V.LEAGUE DIVISION2 MEN(V2男子)の富士通カワサキレッドスピリッツには、20年ちかく受け継がれるDNAがある。「明るく、楽しく、そして強く」のスローガン。選手たちは常にその言葉を胸に頂き、コートに立ってきた。だが、2021-22シーズンはチームの置かれた状況が異なった。5シーズンぶりの準優勝に、V・チャレンジマッチ(入れ替え戦)への出場から、チームの戦いをひも解く
<V2で常に上位成績をあげている富士通カワサキレッドスピリッツ>
V2男子で過去5度の優勝
今年4月10日、小田原アリーナ(神奈川)。大分三好ヴァイセアドラーとV・チャレンジマッチを争い、富士通は1勝1敗としながらセット率の差で、V1昇格は果たせなかった。試合後の記者会見で、山本道彦監督はVリーグの2021-22シーズンを総括した。
「(V2男子での)リーグ5連覇というのは、少しばかりプレッシャーでした。負けてはいけないという変な気負いがありましたし、その一方で、なんとなく相手に合わせて戦ってしまう慢心もあったかな、と。それに、常に全力で戦わなければ、いいパフォーマンスにつながらないのに、楽しむ部分とピリッと締める部分の使い分けができていなかった時期もあったと感じています」
富士通のスタイルはいつだって、「明るく、楽しく、そして強く」だ。それは捉える人によって様々な見方がある。富士通という会社そのものの社風であり、バレーボールでいえば、試合を戦うチームのムードそのものの“明るさ”、見ている人たちが感じる“楽しさ”、そして、結果を出すという“強さ”…。そこに対するアプローチは、選手それぞれで異なるとはいえ、富士通カワサキレッドスピリッツの根源にあるものだ。
その言葉とともに、これまでチームは歩み続け、V2男子における地位を築き上げた。2015/16シーズンにV・チャレンジリーグⅠ(現・V2)で初優勝を遂げると、2017/18シーズンからは前人未踏の4連覇を達成している。
<長年指揮を執る山本監督が掲げたのが「明るく、楽しく、そして強く」のスローガンだ>
S1ライセンスを所持せず、V1への挑戦は現実的でなかった
V2男子で常にトップに君臨し続ける富士通だが、2018年のリーグ改編時にはV1参戦の権利を有するS1ライセンスの取得を行わず。以降もS2ライセンスを保持し、19-20、20-21シーズンとV2男子を制覇しながら、V・チャレンジマッチには出場していない。
それ自体は規定に則ったものだが、V1そのものに対する向き合い方が当時は違ったことが背景にある。20-21シーズンを終えた山本監督に聞くと
「もちろん、V1も狙っていますし、S1ライセンスもほしい。けれども、我々はまだ一度もV1のチームに勝ったことがないんです。黒鷲旗でフルセットに持ち込んだり、メンバー編成も異なる国体で勝利したくらい。実際のところ、勝つこともできていないのに、S1ライセンスに必要な環境整備を会社に求めることなんてできませんし、会社も容認できません。そのことは、私自身がかつて、そうした部署にいたころからもわかっているんです。
だからこそ、まずは結果を出さなければならないんです」
と語った。
チームの練習時間は週3日で、平日は2時間、週末は半日のみと決められている。練習場所である体育館は会社の福利厚生施設であり、そもそも使用できる時間も限られている。選手たちはもちろん、フルタイムで働いている会社員だ。
それでも、Vリーグを戦う以上は、試合で勝ちたいし、その先にあるものとしてトップのステージに立ちたい。その権利を得るために、結果を出すことが必要だった。
そうした中、チームとしてはこのシーズンで成し遂げた「V2男子4連覇」それも「20戦全勝」という確かな結果が、会社を動かすことになる。2021年度を迎える4月のことだ。
「チームの体制も変わった中で、『やはりV1に上がりたいね』と再認識し、会社に相談したんです。すると、『勝っているのに、上のステップを踏まないのは、富士通のポリシーではない』という言葉をいただけました。トップのリーグにチャレンジできるのであれば、と。そうして、S1ライセンスの申請に踏み切ったわけです」(山本監督)
<20-21シーズンはルーキーながらスパイク賞に輝き、チームに貢献した①エバデダン ジェフリー 宇意>
>>><次ページ>これまでとはまるで異なったシーズンを戦ううえでの胸中
<在籍2季目の⑭谷平拓海も台頭し、2021-22シーズンはレギュラーとして貢献>
これまでとはまるで異なったシーズンを戦ううえでの胸中
それまではリーグで優勝しようとも、それより上のステージがあるにも関わらず、その先に進むことはかなわなかった。だが、今は違う。21-22シーズンを前に、S1ライセンスの承認がVリーグ機構から下りた。
その事実は、選手たちをさらに奮い立たせた。2014年に入部し、現在はキャプテンを務める栁田百織は21-22シーズンを戦う中で、言葉を弾ませたものだ。
「やっぱり違いますよ!! V2のシーズンでの優勝を目標にしていたのが、今はV1に上がることが目標になっています。それだけで、練習中から違いますし、試合もこれまでと同じ気持ちで戦っていない感覚です」
2020年に入部し、21-22シーズンからレギュラーとしてプレーする谷平拓海も「コーチやスタッフの熱量が高まったのを感じますし、僕たちと同じ気持ちなんだな、って。その思いに対して、選手として応えたいと思うようになりました」と話している。
となると、試合での結果自体の捉え方も変わってくる。21-22シーズンは5連覇がかかっているとはいえ、そもそもV2の上位2チームに入れなければ、V・チャレンジマッチへ進むことができない。V1昇格など、まさに絵に描いた餅、になってしまう。
また、V1のチームとの対戦機会も同様だ。Vリーグのシーズン中でいえば、天皇杯がカテゴリーをまたいで戦う場所となるのがもっぱらだが、昨年12月のファイナルラウンドを1週間後に控え、栁田はこのように語っている。
「以前は、口には出さないけれど、どこかみんな『V1のチームには負けてもしかたがないよね』という空気があったと思うんです。でも今は目標がV1である以上、その相手に勝つことを目指して臨みたい。出場することが記念になる大会ではなく、そこでいい結果を残したいですよね」
<これまでとは異なる心持で天皇杯ファイナルラウンドに臨んだ>
だが、迎えた大会本番。1回戦の関西大(大阪)には難なく勝利を収めたが、続く2回戦の相手はV1のJTサンダーズ広島。富士通は第3セットこそジュースに持ち込んだものの、終わってみればストレート負けを喫する。
「最後はJT広島も主力をベンチに下げていましたから、それならば取り切るところまでいきたかったですね。いい雰囲気で試合への準備もできていましたが、いざ自分たちのサーブミスがとにかく多かった。ミスして、次は入れなきゃ、そしてミスをする。負のスパイラルでした。
それに、“富士通らしさ”を出せなかったと感じています。お客さんを盛り上げるよりも、自分たちが慌てふためかないために、パフォーマンスをしていた。見ている方々に楽しんでもらえなかった、そんな気がします」
試合後に吐き出した栁田キャプテンの言葉は、これまでチームが経験したことがない感覚にあったことを表していた。
【後編】はコチラ
<JT広島を相手に果敢に攻めた④栁田だったが…>
(文・写真/坂口功将〔編集部〕 写真〔天皇杯〕/中川和泉〔NBP〕)
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