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東福岡高 成就させた日本一への思い 夢をかなえた願望ノート【月バレ2021年3月号】

東福岡ノート

 

 第74回全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高バレー)は2022年1月5日(水)に開幕する。昨年度の第73回大会は東福岡高(福岡)が5年ぶりの頂点に立った。最優秀選手賞を獲得したエース柳北悠李(現・東亜大)の活躍はもちろん、「強い願望」でチームを引っ張った2年生の存在も大きかった。それぞれいかにこの1年を乗り越え、頂点にたどり着いたのか。月刊バレーボール2021年3月号に掲載された選手たちのバレーノート秘話を再掲載する。

 

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三冠戦士と重なる2年生の姿勢

 

 待望の瞬間は静かに迎えた。エース柳北悠李のバックアタックで試合を決め、選手たちは感情を爆発させた。しかし、無観客のスタンドからはもちろん歓声はなく、優勝後に胴上げもしない。藤元聡一監督にとって3度目の頂点は、これまでとは違う景色だった。だが、そんな特別な大会であっても、頂点に立つ選手たちにはある共通点があった。

 

決勝では3-1で駿台学園を下して頂点に立った

 

 「『日本一になりたいか』と聞けば、『なりたい』と言う子は全国に何万人といると思います。でも、実際に寝ても覚めてもそんなことばかり考えている人間は多くない。これまで優勝してきたときは、僕と子どもたちの「日本一への願望」はいつも同じくらいでした」

 

 藤元監督が歴代のメンバーと比べても、入学して1、2ヵ月で「目の色が違う」と感じたのが、今大会でスタメンに名を連ねた2年生たち。その姿は2015年に三冠した永露元稀(ウルフドッグス名古屋)がいた代に重なるという。昨年までは一人もレギュラーになれなかったが、藤元監督は強い思いを感じていた。「僕が『山の5合目はこうだぞ、9合目はこうだぞ』と言ったことに対し、願望が強く、来年は俺の足で頂上まで登りきるんだ、という選手は実際に準備します。言われてから登頂に必要な道具を買おうとする人間とはそもそも目の色が違うので。それは現場にいるとわかります」。

 

 その願望を実現するための一つの手段として、東福岡にはバレーノートがある。毎日提出する決まりこそあるものの、形式は決まっておらず、書き方は選手によってそれぞれ。また、藤元監督は目を通すが、必ずコメントを書いて返却するわけではない。意見交換のためではなく、選手自らが成長過程を記録することを目的としているからだ。「『これだな』という感覚をつかんでも、翌日にできないこともあるわけですよね。でも、同じ生活や行動をしてみるとできることもある。自分なりに感覚をものにするための行動記録なんです」。

 

 「僕たちはコツコツすることだけが武器だと言われているので」と、中でも真摯に取り組むのが葭原昂大と坪谷悠翔。葭原は2018年のJOC杯を制した福岡県選抜のキャプテン。坪谷は中之口ジュニア(新潟)で小学6年生時に全国を制し、上記のJOC杯では優秀選手に選ばれた。高校では日本一になりたい、と春高を制した先輩たちの姿に憧れて進学を決めた。入学してノートを書き始めた坪谷は、「読み返したら自分のためになるな」と効果を実感。小学生のころから書く葭原は「高校に入って見る世界が変わった。自分がなりたい姿や、そのためにどこをつぶさないといけないか」をポイントに、少しずつ書くスタイルを変えた。2人のノートは、2年間でそれぞれおよそ10冊にも及ぶ。

 

葭原のノートには、練習での内容に加え、食事の内容や、1日の流れがていねいに書かれている

 

インターハイが中止になったとき、坪谷はその思いをつづった

 

「願望を感じます。ちょっとした『これだな』を逃さないぞ、と。僕が1ヵ月間コメントをしなくても書いているので、自分のためでしかないですよね。中には僕に見せるために書く者もいますが、自分が登頂するために必要だと思っている人間のノートは違います」(藤元監督)

 

 

心身ともに成長した自粛期間

 

 日本一にたどり着いた選手たちにとって、大きな成長のきっかけとなったのがコロナ禍での練習だった。昨年4月、休校期間に入る前日、「藤元先生に『この期間に一番成長した、頑張れたチームが日本一になる』と言われていました。自分たちも初めてメンバーに入って、絶対に日本一になりたかった」と考えた葭原はノートにこう書きこんだ。

 

 ≪ノートで日本一、生活習慣で日本一、トレーニングで日本一の取り組みをこの臨時休校の期間でやり続けることで夏の日本一に一歩ずつ近づいていくと思う≫

 

 2月、九州ブロックの新人大会にレギュラーとして出場し、チームは優勝。それでも納得のいくプレーができず、悔しさを募らせていた。その思いから、一心不乱に練習に取り組んだ。ハードな内容のため2日に1回でいいと言われていたランメニューを自ら毎日取り入れた。100m、200m、400mを、設定タイム以内で10本ずつ走るという厳しいメニュー。しかもただ走るだけではなく、インターバルのタイムを短くした。その結果、体は悲鳴を上げ、足が疲労骨折。「まじめすぎる」と言われる坪谷でさえも「ちょっとおかしい」と言うほどの出来事。葭原も「この期間に懸けていましたが、裏目に出ました」と笑って振り返るが、それだけ思いは強かった。

 

