今季はインターハイ準優勝、国体優勝と結果を残し、1999年(※当時は古川商高)以来の優勝を目指す古川学園高(宮城)。主力の熊谷仁依奈キャプテン、阿部明音、タピア・アロンドラが悲願の頂点への思いを語った
熊谷仁依奈
3年/身長165㎝/最高到達点280㎝/仙北中(秋田)/セッター
1年生時から正セッターを任され、3年生時に第21回アジアU20(ジュニア)女子選手権大会に出場した世代を代表する司令塔。2年生時からキャプテンを務める。
タピア・アロンドラ
3年/身長196㎝/最高到達点325㎝/ドミニカ共和国/ミドルブロッカー
圧倒的な高さを武器に、2年生時からレギュラー。母国ではU23ドミニカ共和国代表としてプレーする。1年生時からの勉強の成果が実り、日本語もバッチリ。
阿部明音
3年/身長172㎝/最高到達点298㎝/小名浜一中(福島)/アウトサイドヒッター
タピアとともにミドルブロッカーとして得点源を担ってきたが、3年生時の国体からポジション変更。攻守でチームに欠かせない存在に。副キャプテン。
すぐに切り替えた
国体の優勝
——国体では優勝の瞬間、阿部選手とタピア選手が何度も抱き合っていたのが印象的でした
阿部 気が付いたらアロン(タピア)が目の前にいました。エース2人でずっと「日本一になろう」と話してきて、その集大成が出たので。言葉が出ず、ほんとうにうれしかったです。
タピア ラスト1点のときに、みんなが「アロン、ここでブロック1本!」ってめっちゃ声をかけてくれて。それで手を前に出したら、(ボールに)当たりました。頭の中が「え、日本一?」ってなっていたので、(阿部)明音のところに行って、「え、日本一になったの?」って言いました。
明音は泣きすぎ(笑) ずっとこう(顔を覆う仕草)していたもん。 顔が見たくて「ほんとうに日本一?」って言って腕を引っ張ったときに、2人で崩れ落ちました(笑)
阿部 多分言葉を返せなかったと思います。泣いていたので、返せないまま2人で「え⁉︎ え⁉」って(笑)
熊谷 主将のサインを書いていて見ていなかったのですが、ビデオを見たら、試合後も2人が結構な勢いで倒れこんでいました。「あ、こんなことやっていたんだ」って(笑) そこに混ざりかったですが、春高でやるために取っていたんだとだ思います。次は6人でします!
——改めて国体での日本一という結果はいかがですか?
阿部 春高では2年前が3位、1年前が2位という結果。日本一になれるのだろうか、という思いもありましたが、今回の国体は「勝たないとおかしい」というぐらいのメンタルでプレーすることができました。それぐらい強気でいれば日本一になれるんだと実感して、すごく自信になりました。
でも、優勝してからすぐに切り替えました。(熊谷)仁依奈と「次の春高だね」と話しましたが、その思いはチーム全体としてもあります。
タピア 今までは全国大会で決勝や準決勝までしかいけなくて。でもこの代は先輩からいろんなことを引き継いで、今年のインターハイは決勝で負けてからも(岡崎典生)先生からいろんな技術を教えてもらいました。
みんなは自分が間違っていることや、できていないことも教えてくれます。一緒にしっかり練習をしてきたから、日本一につながったと思います。
熊谷 今回の国体でこれまでといちばん違ったのは、お互いに要求をぶつけ合ってきたことです。そうやって練習をしてきたことが日本一につながって、報われた気がしました。ほんとうに腹を割って話してきたから、国体の日本一があったと思います。
——お互いに要求をぶつけ合ってきたというのは、これまでとどう違うのでしょうか?
