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VC長野 森﨑健史の告白「絶対に守らなきゃいけない」V1残留に導いたチーム最年長選手が語る勝利の重さ

 

 

 10月29日、2022-23 VリーグDIVISION1 MEN(V1男子)では昨季リーグ最下位のVC長野トライデンツが昨季王者のサントリーサンバーズを下すアップセットが起きた。しかもVC長野は今季最初のホームゲーム。選手たちはもちろん、駆けつけたファンも喜びに浸ったに違いない。と同時に、思うのだ。苦難に見舞われた昨シーズン、最後の入れ替え戦でV1残留を遂げていなければ、この感動も味わえなかっただろうと。そして、あの光景がよみがえる。チーム最年長の森﨑健史が観客にむけて突き出したこぶしを。今だからこそ、彼の告白をここに記したい

 

 

森﨑健史(もりさき・けんし/1992年7月25日生まれ/身長187㎝/最高到達点340㎝/武生高〔福井〕→宇都宮大→VC長野/ミドルブロッカー)

 

<ギャラリー>【40枚】激闘がよみがえる。VC長野vs.ヴォレアス 2021-22 V・チャレンジマッチ

 

プレッシャーを胸に臨んだ2021-22シーズン最後の入れ替え戦

 

 生き残れるのだろうか。いや、何としても生き残らなければならない。2021-22 V1男子を5勝31敗のリーグ最下位で終えたVC長野は、今年4月9日~10日の入れ替え戦「V・チャレンジマッチ~2022-23 V.LEAGUE DIVISION1 MEN出場決定戦」に臨むことになった。

 相手は2021-22 V2男子を制し、宿願のV1昇格に燃えるヴォレアス北海道。対戦カードが決まってから、VC長野の森﨑健史には常にプレッシャーがつきまとった。

 

 「ヴォレアスのSNSやツイッターなどを見ていると、この入れ替え戦に対する向こうの熱量をとても感じていました。実際にビデオを見て対策研究をするかぎりは、勝てない相手ではないとは思っていました。ですが、入れ替え戦という舞台は、どうしても下のチームが上のチームを倒す、その姿に応援が増す風潮があり、会場もそうした雰囲気になると想像できたので。どれだけ踏ん張れるか、をいちばんに考えて臨みました」

 

 舞台は中立地ともいえる小田原アリーナ(神奈川)。いざ当日、会場には北海道のテレビ局による中継が入るなど、ヴォレアスを押し上げるムードはあった。ただ、同じようにVC長野のシャツを着て応援する観客の姿も見られ、両チームの応援は同量の熱を発していた。

 「会場に入ったときから『たくさん来てくれている』と感じましたが、公式練習の途中からBGMも流れて、ホームの感じがすごく伝わってきました。あれだけのファンがきてくれたことが、力になりました」

 

 

2日間、激しいサバイバルが繰り広げられた小田原アリーナ

 

初戦を落としたVC長野。2戦目で森﨑は先発出場

 

 9日の初戦、チームは2-3(31-33,25-19,25-21,18-25,12-15)で敗れる。歓喜するヴォレアスをネット越しに見ながら、VC長野の選手どうしでは「明日3-0で勝てばいいんだ」という声もあがるが、厳しい状況に立たされたのが現実だ。森﨑自身は、内定選手(当時)も含めて若い顔ぶれが並ぶチームメートたちに対して「しっかりとファンにあいさつしよう」「明日のために休もう」と声をかけた。もちろん内心は「すごくやばかった」のが正直なところ。それでも、試合後に一礼すると、応援してくれるファンの姿を目にしながら、心の中で唱えた。

「下ばかり向いてはいられないな」「明日も応援お願いします」と。

 

 すべてが決着する翌10日の第2戦。先発出場が告げられたのは、試合直前だ。はっきりとは覚えていないが、ウォームアップを終えて、公式練習の前後くらい。初戦はリリーフサーバーでの起用だったが、それでも気持ちはできあがっていた。

 

 「前日の晩も、精神的には“きて”いたんです。ですが、明日のために体を万全にしなきゃ、と思ってしっかりストレッチからダウンをして、栄養を摂って寝ました。

 2日目は折り合いをつけていましたね。やるしかないし、いつもどおりやろう、変に気負い過ぎてもダメだ、と。第1セットが大事だと思っていたんです。なので、いいかたちで試合に入れるように、チームのみんなの様子を見ながらアップしていましたし、僕自身、率先してストレッチをしていました」

 

 

9日の第1戦はリリーフサーバーとしてプレーした

 

 

 

強敵ヴォレアスと真っ向から対峙する

 

