今年12月25日から大阪で開幕するJOCジュニアオリンピックカップ第35回全国都道府県対抗中学大会(JOC杯)。昨年はコロナ禍のため中止となったが、今年も全国から選ばれし中学生たちが集い、その姿を見せてくれるだろう。
今回はプレーバック企画として、前回の第33回大会(2019年)で初優勝を飾った男子・大阪北選抜の軌跡を振り返る(『月刊バレーボール』2020年3月号「中学生の話題」一部加筆)
栄光なるナニワ排球道~ビクトリーロード~
令和元年12月28日(土)、丸善インテックアリーナ大阪(大阪市中央体育館/大阪)ではJOC杯の最終日。決勝で熊本県選抜を下した大阪北選抜チームは、その試合後に一曲の歌を歌い上げた。
「ビクトリーロード~
この道~
ずっと~
ゆけば〜
最後は〜
笑える日が〜
くるのさ〜
ビクトリーロード」
それは19年のラグビー日本代表がワールドカップを戦うにあたり作成したという応援歌。この日、大阪北選抜のメンバーたちは、頂点にたどりついた喜びをかみしめていた。順風満帆ではない、けれども胸に深く刻まれたビクトリーロードを振り返りながら。
<第33回大会 大阪北選抜男子チーム>
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2019年度の大阪北選抜チームはセレクションが8月1日に実施され、12名が決定。緑中の梅原祥宏監督のもと、31日に初めて練習が行われチームはスタートした。そのメンバーを見ると、近年で全国大会優勝2度の実績を持つ昇陽中からはアタッカーの川内歩人と秦健太郎、セッターの當麻理人が選出された。
そのほか、身長190㎝で全日本中学生長身選手発掘育成合宿経験者の吉田怜真や、府内指折りのヤングクラブであるパンサーズジュニア在籍の川崎颯太や池田幸紀ら。その一方で、交野三中の尾幸汰や梶野龍之介、歌島中の内野大地など、中学からバレーボールを始めたという選手もいた。
そのチームは結成当初はバラバラ。和気あいあいと活動に励んではいるものの、第26回大会(2012年)から大阪北選抜に携わる梅原監督の目には「(自分が見てきた中で)いちばんまとまりのないチーム」に映った。一人の選手の保護者も「仲はいいのだけれど、心ここにあらず、といった雰囲気。本気で勝ちたいと思っているのか、正直わかりませんでした」と振り返る。
<(写真右から)當麻、秦、川内ら昇陽中の面々>
昇陽中やパンサーズジュニアのメンバーたちは、中学生世代においては高いレベルにあるといえる。だが、選抜となれば、それぞれの競技歴に違いもあれば、ふだんの練習環境や所属チームのスタイルが異なることから、すぐにまとまることは容易ではない。実際に、精度の高いコンビバレーを身上とする昇陽中の當麻は「トスを合わせるまで時間がかかりました」と、セッターとしての難しさを語っている。
『大阪北選抜』としてのチームづくりは難航を極め、それは練習試合に挑むローテーションの数に表れた。「ベストな形が見つからなかった」(梅原監督)がために、毎セットでコートに立つメンバーやポジションにはありとあらゆる手が施され、その数は30パターンにも及んだ。
また、選手たちの意識も一向に上を向かず、そんな様子を見かねたスタッフ陣からは幾度となく雷が落とされた。ある日、近畿大附高(大阪)で高校生と練習試合を組んだ際には、そのあまりの不出来ぶりに、「高校生の方々に場所も時間もいただいているのに、どういうことだ!?」と梅原監督は叱責。その場で声を出しながら走るように命じ、これはのちに“近大のランニング”という苦い記憶としてチームに刻まれた。
<開催地の代表でもある大阪北選抜>
>>><次ページ>大会直前、チームの仕上がりは
大会前最後の練習でチームが行った予行演習
とはいえ、スタッフ陣は彼らに熱い思いを注ぎ続けた。それは選抜というチームで選手を預かるうえでの責務でもある。選手たちの士気が上がるためならと、さまざまなアイディアを駆使した。
例えばチームTシャツの背中には『第33回大会チャンピオン』とデザインし、目標をより具体的にイメージさせた。ほかにも横断幕は、「会場でいちばん大きく」(片桐秀人アシスタントコーチ)という思いから、“熱くなろうぜ!!”の文字でド派手な仕様にした。
そのスタッフ陣がチームに変化を感じたのは、大会直前。12月21日に、毎年、大阪北選抜が出向いている勝尾寺(大阪府箕面市)にて必勝祈願を行い、そこでは寺の縁起物である『勝ちダルマ』を購入した。
<勝尾寺にて必勝祈願を行った(写真チーム提供)>
