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バルドヴィン監督が語る西田有志と石川祐希のイタリアでの姿とパドヴァの育成論 今季WD名古屋を指揮

 2022-23シーズンからウルフドッグス名古屋の指揮を執るヴァレリオ・バルドヴィン監督。イタリア出身で、男子イタリア代表のユースチームに携わったほか、セリエAでは19/20シーズンのパドヴァで石川祐希と、昨季はビーボ・ヴァレンティアで西田有志とともに戦った。イタリアでの彼らの姿は、指揮官の目にどう映っていたのか? また、現・男子イタリア代表の面々に通じる、パドヴァの育成論を聞いた

 

<Valerio Baldovin(ヴァレリオ・バルドヴィン/1966年7月25日生まれ/イタリア出身)/Photo:legavolley.it>

 

イタリアでともにシーズンを過ごした石川祐希、西田有志への賛辞

 

 ネーションズリーグ2022男子予選ラウンド大阪大会に足を運んだバルドヴィン監督。来日はこれが初めてだという。名古屋に到着後は、名古屋城などに足を運んだようで、「モダンな建物もあり、素晴らしい町だと感じています」と語った。

 

―大阪大会をご覧になられて、会場の雰囲気はいかがでしたか?

バルドヴィン監督 とても感動しました。規則のために声を出しての応援ができませんでしたが、それ以外の方法で、たくさんのファンの方々がエールを送っていました。選手たちにとっても、うれしかったことでしょう。

 

 確かに、イタリアにも情熱的なファンがいますが、まるで違うと感じました。イタリア以上に、日本ではバレーボールが支持されていると思います。

 

―男子日本代表の印象をお聞かせください

バルドヴィン監督 とてもいいチームです。将来性豊かな若い選手たちを起用し、チャンスを与えていました。それに、イタリアでプレーしてきた石川祐希や西田有志、髙橋藍といった国際レベルにある選手たちの存在も大きい。システムも充実している、いいチームだと感じます。

 

―指揮されるWD名古屋の高梨健太選手や小川智大選手はいかがでしたか?

バルドヴィン監督 大阪で実際に話す機会がありました。ドイツ戦(7月9日)では試合に出続けていましたね。彼らのプレーを見ることができ、知ることができてよかったです。2人とも、私たちのチーム(WD名古屋)においてキープレーヤーになるでしょう。

 

<来日後まもなく、ネーションズリーグが行われた大阪へ足を運んだ>

 

―昨季はビーボ・ヴァレンティアで西田有志選手とともにシーズンを過ごされました

バルドヴィン監督 私が来日すると知ったときに、彼からメッセージがありました。また会えるのを楽しみにしている、と言ってくれましたね。

 

 第一印象から、彼はほんとうに素晴らしい人間でした。日本にいるときから世界的な選手となっていましたし、イタリアに到着した時にはイタリア語を話せていました。それは、ほかの外国籍選手より並外れていたほどです。すでにイタリアで力を発揮する準備ができている、と感じました。

 

 彼とは一緒にトレーニングに励みましたが、不幸にもシーズン途中でケガを負ってしまいました。ですが、彼はチームに貢献しようとしてくれましたし、日本とは異なるイタリアでの戦いの中で、例えばブロックに対しても適応しようとしていました。

 

 振り返れば、21/22シーズンはたくさんのことが起きました。ですが、自分たちがコントロールできないことが起きるのもまた、スポーツの持つ一面です。主力選手が離脱した(※)際も、私自身はそのときに最適なアドバイスを送ることができなかったと感じています。できることといえば、それらから学び、次につなげることです。

(※)主力だったアウトサイドヒッターのドウグラス・ソウザ(ブラジル)がシーズン途中で突如離脱した

 

<「自分の欠点を踏まえたうえで成長させてくれましたし、色々な面で助けてもらいました」と西田はバルドヴィン監督との時間を振り返った/Photo:legavolley.it>

 

―22-23シーズンでは西田選手と対戦することになります。どうやって彼を止めますか?

バルドヴィン監督 そうなんです(笑) とはいえ、今はとにかく自分たちのチームをつくることが最優先。自分たちのパフォーマンスを安定させてからようやく、相手チームにフォーカスすることができます。ですが、仰るとおり、彼を止めるのは決して容易ではありません。とにかく点を取ってくるでしょうから、こちらとしてはベストを尽くして対応したいところです。

 

―日本人選手でいえば、石川選手のパドヴァ在籍時に監督を務められていました

バルドヴィン監督 そのときすでに、彼はイタリアでのプレーを経験し、システムにも順応し、言葉も十分に話せていました。印象としては、素晴らしい、のひと言に尽きます。彼と過ごした19/20シーズンは残念ながら、コロナ禍のためシーズンをまっとうすることができませんでしたが、レギュラーシーズンでも順位は中団グループの上につけており、非常にいい戦いができたと思います。

 

 私が思うに、彼はあらゆる面において、完璧に近い選手です。サーブレシーブ、アタック、ディフェンス、それにボールのセット(トス)も。世界トップレベルのプレーヤーの一人であると言えるでしょう。私が指揮していた当時と今の姿を比べても、それほど大きな違いはありません。素晴らしいままです。その中でも、たくさんの経験を積み、そこで力を発揮し続けたことが、今のような安定感あるプレーにつながっているのだと思います。

 

<パドヴァでは育成チームも含めて計9シーズンを指揮し、2019/20シーズン(写真)では石川と一緒に戦った(Photo:legavolley.it)>

 

>>><次ページ>バルドヴィン監督の指導者人生で、最も成長を遂げた選手は?

