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オスマニー・ユアントレーナがイタリア代表の後継者アレッサンドロ・ミケレットに託したジャージ

 ある人は言う。背番号は数字に過ぎない、のだと。それでも、見る人はそこに物語を投影する。

 

 昨年秋の男子アジア選手権。日本代表の大塚達宣(早稲田大)が背番号「5」をつける姿に、それまで代表でその番号を背負っていた福澤達哉(元・パナソニックパンサーズ)の姿を重ねた人は少なくないはずだ。2人は洛南高(京都)出身という共通点があり、ポジションは同じアウトサイドヒッター。大塚にとって、福澤は「競技だけでなく、人間性の面でも憧れの存在」だった。

 

<背番号「5」をつけた大塚>

 

 「受け継いでいるかはわからないですが(笑) 同じ背番号をうれしく思いますし、福澤さんのようなチームの中心選手になれるよう、いっそう頑張りたいです」

 

 どこか照れくさそうに、それでも力強いまなざしで意気込みを口にする大塚の姿が印象的だった。やがて、昨年春に現役を引退した福澤がプレーしたパナソニックのユニフォームを、今は大塚が身にまとっている。ここでも背番号は同じ「15」だ。

 

 そんな物語は日本だけでなく、イタリアバレーボール界でもつづられていた。舞台は昨年夏の東京、数字は偶然にも同じ「5」だった。

 

<オスマニー・ユアントレーナ(Osmany Juantorena)/身長200センチ/最高到達点370センチ/1985年8月12日生まれ/イタリア/アウトサイドヒッター/Photo:FIVB>

 

オスマニー・ユアントレーナがイタリア代表を引退

 

 2021年8月3日、有明アリーナ(東京)。東京2020オリンピックのバレーボール競技男子は決勝トーナメントが始まった。負ければ終わりの戦いでイタリア代表は準々決勝に臨み、アルゼンチンに敗れる。

 

 その試合後、チームのエースであるオスマニー・ユアントレーナは代表引退を発表した。

 

 「この素晴らしい旅路を、敗戦で終えるのは悔しいです…。代表のユニフォームを着られることは光栄でしたが、この青いジャージに別れを告げるときがきました」

 

 キューバ出身のユアントレーナは抜群の身体能力を生かし、若くしてバレーボール界のトッププレーヤーの仲間入りを果たす。イタリアに渡ると、セリエAのトレンティーノで国内リーグのタイトルを総なめ、世界クラブ選手権4連覇に貢献した。

 

 そうしてイタリアに帰化し、代表入りが解禁されたのは2015年。自身にとって初のオリンピックであった2016年リオデジャネイロ大会で、銀メダルを手にしている。熱狂的なファンから絶大な支持を受けた。

 

 「チームメイト、スタッフ、そしてイタリアバレーボール連盟へ、あなたたちがくれたチャンスに感謝します」(ユアントレーナ)

 

<準々決勝でアルゼンチンに敗れ、うつろな表情のユアントレーナ/Photo:FIVB>

 

>>><次ページ>イタリア代表の新鋭アレッサンドロ・ミケレットととともに

<東京2020オリンピックでエース対角を組んだ⑤ユアントレーナと⑱ミケレット/Photo:FIVB>

 

将来を有望視されるミケレットと、ともに戦った最後の舞台

 

 自身のSNSで感謝の思いをつづったユアントレーナ。その後、まもなくしてチームメイトであるアレッサンドロ・ミケレットとのツーショットを投稿している。

 

 そのミケレットの手には、ユアントレーナが着用していた背番号「5」のジャージがあった。

 

 ミケレットといえば、19歳の若さでオリンピックのメンバー入りを果たした新鋭。アンダーエイジカテゴリー代表で実績を重ねていた中での、シニアへの大抜擢だった。大会本番では、このとき35歳のユアントレーナと対角を組んでプレーしている。

 

 ユアントレーナが東京2020オリンピックでの代表引退を前もって決めていたのかは、今となってはわからない。けれども、自身の対角に入る若駒に、エースとしての背中を見せていたのは確かだ。

 

<日本戦の第4セット序盤で5-1と、リードに成功したイタリア。その得点すべてをたたき出したのがユアントレーナだった/Photo:FIVB>

 

 それが表れていたのが、大会の予選ラウンド第3戦の日本戦。その第3セット、ミケレットは徹底的にサーブで狙われる。徐々にサーブレシーブの精度も落ち、やがてセットを落とした。

 

 そんなムードを一変させたのがユアントレーナだった。続く第4セットは出だしから高い決定力を見せて、連続得点を奪ってみせる。エースの活躍によって息を吹き返したイタリアが、このセットを制して勝利した。

 

「言ったでしょう? 君はフェノーメノなんだ、って」

 

 そのユアントレーナが代表を去り、ミケレットはエースの責務を担うことになった。東京2020オリンピック直後に臨んだヨーロッパ選手権では、同い年のダニエレ・ラビアと対角を組み、チームを決勝へと押し上げる。スロベニアとの決勝ではフルセットにもつれる激戦の中、しり上がりに調子を上げていくと、最終第5セットでは9-7から値千金の連続サービスエースがさく裂。リードを広げたイタリアは見事、優勝を手にした。

 

<アレッサンドロ・ミケレット(Alessandro Michieletto)/身長205センチ/最高到達点357センチ/2001年12月5日生まれ/イタリア/アウトサイドヒッター/Photo:FIVB>

 

 ミケレットを始めとする若手主体のチームがつかんだ栄光に、次世代の到来を感じずにはいられなかった。そして、ユアントレーナも、このようなコメントで祝福の言葉を送っている。

 

 「言ったでしょう? 君はフェノーメノ(怪物)なんだ、って」

 

 ヨーロッパ選手権のあとには、地元開催のU21世界選手権でも頂点に輝き、MVPに選出されたミケレット。そして、2021/22シーズンではセリエAのトレンティーノでレギュラーを張り、スーペルコッパ(スーパーカップ)優勝、コッパ・イタリア(カップ戦)準優勝に貢献している。

 

 偶然か、それとも、必然か。トレンティーノで今、彼がつけている背番号はやはり、かつてユアントレーナがつけた「5」。U21イタリア代表でもミケレットはその番号をつけており、おそらくは今年度からシニアでも、という見方は強い。むしろ、それを願いたくなるものだ。

 

 いつだって “継承の物語”は、その移り変わりを目にする人の胸を熱くさせる。

 

(文/坂口功将〔編集部〕)

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継承の物語は、ここにも。

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