1972年に創部され、2022年に50周年を迎えたデンソーエアリービーズ。その節目の年に掲げたスローガン「BEE CHAMPION」の元、2022-23 Vリーグではその言葉に記された頂を目指す。半世紀を経て、次にチームが歩む先は。全4回の連載企画、第2回は次世代のバレーボール界に寄与する地域貢献活動
若年層世代にアプローチする競技普及・育成事業
2019年、デンソーは中学生世代を対象にしたジュニアチーム「エアリービーズジュニア」を設立した。Vリーグでは近年、活動拠点を置く地域での競技普及や育成の観点から、こうした取り組みが増えており、夏には各チームのジュニアチームが一堂に会する「Vリーグジュニア選手権」なる大会も催されている(なお、大会の運営担当はデンソーOBの櫻井由香氏)。
2016/17シーズンまでデンソーで監督を務め、その後はゼネラルマネジャーに着任、現在はアカデミーディレクターとして携わる山口祐之氏は、自身の経験を踏まえ、ジュニアチーム設立の動きをこのように語る。
「それまではバレーボール教室というかたちで、単発での取り組みはありました。ですが、地域とのつながりをもって活動していくとなると、やはり年間を通じて実施するのがベスト。また、Vリーグジュニア選手権という大会が発展していく中で、いざジュニアチームをつくるとなっても、いきなり出場するのは難しいですから。
ホームタウンの西尾市と連携をとらせてもらいながら、デンソーエアリービーズとして次世代の育成にも力を注いでいくという姿勢を、ジュニアチーム設立というかたちで表明し、理解をいただいたというわけです」
<今年のVリーグジュニア選手権でエアリービーズジュニアを指揮した山口氏>
山口氏は、自身が現役時代を過ごした堺ブレイザーズが2000年代からジュニアチームを始めとする育成事業に着手する光景を見てきた。地域貢献という意義を実感したのは、若年層をとりまく現状があるからだ。
「一つは部活動の減少です。とくに、男子は学校内でもバレーボール部が削減される順番が早いと感じていて。バレーボールをやりたいけれど、学校に部活がない。そうした子どもたちの受け皿として、Vリーグのジュニアチームがあるという具合です。
とはいえ、いよいよ男女で差はなくなってきていると感じます。全体的に部活動が削減される傾向にあるなかで、将来のバレーボール界を担う子どもたちを救うためにもやらなければならないことの一つだと。そうした思いをもって、Vリーグの各チームも普及・育成活動に励んでいることでしょう」
<設立以来、初めて出場したVリーグジュニア選手権>
>>><次ページ>トップ選手は子どもたちにとって…
<プレーに励むエアリービーズジュニアの選手たち。ミツバチもといミニバチ、といったところか>
トップ選手は子どもたちにとって“アイドル”である
同時に、デンソーは従来のバレーボール教室といった育成活動のほかに、「エアリービーズ杯」という冠大会を10年以上にわたり開催している。中学生部門は今年で14回目、小学生部門は11回目を数えた。これまでは拠点を置く西尾市で実施してきたが、セカンドホームタウンである福島県郡山市でも今年2回目の大会開催が実現した。その大会には、デンソーの現役選手たちも足を運び、交流を図っている。
「ほんとうに毎年、開催地の方々のご協力のおかげで、たくさんのチームに参加してもらっています。やはり地域の子どもたちが試合できる場や、地域活性化が目的になります。それに選手たちが出向くことで、エアリービーズや選手たちの顔を知ってもらうチャンスにもなります。地元にはデンソーというチームがあって、こうしたステージを目指して子どもたちには頑張ってほしいな、と思ってもらえたらうれしいです」(山口氏)
トップ選手たちと触れ合うことは次世代の子どもたちにとって、競技をしていれば励みや指針になるし、純粋にバレーボールへの興味関心が深まれば、人気にもつながっていく。そこにエアリービーズ杯の持つ、大きな価値がある。それは、エアリービーズジュニアも同じだ。
<今年のエアリービーズ杯の様子(写真はチーム提供)>
近年はコロナ禍にあって、直接触れ合う機会も限定的になってきているというが、ジュニアチームが練習する場所はトップ選手が使用する体育館。必然的に、同じ空間を共有することになる。その意味を、山口氏はしみじみと語る。
「中学生を指導するようになって感じることなのですが、子どもたちにとって現役のVリーガーはもう“アイドル”なんです。私が一生懸命、週に2回、2時間指導しても、エアリービーズの選手がひと言声をかけるだけで、子どもたちの顔や目の色が一瞬で変わる。これはすごいなと思いました。
私自身も現役時代は正直、とにかくバレーボールを頑張る、結果を出す、目の前のことに集中する、という思いで向き合っていましたが、それ以上のものがあるのだと。試合に出ている、出ていないではなくて、エアリービーズのユニフォームを着ている時点で、アイドルであり、ヒロインである。そのことに現役の選手たちには気づいてほしいですよね。試合で結果を残すことも、それはバレーボールに励んでいる、またバレーボールに興味を持ち始めている子どもたちにとって、夢や希望を与えるんだよ、その責任を背負っているんだよ、と」
ジュニアチームを通して、地元の、地元で育った選手がいずれトップチームの一員になる。それもまた、エアリービーズの描く夢の一つだ。
そして実際に、エアリービーズ杯に参加していた小学生が今、デンソーのユニフォームを着ることになった。今季から入団したミドルブロッカーの横田紗椰香である。
【第3回に続く】(近日公開)
「子どもたちにとって現役のVリーガーは、もう“アイドル”なんです」-山口氏
(取材・文/坂口功将〔編集部〕)