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ユニフォームは西武ライオンズ!? 文星芸大附高が掲げる全力の姿勢と、その歩み

 バレーボールなのに、あれは野球…? わかる人が見れば、思わずニヤリとしてしまうユニフォームを着たチームがいる。栃木県の文星芸大附高バレーボール部男子だ。

 

<文星芸大附高バレーボール部。ユニフォームの背中にはBunseiの文字が走る>

 

110年の歴史を持つ学校の校是

 

 白色をベースにしたユニフォームに、学校名は青色の筆記体で書かれ、緑と赤の2色のラインが肩やパンツのサイドに走る。そして、もう一着は、濃くも鮮やかなブルーをベースに、こちらは少し太めの角ばった書体で学校名が記されている。

 

 往年のプロ野球を知る人間がいれば、まさに西武ライオンズのまんまだ!! と、うならずにはいられないだろう。これが、文星芸大附高バレーボール部のユニフォームなのだ。

 

 その背景にあるのは、学校の「ライオン主義」という校是。それは、【獅子 象を擒(とら)うるに其力(そのちから)を全うし、兎を擒うるに其力を全うす】というもので、学校生活において夕方に必ず唱和するのだという。

 

 「本校出身者であれば、誰もが知っている言葉です。ライオンはゾウを狩るにも、ウサギを狩るにも、その力を出し切る。つまり、何事にも一生懸命に、という意味です」とバレーボール部の小林秀晃監督。「ライオン主義」の精神は、明治44年に設立された学校において、110年近くの歴史とともに紡がれてきた姿勢なのである。

 

 さて、文星芸大附高といえば、野球部は全国大会、いわゆる甲子園でその名前を耳にすることがあるが、どうしてバレーボール部と“西武ライオンズ”がリンクするのか。それは小林監督のルーツにあった。

 

<上下で鮮やかなライオンズブルーが印象的なユニフォーム>

 

隆盛を誇った“80-90年代、森・西武”へのオマージュ

 

「幼少期に野球を始めた私が中学・高校と白球を追いかけてきたころに、プロ野球界で強かったのが森祇晶監督の西武ライオンズでした。私が西武ファンだったので、ホームとビジターそれぞれのユニフォームをマネしたという。生徒たちにも話しますよ、森・西武はこんなに強いチームだったんだぞ、って(笑)」

 

 簡単に説明すれば、森監督が率いた1986年から94年の9年間で、西武ライオンズは8度のリーグ優勝、6度の日本一を果たしている。まさに黄金期であった。

 

 そんな強豪チームへのリスペクトから、ライオンズブルーで彩られたバレーボール部のユニフォームが誕生したというわけだ。

 

 興味深いのは、小林監督自身にそもそも競技経験がないこと。大学まで野球に励み、理科の教員として文星芸大附高に赴任したのは16年前。だが当時、すでに野球部は全国出場を果たすほどの実績をあげており、新しく着任した小林先生が携わることはかなわなかった。そこで回ってきたのが、バレーボール部の指導だったのである。

 

<監督の教えを胸に、部員たちはコートへ>

 

<次ページ>>>競技経験のない監督が伝える、大事なこと

<守備力とコンビを磨くことでサイズの不利を補い、勝利を目指す>

 

競技経験のない監督が伝える、大事なこと

 

 とはいえ、当時のバレーボール部は、部員数0。「最初は私が担任をしたクラスから、3人ほどを集めてスタートさせました。体育館はコートが2面張れる広さがあるものの、そのころからバスケットボール部が県内でも常に決勝を争うほどの強さを備えていたので、コートを割いてもらうのも難しくて。なので、外でバレーボールをしていました」と小林監督は懐かしむ。

 

 いざ指導するうえで大切にしたのは、競技力向上ではなかった。

 

「生活指導から、です。そもそも私自身に競技歴がなかったものですから、教えるのはバレーボールではなくて、礼儀やあいさつ、道徳といったこと。バレーボール選手である前に、一人の人間としてきちんとした立ち居振る舞いができるように、ということを常に心がけてきました」

 

 そうして始まった文星芸大附バレーボール部は、いつしかその一生懸命な活動ぶりが認められ、バスケットボール部からも「どうぞ」と、体育館を使用できるようになったという。

 

 「ですから、現役部員たちには、そうした先輩たちの姿があったからこそ今があるんだよ、と話しています。周囲に好かれるような、一生懸命な人間であれ、と」

 

<懸命にボールを追いかける姿が見られる>

 

全国大会出場を目指して

 

 栃木県の勢力図を見れば、過去に全国大会優勝の実績を持つ足利大附高と今年6月の関東大会ベスト8入りを果たした作新学院高の2強がいる。文星芸大附高は、そこに続く位置といったところ。

 

 チームは特に、今年度はサイズ的にも小柄な選手が多く、「つなぎの部分を意識して取り組んでいます」と小森優斗キャプテン。それでも、小林監督は「一生懸命な姿勢は、県内でもどこにも負けていない。その自負があります」と胸を張る。

 

 部員たちに、「ライオン主義」とは? と聞いてみた。すると、

 

 「何事にも全力で取り組んで、しっかりとやりきること、です」

 

 と即答した小森キャプテン。

 

 ライオンズブルーのユニフォームをまとい、文星芸大附高の選手たちは今日も全力で汗を流す。

 

<チームのTシャツには「獅子(ライオン)主義」の言葉と、『あしたのジョー』の作者であるちばてつやさんオリジナルの絵が描かれている>

 

(取材・文/坂口功将〔編集部〕)

 

>>><次ページ>【ギャラリー】文星芸大附高バレーボール部男子

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