2021-22 V.LEAGUE DIVISION2 MEN(V2男子)で前人未踏のリーグ5連覇を目指す富士通カワサキレッドスピリッツ。今季最後のホームゲームは、あいにくの無観客での開催となった。
<今季最後のホームゲームを戦った富士通<左/写真は2月27日のヴィアティン戦>>
上位勢をホームに迎えた、後半戦の山場
当初は有観客が予定されていた。2月26日と27日、会場はともにカルッツかわさき(神奈川)。その週末を前に富士通はリーグ2位につけており、初日の相手は4位の埼玉アザレア、翌日は3位のヴィアティン三重(順位は当時)。この2連戦での勝敗が最終的な結果を左右することは明確だった。それだけに、ファンの声援を追い風にしたかったのは、ほかでもないホームチームだったはず。
けれども、チームは苦渋の決断を下した。富士通の山本道彦監督は話す。
「最後の最後まで悩みました。ですが、やはり何かが起きてはいけない、と。それは我々チームというよりも、来ていただいたお客さんたちに、です。コロナ禍において一人でも陽性になってしまうと、周りに大きな影響が出てしまいますから。やむをえず無観客での実施を決めました」
無観客のホームゲーム自体は昨季から、これまでに何度も経験している。ただし、今回は会場のムードを変えるべく、趣向を凝らすことにした。それが応援メッセージの掲示だった。事前にSNSでファンからのメッセージを募り、それらを当日のスタンドに設置したのである。それらはベンチの反対側の客席にずらりと並んだ。
<座席一つ一つに掲示された応援メッセージ>
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<在籍2季目のジェフリー 宇意は不動のミドルブロッカーとして活躍>
「これはホームゲームなんだ」(ジェフリー宇意)
そのたくさんのメッセージが、チームに勇気を与えることになる。
いざ迎えた今季最後のホームゲーム。その初戦は「想定外」と山本監督が振り返ったように、出だしから果敢に攻めたてる埼玉を前にして、第1セットは30点台に到達するジュースに。なんとかセットを先取したものの、第2、第3セットを奪われる。そうして窮地に立たされた第4セットのことだ。
エバデダン ジェフリー 宇意は、チームメイトが発した言葉をはっきりと覚えている。
「谷平(拓海)が、ぼそっと口にしたんです。『全員、あれ見ろよ!!』って。本人はおもしろがって言ったのかもしれないですけど、その言葉を耳にして、観客席の応援メッセージがはっきりと見えました」
ジェフリー 宇意は、気持ちの高ぶりを感じた。
「そうだ、これはホームゲームなんだ、って。無観客だけど、見ている人たちがいるんだ、とあらためて認識したんです。この状況でも気持ちで負けてはいけないと思えたので、ほんとうに応援メッセージの張り紙はありがたかったです」
やがてチームは第4セットを28-26の接戦の末に取り切ると、最終第5セットも制し、勝ち星につなげたのだった。
<攻守の要を務める谷平<中央>>
リモートだからこそ表現できることは何か
この日の応援キャンペーンはスタッフや選手の提案で実施したものだった。また、この週末に、富士通は新たにチームの応援ソングを発表している。そうした取り組みは、長年V2の舞台を戦ってきたチームの中でも、これまで見られなかったものだ。
その気風の変化は、山本監督の言葉にも表れている。
「どんどんやりたいことをやってほしい、と思っています。私自身はあまり口を出さないようにしていますし、仮に会社との交渉事が必要ならば、それは私がやればいい。スタッフや選手にはどんどんトライしてほしいですし、私も何かしらのサポートができればと考えています」
今回のようにリモートマッチとなれば、チームは独自に試合映像を配信できるようにしている。そこでは、普及担当を務めるOBの中川剛さんの解説がつく。
「時代の流れに沿って、試合の見方に対する価値観も変わってきていると思います。直接でなくてもリモートで、映像越しでも“見て、楽しめる”ことも今後は考える必要が出てきているのではないかと。
その中で、自分たちは何ができるのか、を試行錯誤して、チームからもっともっと発信をしていきたい。それを今回のホームゲームで表現させていただいたわけです」(山本監督)
コロナ禍でも、いやコロナ禍だからこそ、か。チームとファンをつなぐ絆はさらに深まり、今、富士通に追い風を生んでいる。
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
<後半戦の山場をまずはクリアした富士通。このまま5連覇へ突き進めるか>
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