 体だけでなく、心も変わった。午前中はオンラインを介して厳しいトレーニングに取り組み、食事をして午後の練習に向かう。その前に、藤元監督からは歴代の選手たちのセンターコートでプレーする姿や優勝時の画像とともに、モチベーションの上がる言葉が贈られた。そして、3日に一度は「道徳」の時間が設けられ、これまでの生き方や将来に思いを馳せた。「それまではプレーのよかったことや反省を書いていましたが、自粛期間からは自分が感じたことを多く書くようにしました。このときにどう考えていたかが、わかるようになってよかったと思います」(坪谷)。

 

ノートが成長のヒントに

 

 心と体を磨き上げ、自信を持って春高予選決勝に臨んだ。ところが、エースの柳北以外は初めて挑む大事な一戦で、まさかの事態が起きた。第1セットを先取したものの、そこから受け身になってしまい、九州産大付九州産に連続でセットを落とす展開。あとがなくなった中、エース柳北の大活躍で逆転勝ちしたものの、2年生は藤元監督が「これまでにないほどひどい」という状態で予選を終えた。

 

 葭原は悔しげに振り返る。「九州新人大会も、この試合も悠李さんに勝たせてもらって。自分たちが仕事を果たせないと春高では勝てないとずっと言われていたので、みんな勝つことだけを考えて、春高に向けて熱を入れました」。

 

 攻撃がうまく決まらなかった中、葭原は自身に問うた。自分の武器は何か――。そんなときにノートをめくると、自らの足跡の中にヒントがあった。記していたのは、「体が前に突っ込んでいたら、いいスパイクは打てない」ということ。セッターの近藤蘭丸には体とネットの間が空いたトスを要求し、練習を積み重ねた。スパイクの質は徐々に変わった。

 

 自問自答を繰り返したのは、エース柳北も同じだった。予選決勝でスパイク決定率が70%を越える活躍を見せたが、自身の体重をコントロールできず、一時は100kg超え。春高予選に向けてベストな体を目指してきたものの、設定していた期限に目標の数値まで落とせないこともあった。自らに負けてしまわないよう、戒めを込めてノートに思いを書き込んだ。

 

≪自分が本当に、まっとうな嘘のない人間で、自分の体重をおとして、キープできるようになり、本気で日本一を目指したら、日本一まではとおくないと思う≫

 

 自ら書き込んだ言葉を、思い出しながら練習に取り組んだという。

 

 

柳北はチームに迷惑をかけるふがいなさをノートに書いた

 

 

エースの活躍と2年生のスパイス

 

 例年はインターハイや国体を経験して力をつけるが、大会が相次いで中止になった今年度はどのチームも春高での一発勝負。いつもは複数用意するという藤元監督が描く優勝へのルートも、今大会はただ一つだった。相手にとってわかっていても柳北が抑えられない状況をつくり、柳北に対策が集中するタイミングでいかに2年生がスパイスになるか。

 

 2回戦の習志野(千葉)戦ではストレート勝ちを収めたものの、2017年JOC杯優勝メンバーが主力の福井工大附福井(福井)との3回戦、今大会最長身、210cmの牧を擁する高松工芸(香川)との準々決勝はフルセットの末に勝利。一戦一戦厳しさが増した中で、準決勝の清風(大阪)戦、決勝の駿台学園(東京)戦と試合を重ねるごとにすごみを増したエースが大暴れ。ポイントであったスパイスという面では、要所で山田美雄がブロード攻撃を決め、坪谷と葭原もスパイクを打ち込んだ。葭原は「春高までの期間は、前に突っ込むクセをずっと意識していました。なんとか間に合ったと思います」とホッとした表情。チームを優勝に導いた柳北も「少しは変われたから日本一になれました」と笑顔で成長を実感した。

 

 「日本一になる!」と願い続けて登りつめた春高の頂点。しかし、これまで頼り続けたエースはもういない。坪谷は先輩の背中から多くのことを学んだ。「準決勝、決勝といい形で攻撃ができなくて。悠李さん頼みになってしまいましたが、相手のブロックが3枚付いても、悠李さんは決めきっていました。今度は自分がああいう姿にならないといけません」。

 

声でもチームを引っ張った #7葭原と#5坪谷

 

 新チームで主将を務める葭原も気を引き締める。「藤元先生からは『なんでも決めてくれるエースはもういない』と言われて。みんなの目標だった日本一は取れましたが、保護者も含めてチームの全員がセンターコートに行くことはできませんでした。今度は自分たちの力で、日本一まで連れていきます」。

 

 新型コロナウイルスの影響で、先の見えない日々を経験した。その状況は今後も続くかもしれない。だからこそ、坪谷はこれまでの歩みに胸を張る。「誰も経験したことのないようなことを経験しましたが、ノートにはやってきたことが書いてあります。もしもう一回そうなったら、去年書いたこと以上をやらないと進化しません。そういう経験がノートとして残っているのは大きいと思います」。

 

 たとえ逆境がふたたび訪れても、東福岡には立ち返る原点がある。

 

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 この時の優勝メンバーが多く残る東福岡高。再び日本一になるという強い願望のために、彼らはきっとバレーノートを書き続けているだろう。その冊数は自分を見つめ強くなるために費やした時間の証明となって、彼らの戦いを支えてくれるのではないだろうか。

 

 春高バレーは、2022年1月5日(水)に東京体育館(東京都渋谷区)で開幕する。シード校の東福岡高は1月6日(木)Bコート第6試合(15:00〜)、札幌藻岩高(北海道)と東亜学園高(東京)の勝者と初戦を戦う。※時間は変更となる場合がある。

 

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