熊谷 インターハイ前までは見逃していたプレーがありました。
国体前の練習で、AチームとBチームで試合をしていたときのことです。相手から1本で返ってきたボールに対して、レフトの(髙橋)陽果里が打ち込みませんでした。それに対して、明音が「なんで打たないの?」ってすごく指摘しました。
阿部 チャンスボールなのに、それを打たないのはなぜか自分にはわかりません。強気でいれば絶対に打てるボールだし、自分たちが楽に点を決めるためには必要だと思って、見逃さないようにしました。
熊谷 でも、国体の決勝で同じようなボールがくると、陽果里は打って決めたので。そのときに「練習でやってきたことだ」と思いました。陽果里に聞くと「明音が言ってくれた練習を思い出した」と言っていて「練習で見逃さなかったら本番につながるんだ」と感じました。自分と副キャプテンの明音だけじゃなくて、陽果里や(南舘)絢華も、みんなが同じような意識になれたと思います。
「ビッグベイビー」タピア
仲間たちへの思い
——タピア選手は日本に来て3年目。同級生(熊谷、阿部、髙橋、南舘)はどんな存在ですか?
タピア 同じ学年だけど、先輩みたいです。自分がいちばん赤ちゃんというか、ビッグベイビーだから(笑) 3年生5人のなかで、自分がいちばんやらかすことが多い!(笑) 「ダメでしょ。アロンこうでしょ」って言われます。
でも、自分が間違っていることを無視しないで、きちっと言ってくれることがたくさんあります。仁依奈の厳しさもすごいし、明音も3年生になってからプレーのコミュニケーションがたくさん増えました。いろんなことを学んだから、どんどん成長することができたと思います。
熊谷 アロンには“バブみ”というか、ほんとうに赤ちゃんっぽいかわいさがあるんですよ(笑)
タピア バレーのときも学校のときも同じ。練習のときに「うぇーん」って言いだしたり(笑) それがアロン(笑)
阿部 アロンは正しいことを言ってくれるので、自分も学ぶことが多いです。自分もやらかすことが多いので、お互いにありましたね(笑)
タピア 1年生のときはやばかった(笑) おもしろいことが多かったね。
——高校から異国の地でプレーするタピア選手の決断を、熊谷選手と阿部選手はどうとらえていますか?
阿部 もし自分がほかの国に行ってバレーをするとしたら、ほんとうに勇気が必要です。言葉を話せないことが怖かったり、ストレスに感じることが多はずです。でも、アロンは自分で学ぶ精神がいちばん強いから、ここまでやってこられたのかなと思います。
熊谷 自分にとっては異国に行くということが想像できません。もしそうなったら、「行く勇気はあるかな?」と思います。
日本にいなくて親と会えないことを考えると、自分たちはアロンに弱音を吐いている場合ではありません。いちばん大変なのはやっぱりアロンだから。時差もあって電話をしてもつながらないときもあるけど、そういうことも乗り越えて、いちばん成長したのはアロンかなと思います。
タピア みんなにさみしいとは言わないけど、それに気づいて、わかってくれているのがうれしい。親が日本にいなくて1人だけど、でもいつも1人だと思わない。18人いるし、いつも1人じゃない。悲しいとき、うれしいとき、いつもみんなが一緒。
ドミニカ共和国でもなれるかもしれないけど、将来バレーボールがうまくなることを願って日本に来ました。ドミニカ共和国に帰ったら、「自分の子どもが3年間しっかりやりきったな」と思ってもらえるように頑張りたいと思います。
——改めて春高の目標はいかがでしょうか?
タピア しっかり金メダルを取ることです! ブロックとスパイクで、チームが苦しいときに決められるように頑張りたいです。
熊谷 今までコロナ禍の影響もあって、バレーをできることは当たり前じゃないと感じました。いろんな方々の支えがあってこそ、今の自分たちがあると思うので、感謝の気持ちを忘れず、絶対恩返しをするという強い思いを持っていきたいです。
いちばんはずっと準優勝で終わっているので、最後は必ず日本一になって全員で笑えるようにしたいです。
阿部 春高の目標はチームが一つになること。それが日本一に直結すると思います。全員が日本一という方向にしっかり向いていないと、どれだけ1人が頑張っても難しい。レギュラーだけでなく、サポートしてくれるメンバーもみんなが日本一の仕事をしてこそ日本一になれると思います。
国体が終わって、(岡崎)先生から「最後勝つには感謝の気持ちを持つこと」と教えてもらいました。支えてくれている人全員の顔が浮かぶぐらい堂々とプレーして、日本一を獲って帰りたいです。
取材/田中風太
写真/山岡邦彦、田中風太
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