、だった。
思わずツッコミたくなった 「いきます!!」の即答
冷静に見ればギャンブルだったかもしれない。なにせ、そのポジションでプレーしたことは一度もなかったのだから。石橋光(2年)はベンチからコートのサイドラインに向かったときの胸中を笑いながら思い返す。
「試合に出たい気持ちはありました。でも、やったことがなかったですし、チームの戦い方も全国大会とあって、それまでとは違いました。なので、コートに入るときから緊張していました」
埼玉全中の決勝、北沢(東京)戦は第1セットを獲得し、続く第2セット。サイドアウトの応酬が続いた12-10の場面で金蘭会中はライトの平野シアラ(3年)がプレー中に足を負傷する。そこで佐藤芳子監督が打った一手が、石橋の投入だった。
とはいえ、ライトで起用したことはなく、そのことは承知の上。それでも佐藤監督は石橋に「いける?」と投げかける。すると
「いけます!!」
即答だった。
「ふだんからそうですから。たとえ、できないことに対しても、何であれ“いけます!!”と石橋は言ってくれる。あの場面、こちらとしては押せ押せムードでしたが、少しでもひるんだら、押し返されるだろうな、と。なので、まずはノリのよさ、で彼女にしました。少しでもおじけづいた顔をしたら、別の選手を選んでいたかもしれませんね」(佐藤監督)
優勝がかかった試合。そこで、「いけます!!」と本人は言うものの、未経験のポジションでプレーさせることになる。
関西人ゆえに佐藤監督は心の中で「何がいけんねん!!」とツッコんだが、石橋の前向きな姿勢に対しては何ら疑うことなく、コートへ送り出したのであった。
自分がやるんだ、という思いと常日頃からの“いい表情”
あの場面を振り返り、石橋は「正直、いけるかな…、という感じでした」と明かすが、それでも「私がおじけづいたら、チームのムードも下がってしまう。なので、いくしかない、と腹をくくりました」と語った。
この心持ちこそ、佐藤監督が評価し、そして部員たちに求めているもの。
「例えば、チーム内で困っている人間が一人いたら、私が、と手を挙げて救いに行く。それが石橋なんです。顔つきもそう。いつも一生懸命に、がむしゃらに汗を流しています」と佐藤監督。とにかく表情がいいのだ。
日頃の練習では、指導者として部員たちを叱咤するときもある。そういうときこそ、決して表情に影を落としたり、ふてくされるのではなく、前向きな気持ちを宿した“いい顔”をするように佐藤監督は伝えている。石橋は「自分はレシーブも、ブロックも、まるで下手くそです」と肩をすくめるが、それでも上達するんだという思いで自身と向き合っている。「3年生が引退されたら、次は自分たちの代。周りに頼るのではなく、自分がやらないといけないので」と話す、その表情は意欲にあふれている。
自分がやります、いけます。
そんな彼女の気前のよさが、日本一に到達できた最後の1ピースでもあったのだ。
(取材・文/坂口功将〔編集部〕)
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