5季ぶりV逸、1部昇格への挑戦。富士通が向き合った「楽しむこと」の本質〔後編〕
- V男子
- 2022.05.27
V.LEAGUE DIVISION2 MEN(V2男子)の富士通カワサキレッドスピリッツには、20年ちかく受け継がれるDNAがある。「明るく、楽しく、そして強く」のスローガン。選手たちは常にその言葉を胸に頂き、コートに立ってきた。だが、2021-22シーズンはチームの置かれた状況が異なった。5シーズンぶりの準優勝に、V・チャレンジマッチ(入れ替え戦)への出場から、チームの戦いをひも解く
【前編】はコチラ
<V・チャレンジマッチでは初日で勝利し、V1昇格まであと一歩に迫った富士通カワサキレッドスピリッツ>
なぜ、コート上であれほどまで弾けるのか
かつて、富士通が掲げる「明るく、楽しく、そして強く」を最もわかりやすく体現した選手がいた。2018-19シーズンで現役を引退するまで、チームの主力であり、キャプテンを務め、そして“顔”でもあった中川剛さん。現在は普及担当として携わり、ホームゲームでは応援団やネット配信における解説を手掛ける。
中川さんといえば、オポジットとしての決定力もさることながら、その独特のパフォーマンスで見るものを魅了した。得点すれば、全身全霊で喜びを表現し、時にはギャグを交えたようなコミカルな動きを繰り出したこともある。本人からすれば、「1点1点の感情を、たくさんの人と共有したい」という思いがあり、それはリーグのカテゴリーやプレーレベル、また、選手の立場も関係ない“プロ意識”が生んだものだった。
「自分は会社に所属するサラリーマンですが、見ている方々からすればプロのバレーボール選手であることに変わりない」とは中川さんが口にした言葉だ。
ともすれば、そうしたコミカルなパフォーマンスは見る人からすれば、“おふざけ”や“不真面目”に映るかもしれない。けれども、その中川さんの背中を見てきた今のメンバーたちは断言する。
「暗いバレーボールをしていても、相手の脅威になりません。それに、ああやって楽しむことが、勝ちにつながると信じて僕たちはプレーしています。コート上の選手たちの姿を見て、ベンチも観客も喜んで一体になる。それが富士通のよさだと思います」(栁田百織キャプテン)
<得点シーンでコミカルな動きを繰り出す④栁田と⑦加藤大雄>
天皇杯と年明けの連敗で自分たちを見失っていた
それができなかったのが、天皇杯ファイナルラウンドだった。V1との対戦機会も控える中、栁田は不安をのぞかせながら、いたずらっぽく笑った。
「僕たちのチームはパフォーマンスをやっているときのほうが、ムードがいいんですよね。それを、天皇杯だったりV1のチームと戦うときに、同じテンションでやりきれるか。だって、(1回戦で勝てば)JT広島と対戦するわけですが、相手には(オーストラリア代表のトーマス・)エドガー選手もいるんですよ。
V1でもやるの? と聞かれたら、やるよ!! って。自分たちらしさを出せるか、は戦ううえで大きな割合を占めています」
ただ、現実は違った。大会2日目の2回戦。JT広島を相手に終始劣勢を強いられながらも、得点すれば、スキップし、はしゃぎ、コミカルなアクションを繰り出しはした。だが、それはあくまでも劣勢に置かれた自分たちが平静を装うためのものだった。
「お客さんを楽しませるものではなく、自分たちの中だけで完結させてしまっていました。せっかくの有観客だったので、盛り上げられるようにできればよかった、と反省が残ります。でもね、やるのは勇気がいるんですよ(笑) 特に負けているときは。なかなかV2では味わえない感覚でした」(栁田)
<昨年末の天皇杯では持ち味のパフォーマンスも、どこか空回り>
明るく、楽しく。そのベクトルが内に向いてしまっていた。失っていた“自分たちらしさ”への反省を残し、チームは年明けからはリーグ戦の上位勢との対戦に臨む。すると、そこで富士通は18-19シーズン以来、実に4年ぶりとなる連敗を喫した。
特に、2敗目となった今年1月15日のヴォレアス北海道戦では逆転負け。最後の第4セットは体力的にも精神的にも“折れて”しまっていた。
その日はホームゲームで、なおかつコロナ禍では稀少な有観客での開催だっただけに、その現実を山本道彦監督は重く受け止めていた。
「監督としては、『よく戦った、次に向けて切り替えていこう』と。ですが、同時にチームのGMでもありますので、その立場からは『4セット目のようなウチらしくない姿は、お客さんたちに対して見せられたものではない。それでは、周りが認めてくれなくなるよ』と伝えました」
<今年1月15日のヴォレアス戦の負けが一つの転機に>
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