古きよき時代に思いを馳せながら、新しい風に触れると、ふと寂しさを覚えることもある。それは当然かもしれない。けれども、さらなる発展のためには、変化をいとわない姿勢が欠かせないのも然り。Vリーグの堺ブレイザーズが手掛けてきたオンリーワンのコンテンツが今季、そのかたちを変えた。
<ギャラリー>【15枚】2022-23シーズン開幕戦 堺市大会を戦う堺ブレイザーズの選手たち
国際大会で馴染みある音響や演出に
2022-23シーズンの開幕を、拠点とする日本製鉄堺体育館(大阪)で迎えたDIVISION1 MENの堺ブレイザーズ。今季最初のホームゲームと銘打たれた2日間は、いつもと違う空気が体育館に流れた。
得点シーンごとに、観客にも身振り手振りを交えたパフォーマンスを促すものだが、その内容はこうだ。
力強いスパイクには「BOOM!! BOOM!!」、強烈なブロックシャットには「MONSTER BLOCK」、そして爽快なサービスエースには「ACE!! ACE!!」。
それらの単語が、BGMとともに場内に響き渡る。ひょっとしたら、日本代表の試合を見たことがあるかたはピンとくるかもしれない。そう、国際バレーボール連盟(FIVB)主催の国際大会で、おなじみの演出なのだ。
堺ブレイザーズのホームゲームといえば、チームの“応援団長”であり、芸人としても活動するなおきさんが場内を駆け回り、ときに漫談や関西人さながらのボケとツッコミを織り交ぜるのが一つの演出であり、ほかのチームには到底まねできないコンテンツだった。
それがどうだろう。レトロな浪花節からがらりと、モダンでインターナショナルなバイリンガルに変化したのである。その背景には、変わりゆく時代への対応と新たな狙いがあった。
ダンスミュージックを中心としたBGMに場内のムードもアップ
「変わらないといけない。それはずっと感じていたことでした」
そう話すのは、当事者であるなおきさんだ。20年以上、堺ブレイザーズに携わり、ホームゲームを盛り上げてきた。変化を求めたのは、自身の応援団長としての考えでもあった。
「やはりコロナ禍になってから、声を出しての応援が厳しくなったり、スポーツ界もどんどん変わっていく中、僕たちもアップデートしないといけない、と考えました。どうしても今までは声を出す、80年代のスタイルを提供してきたわけですが、それこそ手拍子でも応援できるようなものにしよう、と」
これまではなおきさん自身が、演出そのものだった。今は違う。いざ試合におけるなおきさんはサンプラー(音楽を操る機械)を手に、観客へ応援を促す演出家なのだ。
試合中は、ダンスミュージックが流れる。今季の開幕週では、ギターのフレーズが有名なT.REXの「20th Century Boy」のアレンジバージョンが、ほかにもクリス・ブラウンの「Yeah 3x」やデビッド・ゲッタ&ショーテックの「Bad ft.Vassy」など、ダンスフロアを沸かす楽曲が続く。相手の得点シーンでも、アヴィーチーの名曲「Wake Me Up」が流れ、堺側としては失点したはずなのに気持ちがかき立てられる。BPM120~140前後が生み出す高揚感が、バレーボールの会場にうずまくのだ。
もちろん、堺ならでのエッセンスもある。BGMの締めは、チームのロゴマークにも登場する怪獣の雄叫び。また、なおきさんは「わっしょい、わっしょい!!」と観客に腕を振るジェスチャーも求め、時には「座りっぱなしだとストレスがたまってくるといいますか(笑) ジュリー(大会運営責任者)にも確認をとってから」立ち上がり、リズミカルに踊ってみせる姿も。
「20年以上やってきたスタイルがあったので、新しい演出に抵抗がないと言えばウソになるかもしれません。けれども、開幕を迎えると全然!! やっていて、僕もすごく楽しかったです」と応援団長はほほえんだ。
初めて来場しても手拍子を繰り出せる
国際大会仕様に踏み切った目的の一つには、新規ファンの獲得がある。男子日本代表が国際大会で上位の成績を残す機会が増え、注目も集まった。その選手たちがそれぞれのチームで活躍する姿が見られるのが、Vリーグ。そこに足を運んでもらった際に、引き付けるコンテンツを提供したいという考えだ。
「おそらく今年7月に大阪で開催されたネーションズリーグや代表戦をきっかけに、Vリーグを見に来たというかたも今後さらに増えてくるはずです。そのときに、この空間を楽しんでほしい。一緒に勝ちましょう、応援を楽しんでください、という思いが、堺にとって新しいスタイルに込められています」(なおきさん)
ダンスミュージックを主体としたBGMは、そのリズム感も相まって手拍子がしやすいもの。開幕週では、幼い子どもたちがひっきりなしに手をたたく様子も見られ、なおきさんも「1セットくらいで疲れると思って見ていましたが、最後まで手拍子をしてくれてうれしかったです」と感動を隠せずにいた。
モデルチェンジを肌で感じていたのは選手も同じ。在籍10季目で、以前のスタイルも知る主将の出耒田敬は「やっぱり違和感はあります」と笑い、続けて「何でも変化する際は、最初は違和感があるものなので。これがブレイザーズの応援のかたちになってくれる、そして、観客の皆さんと盛り上がれるのは間違いないです」と語る。男子日本代表でFIVB主催試合を経験してきたリベロの山本智大も「僕は聞き慣れていますし、ファンの方々に浸透して、さらに一人でも多く増えていただけるように。そのために、僕たちも一生懸命に頑張ってプレーしなければいけません」と言葉に力を込めた。
「堺ブレイザーズの応援を実現できれば」(なおきさん)
ともすれば、堺の応援スタイルに親しみを覚えてきたファンの方々にとっては、寂しさを覚える方向転換かもしれない。「『スタイルが変わったけれど、楽しいよね』と言ってもらいたい」と話すなおきさんも、そうした長年チームを応援してきたファンたちの思いを受け止めている。だからこそ、応援団長は少しいたずらっぽい目つきで明かした。
「実は、サンプラーの奥深くに、眠らせています。手拍子を使った新しいスタイルを浸透させつつ、ファンの方々の要望も織り交ぜて、ね。そうした仕掛けも含めて、これから堺ブレイザーズの応援を実現できればと考えています」
まだまだVリーグの2022-23シーズンは始まったばかり。ここからさらに試行錯誤を重ね、趣向を凝らした演出を提供してくれることだろう。
寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
ご贔屓さんも、ご新規さんも大歓迎。
これが、堺ブレイザーズの応援やで!!
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
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