今年の夏は、2020年初めのコロナ禍以降、ようやくかつての日常を取り戻しつつあるのだと実感する機会が多かった。とりわけバレーボールの中学生世代では、各都道府県レベルから全国大会である全日本中学校選手権大会(全中)まで、ほかにも数年前まで恒例で行われていた交流大会などが復活するなど、学生たちがボールに食らいつき、汗を流す姿が各所で見られた。もちろん、コロナ禍は続いており、現場では感染症対策の徹底が図られ、また出場辞退や棄権をやむなくされる選手やチームが見られるのもまだ現実である。
ビーチバレーボールの全国大会「湘南藤沢カップ」が開催
今年8月17日(水)~18日(木)には、4人制ビーチバレーボールの全国大会「第13回湘南藤沢カップ 全国中学生ビーチバレーボール大会」が湘南・藤沢市鵠沼海岸(神奈川)で3年ぶりに開催された。2日目には一時的な強風や大雨に見舞われたものの、総じて好天に恵まれ、参加者たちは砂まみれになりながらプレーした。その中に、大森二中男子バレーボール部(東京)の姿があった。
大森二中といえば、強豪校ひしめく東京都ひいては関東ブロックを突破する力を持つ、全国大会常連チームだ。だが今年の夏は都大会ベスト16の成績で、シーズンを終えている。思わぬ早期敗退の背景にあったのは、コロナ禍だった。嶋守正義監督は振り返る。
「大会直前となって、部員がコロナ禍に見舞われました。なんとかメンバーを構成して試合には臨めましたが、そこで初めてセッターをする部員にトスを上げてもらうなど、やはり厳しかったです」
ぬぐえない悔しさを抱いた夏
とりわけ3年生たちにとっては、夏の大会がいわば最後の公式戦。やりきれない思いは募り、「最初はバレーボールから完全に心が離れました」と佐藤加雲(さとう・かぐも)キャプテンは明かす。それでも、再びボールを手に取ったのは、湘南藤沢カップがあったからだった。
そもそも大森二中は、学校から歩いていける距離に「大森ふるさとの浜辺公園」があり、そこでビーチバレーボールの練習に励むことももっぱら。また、嶋守監督はビーチバレーボール日本代表で東京2020オリンピック出場を果たした白鳥勝浩を中学時代に指導した過去があり、そんなつながりから白鳥氏が大森二中の部員たちにアドバイスをする機会もあるという。
そうして今年の湘南藤沢カップには3年生を中心にチームを構成し、臨むことにした。この大会は“全中ビーチ”の名称で親しまれる。そう、これもれっきとした全国の舞台だった。
3年生たちがコートに。「好きになることができました」
いざ大会本番では初日のグループ戦で2勝をあげ、翌日は最上位クラスの決勝トーナメント進出を果たしてみせた。
「全員で楽しむことを試合では心がけていました。風を読むこと、そのうえでサーブを打つことなどは、普段の練習が生きたと思います」と佐藤キャプテン。また、インドアではレギュラー入りが難しく、裏方に徹していた3年生の塗師尾覇(としお・はる)もリリーフサーバーとして投入され、仲間たちと一緒にコートに立つ場面も。その姿を見た嶋守監督はどこか胸をなでおろしたように見えた。
結果は決勝トーナメント2回戦敗退となったが、全員が笑顔を浮かべる。 佐藤キャプテンの口元から白い歯がキラリ。
「この大会のおかげで、もう一度バレーボールに向き合えました。もっともっとバレーボールを好きになることができました。プレーするのが、楽しかったです!!」
大森二中には嶋守監督が部員たちに捧げる言葉がある。それは「バレーと思うな。人生と思え」。
ぬぐえない悔しさを味わった。一方で、その先に取り戻した感情があった。それが、大森二中の部員たちの人生に刻まれた、この夏の思い出だった。
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
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