いよいよ10月22日(土)からVリーグが開幕する。開幕戦会場の一つ、愛知県稲沢市の豊田合成記念体育館エントリオでは、およそ1ヵ月前の9月23日(金・祝)~25日(日)の3日間、「愛知バレーボールフェス」と称したイベントが開催されていた。
企画のキックオフは何と今年の4月。具体的に準備が始まったのは7月からだった。それでもこのような盛大なイベントが開催できたのは、「ホームゲーム開催のノウハウが生きた」からだと関係者は語る。
ファンと各カテゴリーの選手が交差
「最初、このイベントの話を聞いたとき、『新しいなぁ!』と思いました。バレーボールを多くの人に知ってもらうためにも、こういう新たな取り組みは必要だと思いますし、参加できてうれしく思います」と声を弾ませるのは、デンソーエアリービーズの森谷史佳主将。全国的に見ても例の少ない、「バレーボールフェス」の内容は、男女高校生の親善試合、小学生対象のバレーボールクリニック(教室)、男女V1チームによるエキシビションマッチ、選手のスペシャルトークショーなど盛りだくさんだ。
いちばんの目玉は、服飾系の専門学校である名古屋モード学園とコラボし、独自の衣装に身を包んだ選手がランウェイを歩く、ファッションショー…! と言いたいところなのだが。やはり最大の売りは、高校とVリーグの試合や、V1男女による試合など、同日・同会場にて、異なるカテゴリーに触れることができる日程が組まれたことではないだろうか。
「混ぜたかったんですよね。高校バレーのファンの方がVリーグチームを見たら、あぁ、これも楽しいな、と思えたりするかもしれないし、ふだん男子チームを見る方が、女子もおもしろいんだ! と新たな発見をしてくれるかもしれない。カテゴリーを混ぜる、横をつなぐ、という試みを、絶対やりたいと思っていたんです」
昨シーズンが終わった瞬間にそう思った、と語るのは、愛知県バレーボール協会の理事で副会長である、横井俊広さん。このイベントの発起人である。
愛知県には、Vリーグに所属するチームだけで7つある。小中学生、高校生やママさんバレーのプレーヤーも多く、ビーチバレーボールの選手登録数も全国で最多だ。一つ一つのカテゴリーの競技人口は多い。しかし、それぞれが独立・完結しており、おのおのの観客者数も伸び悩んでいる。この現状を打破したい。もっとたくさんの人にさまざまなカテゴリーに触れてもらって、関心を広げてほしい、楽しんでほしい。横井さんがイベント開催を思い立ったのは、そんな気持ちからだった。
愛知バレーボール協会の専務理事を務める小縣徹男さんは、横井さんからイベント開催について相談を持ちかけられ、すぐに首を縦に振った。
「愛知県は恵まれています。チーム数も多いし、競技人口も多い、地方都市という立地条件もあります。他の県から愛知県はいいよね、と言われるかもしれない。でも、我々も地道な取り組みで、やれるところから一つ一つ組み立ててきた。まず『これをやりたい』と夢を描くところからですね。だから、横井さんから話を聞いたとき、『いいですね、まず高校生とVリーグを混ぜちゃいましょう!』とすぐに提案しました」
子どもたちと「Vリーガー」が出会う
イベント初日、まず高校女子が登場。豊川高とのフルセットに及ぶ親善試合に粘り勝った誠信高の主将、小田夏永保さんは試合後、春高の愛知県大会決勝会場でもあるエントリオで、有観客でプレーできたことに喜びを表現するとともに、「Vリーグの試合がこれからあります。見られることにワクワクしています」と白い歯をのぞかせた。現役の高校生プレーヤーが、Vリーグの試合を観戦できる機会は実はなかなかない。強豪校であればなおさら、どうしても練習や試合と予定が重なってしまう。
横井さんは言う。「子どもたちに将来の夢を尋ねたときに、Jリーガーとか、プロ野球選手! というのはよくあると思うけど、Vリーガーというのはなかなか出てこない。現役選手に『子どものころからVリーガーって知ってた?』と聞いても、うんと言う人は少ない。僕はね、子どもたちに『Vリーガーになりたい!』という夢を描いてほしいな、と思うんです。それにはまず、Vリーガーと子どもたちを出会わせる場を作らないと、という気持ちがありました」
イベント1、2日目に実施された、小学生を対象としたバレーボールクリニックでは、現役選手とチームのコーチたちが先生役となった。選手から直接指導を受ける子どもたちの目は真剣そのもの。それでいて、「選手のサーブ受けてみたい人?」と言われると「はい! はい! はい!」と、満面の笑みで全員がコートの中に駆け入っていく、穏やかで和やかな空気が漂っていた。
クリニックに参加した小学生たちは、そのあと行われたVリーグの試合をそのまま保護者とともに観戦した。
「クリニックのあと、Vリーグの試合が見られるというのは、かなりいいと思います。子どもたちがバレーボールを観戦するには、お金や時間に関して保護者のサポートがあってこそですから。保護者に負担が少ないのはメリットが大きい。こういう機会を増やしたいですね」
デンソーエアリービーズの木村泰輔コーチもそう話すように、クリニック単独ではない、試合観戦もできる段取りは主催者の「狙い通り」。“先生”たちが試合で活躍する姿を見て、子どもたちの目はいっそう輝いていたように見えた。
地域から、ともに未来へ
「愛知県の尾張地方は繊維業の街。モード学園さんと協力したファッションショーでは、服とバレーボールを掛け算して、地域を盛り上げられてよかったです」
イベント3日目のファッションショーで、黒を基調とした開襟シャツを見事に着こなした近裕崇選手。所属するウルフドッグス名古屋は地域とのつながりを重要視しており、近選手は“実習”という形で、チームのホームタウンである一宮市の市役所で2ヵ月間働いたこともある。
「僕たちは選手である以前に、いち地域住民ですから。住んでいるこの街の振興に少しでも貢献していきたい。バレーボールだけではなくて、こういう形で、何かとバレーボールを組み合わせて、これからも地域に何か還元できたらうれしいです」
地域とチームのつながりをより一層知る近選手は、観客で埋まるエントリオを見渡し、感慨深そうに笑う。
ゲスト解説者として参加した、Vリーグ機構の理事でもある大林素子さんは、「愛知県さんのアイデアで、まずこのイベントを実行していただけたことをとてもうれしく思います。こういう催しが各県で実施できるように、愛知県にはモデルケースになってほしいですね。ゆくゆくは、各県、各世代、各カテゴリーを集結させて、“全国バレーボールフェス”までつながるような、そんな素晴らしい第1回の開催になりました」と、バレーボールの発展を見据えながら話した。
愛知県は、2026年に第20回アジア競技会の開催を控えている。今回のイベントは、同大会に向けて競技力向上を目指すという意味の位置づけもある。競技力の向上も、バレーボール人気の裾野が広がることも、子どもたちの夢も、地域振興も。多くの可能性を秘め、幕を閉じた第1回愛知バレーボールフェス。来年は、どんな発展を魅せてくれるだろうか。
文/淺井恭子 写真/長尾里絵、淺井恭子
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