下北沢成徳高(東京/当時は成徳学園高)の指揮官として多くの日本代表選手を輩出してきた小川良樹監督。今年度限りで伊藤崇博コーチにバトンをつなぐ決断を下すまでには、綿密なプランがあった
――監督を辞めることはいつごろから考えていたのでしょうか?
伊藤先生に「(下北沢)成徳に来てください」と言ったのは10年くらい前、つまり私が55、6歳のころ。「自分の終わりを考えなきゃいけない。(下北沢成徳高を)このまま終わらせていいのか」と考えるようになったからです。
チームをつなぐことは難しいんですよね。監督が代わったあともうまくいっているチームもあれば、(監督が)1代で終わってしまうチームもある。伊藤先生は彼の大学時代(日本体大)に成徳でコーチをしてもらった経験もあり、後任の監督としてお願いしました。
――監督が代わることは、選手たちは知っていたのでしょうか?
以前から計画を立てていました。
自分がスカウトした選手は今の高校3年生までです。2年生には「私は今の3年生と一緒に最後になり、君たちが3年生のころには伊藤先生が監督になる」と言っていました。また、「監督を辞めたあともチームには残る」とも伝えていました。
この子たちは私が送り出さないと、保護者の方にしてみれば、「小川先生に預けたのに、なんで代わってしまうんだ」と納得しないかもしれません。そこはきちっとアナウンスするようにしていました。
――伊藤コーチはプレッシャーもあると思います
すごく大変ですよね。ご自身が日本一になって、そのなり方をつかんでいる場合は別ですが、伊藤先生の全国大会での成績は(2016年の)岩手国体での5位が最高なので。 そこから上にいく感覚は、こちらが何を言っても、自分がなってみないとわからないと思います。
ここにいる選手たちみんながやりがいを持って、「成徳に来て、このチームでバレーができてよかった」と言って卒業してもらうことが私たちの仕事。勝ち負けもつき、責任は重大ですが、やりがいはあると思います。
例えば、オリンピックに出るような選手と巡り会えない監督はたくさんいらっしゃる中で、日の丸を付けるかもしれない選手を指導できることはすごく幸せです。まあ、悩みも多いですけどね(笑)
――そういった意味では、小川監督は荒木絵里香さんや大山加奈さん、木村沙織さん(以上、元・日本代表)らと出会いました
ほんとうに幸せなことです。絵里香、加奈、沙織がそろうって、すごいですよね。運がいいというか、ふつうはない、というか(笑) 昨年の東京2020オリンピックのレギュラーのうち、3人(荒木さん、黒後愛、石川真佑[ともに東レアローズ])が卒業生であるのもすごいことだと思います。
もちろんこの(ジェスチャーで手を胸の位置に)レベルの選手たちを育て上げることもすごい指導力です。だけど、この(ジェスチャーで手を顔の位置に)レベルの子をさらに高めることは、すごく大変で、誰もが経験できることではありません。まず、その選手たちに入学してもらえる魅力的なチームにならないといけませんしね。やはり指導者としては成長できる環境だと思います。
取材・写真/田中風太
発売中の月刊バレーボール6月号では、小川監督のチームづくりに迫る連載がスタート。初回は1年生が加わり、チームの雰囲気が変わる4月をテーマに語ってもらった
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