<2009年男子U19(ユース)世界選手権でU19イタリア代表のアシスタントコーチを務めたバルドヴィン監督(後列右端)。若きフィリッポ・ランザ(⑰)やルカ・ベットーリ(⑭)、ダニエレ・マッツォーネ(⑨)ら、のちのイタリア代表の姿が/Photo:FIVB>

 

最も成長を遂げた選手は? 育成に注力することでチームの進歩につなげる

 

―選手の成長を感じられたときは、指導者冥利に尽きるのではありませんか?

バルドヴィン監督 そう信じてやみません。まず、コーチに必要なことは、選手を“マネジメント”するのではなく、選手を“指導する”こと。最適かつ十分なコーチングを授けることです。もちろん、勝利という結果はうれしいものですが、それは大事なことの、少なくとも一つに過ぎません。それを選手たちにも理解してもらいたいですし、一生懸命に励んでもらいたい。そして、彼らが成長するために私もベストを尽くすのみです。

 

―イタリアでも長年コーチをされてきた中で、ご自身の中で最も成長を遂げた選手を挙げるとすれば?

バルドヴィン監督 そうですね…。非常に悩むところです。誰とも忘れられない時間を過ごしてきましたから…。強いて挙げるならば、現・男子イタリア代表のリベロ、ファビオ・バラーゾでしょうか。彼とはパドヴァで5シーズン(13/14~17/18)をともに過ごしました

 

 まるでマシーン(機械)のような選手でしたね。トレーニング中から常に、高いクオリティーを求めていましたし、決して気を散らすことがありませんでした。それが、彼が成長した要因だと思います。

 

<男子イタリア代表で守護神を務めるバラーゾ(Photo:FIVB)。現在はリーグ王者ルーベに在籍>

 

―パドヴァはセリエAの中でも特に、育成に力を注いでいる印象です

バルドヴィン監督 パドヴァは決して資金が潤沢ではありませんが、その分、しっかりと組織が構築されています。そして、ユースやジュニア世代の選手がチームにとって重要な存在でもあります。当時、私もジュニアチームのテクニカルディレクターとして携わっていました。そこでは毎年、新しい若手選手をシニア(トップチーム)に引き上げるようにしていました。

 

 チームを12、3人のプロレベルの選手と2、3人の有望選手で構成する、という具合でしたね。そうすることで、チーム全体の成長にもつながりますし、同時に、費用をかけることなく強化ができたわけです。このシステムはシーズンを通して、非常におもしろい選手を発掘することにもつながりました。その最たる例が、今では男子イタリア代表に名前を連ねるアウトサイドヒッターとなったマッティア・ボットロです。

 

 彼との出会いは、夏の時期に行われていたU16世代の国内大会でした。私も毎年、その大会でパドヴァのユースチームの指揮を執っていたのですが、そこで才能あふれる彼の姿を目にしたのです。そのとき彼は別のチーム(バッサノ)でプレーしていたので、すぐにパドヴァの編成部に話を持ちかけ、招き入れました。そうしてパドヴァのCチーム、Bチームと着実にステップアップし、来季はチャンピオンチームのルーベでプレーするほどまでになりました。

 

<バルドヴィン監督に才能を見出され、ステップアップを遂げたボットロ(Photo:legavolley.it)>

 

―若手選手とトップチームの選手とでは、指導の仕方も変わってきますか?

バルドヴィン監督 あらゆる点で異なります。ですが、トレーニングの“質”という点ではそれほど差異はなく、むしろ私たちコーチからのアプローチにおいて違いが生じます。例えば、ジュニア世代を指導するときには、選手個々とまた技術的な部分にフォーカスします。一方で、シニアの場合もそれらは大事ですが、チームのシステムにいかに順応させるかが必要になってきます。シニア世代になってもさらに技術を高めることができますし、私たちも選手がそうであってくれると信じているものです。

 

 とはいえ、明確な違いを話すことは難しいですね。ジュニア世代の選手には、成長を続けるためにも楽しみながら技術を磨くことだよ、と伝えています。

 

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 イタリア北部、オーストリアに近い山間の町ベッルーノで生まれたバルドヴィン監督。人口4万人ほどの町で、幼少期から多くのスポーツに触れてきたそうだが、11歳の頃からバレーボールを始めた。主にはアウトサイドヒッターでプレーし、「私のレベルは低かったですよ」と恥ずかしそうに笑う。スポーツ指導の勉強は、体育大学に進学してから。以降、指導者としてはU18/19イタリア代表のコーチを務め、セリエAではパドヴァをスーペルリーガ(1部)昇格に導いた実績を持つ。

 

 とりわけ育成面に定評があり、WD名古屋のチーム関係者も「底上げをもたらしてくれると期待しています」と語る。ネーションズリーグ大阪大会では、出番が多くなかった小川智大に「振る舞いがよかったよ」と、高梨健太には「成長を続けるように」と声をかける姿が見られた。そのまなざしは温かく、成長を見守る父親のようでもあった。新指揮官の下、ポテンシャルの高い有望選手が並ぶWD名古屋がどのように発展を遂げるか、興味深い。

 

(取材・写真(ポートレート)/坂口功将〔編集部〕)

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