すると、時を同じくしてキャプテンの川内が「気合いを入れる意味で。それは学校でも、近畿大会の前にやっていたんです」と明かすように、頭を丸坊主にした。その姿を見た秦や當麻も、「キャプテンがやったからには、オレたちもせなあかん」と同じ髪型に。キャプテンの気合いが周囲に伝わってか、ここからチームは急激に一体感をまとうようになる。
仕上げは大会前の最後の練習日。梅原監督は練習の最後、選手たちにあることをするように指示した。それは、優勝を決める最後の1点を取りきる場面を想定してコンビを組むと同時に、決まった瞬間、アップゾーンから控えメンバーが滑り込むというもの。そのコンビは見事一発で、川内が強烈なスパイクを決めて締めくくられた。コートの内外を問わずに全員が“予行演習”で喜びを爆発させる。チームのムードは一気に高まった。
<観客席に飾られた横断幕>
>>><次ページ>すべてがハマった本番。笑いと涙のフィナーレ
多彩なローテーションで選抜史上初の大会制覇
結果的に、張られていた伏線は、すべて本番で回収された。JOC杯では予選グループ戦において登録メンバー全員に出場機会が設けられるようにルールが定められているが、大阪北選抜のローテーションは、誰が出ても、誰にとっても“一度は経験したことがある”といったもの。もっとも、出場メンバーは各セット開始直前に監督から発表されたそうで、選手たち自身は“いつ、どのように起用されるかわからない”ことにドギマギしていたとか。
そのように大会中も、メンバーが固定されることはなかった。各セットでガラリとメンバーを変えながら、勝機をたぐり寄せる。大屋久志コーチが活動期間中に練り上げたデータと、梅原監督の直感が融合した采配だった。
<誰がどのように起用されても力を発揮できるチームだった(写真コート奥)>
とはいえ特筆すべきは選手たちが、その起用に応えてみせたこと。昇陽中の3人はパフォーマンスを存分に発揮し、吉田や尾は高さを生かしたクイックで相手ブロックを寸断。リベロの池田や椎原大翔がボールを拾い上げ、レシーブに定評ある神田アレックスもワンポイントで投入されては、しっかりと返球して攻撃の起点となった。
また、チームの雰囲気も試合を重ねるごとに上昇した。もともとは秦の気持ちを押し上げるためにスタッフ陣が提案したという『どすこいポーズ』や、こぶしを振り上げる『熱男―ッ!!』は得点シーンの定番に。応援席に向かって選手たちが繰り出すと、ボルテージが上がった。
<得点時のパフォーマンスでは全身を使って感情を爆発させた>
そして熊本県選抜との決勝では予行演習どおりに、マッチポイントから最後は川内が得点。控えメンバーたちがコートの中へ滑り込むと、歓喜の輪の中でみんなが顔をくしゃくしゃにした。まさに一丸となってつかみ取った、大阪北選抜史上初の優勝だった。
大会直後に設けられた祝賀会。そこで選手・スタッフが約半年間に及ぶ活動を振り返り、さまざまな感情を共有した。
競技歴の浅い選手たちは、チームのレベルについていけるか不安だったことを思い出して涙した。
“近大のランニング”はスタッフ陣の前だけで声を出していたことが明かされ、皆で爆笑した。
何より金メダルを手に全員が、「このメンバー、このチームでよかった」と喜んだ。
ナニワの若きバレーボーラーたちが歩んだビクトリーロード。それは涙と笑いと喜びに彩られて、完結したのであった。
(取材・文/坂口功将〔編集部〕 写真/山岡邦彦)
<胴上げされるキャプテンの川内>
■大阪北選抜 スタッフ・選手
監督:梅原 祥宏
コーチ:大屋 久志
マネジャー:武林 崇司
アシスタントコーチ:片桐 秀人
アシスタントマネジャー:堂 佳則
① 川内 歩人/昇陽中3年/身長180センチ/OH
2 吉田 怜真/豊中第十四中3年/身長190センチ/OH
3 秦 健太郎/昇陽中3年/身長190センチ/MB
4 尾 幸汰/交野三中3年/身長187センチ/MB
5 内野 大地/歌島中3年/身長185センチ/OH
6 梶野龍之介/交野三中3年/身長181センチ/S
7 吉田 翔星/梶中3年/身長177センチ/OH
8 神田アレックス/緑中3年/身長180センチ/OH
9 當麻 理人/昇陽中3年/身長175センチ/S
10 川崎 颯太/摂津三中3年/身長174センチ/OH
11 椎原 大翔/此花中3年/身長165センチ/OH
12 池田 幸紀/枚方二中3年/身長160センチ/L
※丸囲いはキャプテン
※プロフィルは大会当時。ポジションは当時の所属校でのもの〔表記〕OH=アウトサイドヒッター、MB=ミドルブロッカー、S=セッター、L=リベロ
※梅原監督の「祥」は、正しくは“示ヘン”
<全国から集いし中学生たちによる“オリンピック”。また熱き戦いが見られることを願ってやまない>
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