元監督のバレーボール便り fromハワイ 第2回
- 海外
- 2022.11.09
豪快! バズーカ砲で賞品を配布
大学バレーボールにおけるエンターテインメント性
元慶應義塾大学体育会バレーボール部監督の宗雲健司です。2回目のリポートとなる今回のテーマは、大学バレーボールの「エンターテインメント性」です。先日、日本バレーボール機構(Vリーグ機構)からプロ化も視野に入れた新リーグ設立を目指す旨の発表があり、開幕したVリーグでも東京グレートベアーズがさまざまな取り組みに力を入れていることが伝わってきました。日本の学生スポーツにエンターテインメントが必要か否かの議論はさておき、同じ学生スポーツのそれについて、観たまま感じたままをお伝えします。
私が初めて米国の大学バレーボールの試合を観戦したのは2002年CSUN(California State University, Northridge)で行われたCSUN対UCLA戦です。UCLAの公式戦用体育館と比べるとやや小規模の体育館で行われた試合ですが、軽快な実況パフォーマンスのなか試合が進み、第2セットが終了するとセット間の表示が「8分」となりました。そのうち5分間は、運営スタッフによりコート半面に手際よく広げられたTシャツやタオル、キャップなどのチームグッズにサーブを当てる「サーブターゲット」の時間となります。
第2セット終了後、勝手知ったる老若男女の観客は片手にピザ、足元はビーチサンダルなどの気ままなスタイルでコートに降りてきて、エンドラインから1人1球サーブを打ちます。サーブといっても未経験者、経験者とさまざまですから打ち方は人それぞれ。見事ボールがグッズに当たると、本人はもちろん見ず知らずの観客も大いに盛り上がります。そのあと5分経過のブザーが鳴ると、観客は潮が引くように席に戻ります。その和やかな、テンションの上がった状態で迎える第3セットはさらに盛り上がります。
もちろん主役は選手たちなのですが、試合以外にも「観客参加型」の催しで試合全体を盛り上げる工夫や、楽しませるという「おもてなし」の精神が感じられます。私もこのサーブターゲットを、小学生バレーボール教室などを行う際に取り入れましたが、子どもたちは満面の笑みで楽しみますし、その笑顔を見て準備、運営した大学生も笑顔になります。もちろんグッズを準備するためには卒業生の協力が必須ですので、日頃から卒業生とのコミュニケーションも重要と、そこはつながりを求められる部分です(賞品はお菓子セットでも十分です)。
最後まで来場者を楽しませる工夫の数々
前置きが長くなりましたが、今回は強豪ハワイ大学マノア校(以下、UH)の取り組みについてご紹介したいと思います。プロスポーツ先進国であるアメリカですが、意外にもハワイ州にはプロスポーツチームが存在しません。よって、市民のスポーツへの関心、応援はさまざまな競技において強豪であるUHに向けられます。バレーボールに限ってご紹介すると、女子のシーズンは7月から11月、男子は12月から5月初旬までです。実はコロナ禍直前の2020年2月に男子の試合を観戦し、そのエンターテインメント性の高さに驚き、いつかどこかでご紹介できればと考えていましたので、このような機会に感謝、感謝です。
さて、ワイキキから車で10分程度のマノア地区の広大なキャンパスにある、国立の施設と見紛うほどの存在感を示すドーム型体育館(Stan Sheriff Center)には、各競技のユニフォームなどのグッズを販売する売店のほか、観客席下の通路には食事を提供する売店が多く並びます。概ね試合は19時開始ですので、観客は売店で購入した思い思いの夕食を食べながら(もちろんビールも)、試合前のセレモニーを楽しみます。リスペクト感漂う中、米国国歌、ハワイ州歌の独唱で観客の雰囲気が最高潮に達します。これ、大学のリーグ戦(Division1)ですから驚きです。
通路は売店が並ぶ
両監督は歓迎の意味で贈られたレイを首からかけて試合開始。アロハシャツに身を固めたブラスバンドが軽快な音楽とパフォーマンスで会場を沸かし、天井からつり下げられている大型ビジョンには選手紹介やプレーの再現、タイムアウト時やセット間には広告が流れるほか、盛り上がる観客を映し出します。極めつけはセット間に飛行船が観客の頭上をゆっくり旋回しながら、パフォーマンスで盛り上がった観客へ地元で使えるクーポン券をパラパラと落としていきます。よって、タイム時やセット間も飽きさせず、観客は盛り上がったままです。再度書きますが、大学バレーボールのリーグ戦です。
バレーボールの試合だけでいい、という考えも理解できますが、このエンターテインメントをもってしても、高いレベルのバレーボールはしっかりと楽しめます。そして試合が終わると両チームのスタッフ、選手たちはクールダウンより先に最前列の観客席の前に来ると時間をかけて一周し、関係者や観客にハグ、握手、ハイタッチをして感謝を伝えます。とても素敵な時間です。さらには、しばらくして観客席下通路で待っている少年少女のファンたちと記念撮影のためにユニフォームのまま現れます。順番待ちをして写真を撮ってもらう子どもたちの表情はキラキラしています。
参考までに、掲載する写真は11月4日(金)のUH対Long Beach Stateの女子戦です。3,000人を超える観客の大声援のなか、締まった試合内容に耳触りのよい実況、ブラスバンド、チア、大型ビジョンでのダンスタイム等々…。
「我々のころは」は禁句ですが、あくまでも比較という意味でご紹介すると、昭和60年ごろの関東大学リーグは1部6校制でしたので、その日に開催される試合はメインコートで1試合ずつ計3試合。公式練習では各校の校歌が流れ、おのずと気持ちも上がってきました。エンターテインメント性があった部分としては、この校歌演奏ぐらいだったでしょうか。当時は川合俊一(現JVA会長)、熊田康則、田中直樹、井上謙(敬称略)等のスターがそろい、各試合は立ち見まで出るほどの超満員でした。少し懐かしいですね。今の学生に当時の人気、観客数を話してもまったく想像できないようですが。
昭和の時代と違い、多くの競技がさまざまな工夫と強化でファンを増やし、メディアでの扱いもバレーボールを追い越していったこの30余年。物事に変化を起こすには想像以上のエネルギーが必要ですが、試合をする学生、スタッフに最高の舞台を準備し、観客も巻き込む環境を作るためにも運営側は一度UHの試合に足を運ぶといいかもしれません。
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