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益子直美さん主催「つながるリーグ」誕生秘話。「バレーボールが嫌いになった」2人の出会い

  • コラム
  • 2022.07.20

 今年6月から福岡と山口でスタートした、バレーボールの小学生大会「つながるリーグ」。元・女子日本代表の益子直美さんが提唱した、試合中に“監督が怒ってはいけない”というルールを設け、単発の大会ではなく、半年間に及ぶリーグ戦形式へと発展させたものだ。そこには、益子さんと同じ思いでバレーボールの現場に向き合う一人の女性の存在があった。

 

<つながるリーグ2022福岡で見られた光景。益子さんたちは参加した選手たちと積極的に言葉を交わした>

 

福岡で「益子直美カップ」を開催

 

 福岡で、益子さんが大会を始めたのは2015年のこと。自身の名前を冠する大会を開催することに憧れはあったが、同時に益子さんの中には一つの懸念があった。

 

「まだ当時は、子どもたちが指導者に怒られる姿を見ることが多かったんです。私の大会だけは、楽しい時間にしたいな、って。でも、そんなことを言える時世でもなかったから…」

 

 そうして迎えた大会前日。福岡での大会を取りまとめ、現地で小学生チームを指導する北川新二さん・美陽子さん夫妻に、益子さんは思いをぶつけてみた。

 

 「私の大会で、子どもたちが怒られている姿は見たくないから、“怒ってはダメ”というルールを設けてみたいんだけど…、どうかな?」

 

 すると、北川さん夫妻の目もキラリと輝いた。

 

 「それ、いいね!!」

 

 翌日、開会式でそのルールを発表すると、参加チームからは困惑にも似た反応が返ってきた。それでも、益子さんには描く風景がある。

 

 今につながる、次代の指導の在り方が産声をあげた瞬間だった。

 

<福岡大会では参加した小学生たちの笑顔がコートでキラリ>

 

北川美陽子さんが指導者になって犯した過ち

 

「私も最初は選手たちを怒っていたんです。そのつもりで始めたわけではなかったのに」

 

 そう振り返るのは、大会に携わる北川美陽子さんだ。益子さんの2つ年下で、高校時代は全国制覇の実績を持つ福岡の名門・博多女高でプレーした経歴を持つ。だが、今では到底許容されない当時の指導を受ける中、結果として心も体もバレーボールから遠ざかった。

 

 「バレーボールが大嫌いでした。テレビでも見ないし、それこそ当時活躍していた選手は誰も知らないくらい。夫にも結婚するまで一切、口にすることがなかったですから」

 

 夫の北川新二さんが知ったのは、結婚を控え、仲人にお互いのプロフィルを伝えるタイミング。「実は…、って。実業団でもバレーボールをやっていたのに、全然そのことは言わなかった。そうなの!? って、びっくりしました」と新二さん。美陽子さんにとって、バレーボールは嫌悪の対象になっていた。

 

 そんな中、自身に子どもができたことをきっかけに、美陽子さんは再びボールを手にとる。

 

 「子どもがバレーボールを始めたいと言ったので、それなら、と。地元にチームや小学校に部活がなかったから、自分たちでチームをつくることにしたんです。私も、小学生のカテゴリーだったら楽しくやれるかな、と思っていました」

 

 だが、目の前には、かつて自分が味わった“嫌い”な世界そのものが広がっていた。

 

 「いざ、ジュニア(小学生)に飛び込んで、周りのチームを見ると愕然としました。いわば私たちの時代の高校生の“小学生版”。叩かれ、暴言が飛び交い、ボールがぶつけられ、それでいて勝利至上主義。最初は、私自身も躊躇(ちゅうちょ)しました」

 

 一方で、美陽子さんが県の強豪校出身であることが周囲に知れ渡り、次第に自身も飲み込まれていく。

 

 「ばれたことで、周りの目も変わっていったんです。『北川さんが指導するなら、このチームは絶対に強くなるね』みたいな声が、私にも届いてくる。保護者も『このチームなら子どもが上手になる、強くなれる』という思いが強くなっていきました。

 

 私も、そうならないとダメだ、みたいな暗示にかけられた感覚でした。手を出すことはありませんでしたが、とにかく練習はケガ人が出るくらい激しかったですし、休みのたびに練習試合を組んで、大会にも呼ばれるたびに参加しました」

 

 その結果、確かにチームは強くなった。そして、それと比例するように、美陽子さんの心労は貯まった。

 

 「どんどん子どもたちを追い詰めていっていることに、そのときは気づいてないんです。私はそれが嫌でバレーボールをやめたのに。でも後戻りができないから、自分で自分の首を絞めていく。最後の2年ほどは、なんでこんなことをやっているんだろう、もうやめたい、と家族に言い続けていました」

 

<夫の北川新二さんはバレーボール経験者ではなく、最初は指導現場を目にして驚くばかり。だからこそ、美陽子さんの考えに理解を示し、背中を押すことができたという>

 

>>><次ページ>再出発と、益子さんとの出会い

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