アタック決定率100%の活躍でV1残留に貢献

 

 その第1セットは35-37という壮絶な競り合いの末に落としてしまったが、第2セットを25-19で獲得。しかし第3セットは奪われ、敗戦すなわち降格に王手をかけられる。コートチェンジをして、第4セットに臨む前に、森﨑は声を上げた。

 「あと第4、第5セット。あと2セットもできるよ!!」

 

 フルセットの初戦に続いて緊張感が張り詰める中、一進一退の攻防が繰り広げられる。それはメンタルもスタミナも削り取っていくものだ。森﨑自身、持ち味のサーブでは相手の嫌なコースを狙い続けるためにも、適度な力加減で打つことを心がけていたが、それでも第4セットになれば、疲労感がずしり。

 「さすがにガタがきていて、声を出すことで自分も周りも奮い立たせないことにはエネルギーがもたないな、と感じていました」

 

 チーム最年長選手の気迫が仲間に伝播したか。第4セットを25-14の大差で奪い返すと、第5セットもリードする展開に。ヴォレアスの猛追もあったが、15-10で勝ち切ってみせる。2日間の成績は1勝1敗。セット率は同数。得失点差で、VC長野がV1残留を決めた。

 

 

要所でブロックシャットを決めて、全身で喜びを表現する

 

 森﨑はこの第2戦でアタック決定率100%(12本中)をマークしたほか、ここぞの場面でブロックシャットも。松本隆義監督(当時)は試合後の会見で、「長年培った技術を生かしてくれました。それだけでなく、若い選手に相手の傾向などたくさんのアドバイスを含めて声をかけてくれました。非常に大きな存在でした」と賛辞を惜しまなかった。

 

 第2戦が決着した瞬間、コート上ではそれぞれが素直に感情をあらわにしていた。あるものは床につっぷし、あのものは仲間と抱き合う。その輪のそばで森﨑は一人、真っ先に観客席へ数歩進むと、こぶしを突き上げた。

 

 「やったぞ、V1に残れたぞ!!」

 

 力強くにぎられた手に、喜びは詰まっていた。と同時に、森﨑はファンへの思いで胸がいっぱいになった。

 「このシーズンは監督の解任に始まり、途中で選手の離脱もあって、思うように結果が残せませんでした。それでもずっと、この入れ替え戦の舞台まで応援してくださった方々がいたので。皆さんへの感謝の気持ちをガッツポーズで表現しました」

 

 

駆けつけたファンに向けて、こぶしを突き上げた

 

苦難が続いたシーズンで、森﨑の背中を後押ししたもの

 

 振り返れば、前任のアーマツ・マサジェディ氏の解任が発表されたのは2021-22シーズン開幕の1週間ほど前。動揺はもちろん走り、その影響も響いた末に、年末から年明けにかけては主力選手の退団が相次いだ。となると、試合での結果も奮わない。森﨑自身、苦難が続いた。

 「自分はチーム最年長でもありますし、やはりみんなに『頑張ってほしい』と思っていました。けれども、去っていく彼らを止めることができず、チームが崩れていくのはつらかったです」

 

 シーズンが始まってからも、動揺し不安を募らせるチームメートに対して、森﨑は周りにアクションを起こそうと四苦八苦した。だが、一方でそれは、周りの気持ちを受けすぎるあまり、「何とかしなければいけない」という苦悩を生むことに。

「それでいっぱいいっぱいになってしまった自分がいました」

 いつしか体育館に行くことすら、億劫になっていた。

 

 

内定も含めて若手選手が多くコートに立った昨季。ベテランとして仲間と支えた

 

 好転するきっかけをつくってくれたのは、年明けから合流した内定選手たちでありファン、そして自身を取り囲む人たちだった。

 「内定選手たちが純粋に『次は勝とう』と臨んでくれていて、それを聞くと、頼もしいな、自分も頑張らないと、と思いました。それにファンの方々も温かく声をかけてくれて、たくさんの応援メッセージをいただきました。それがなかったら、折れていたと思います」

 

 森﨑は今春から職場を変えて、現在は介護福祉関連の仕事に就いている。昨シーズンのVリーグを戦っていたころは養護学校の教員を務めており、そこでの支えにも背中を押された。

 「土日はバレーボールをして、月曜日から仕事をする中で、子どもたちがいつも変わらずに元気なままで接してくれる姿に救われたのはあります。僕が選手であることを知っている子どももいますし、会場まで応援にきてくれたことも。生徒さんや、理解してくれる職場の方々のおかげで最後まで戦い続けることができました」

 

 応援があるからこそ、バレーボールが続けられるし、続けたい。森﨑の原動力がここにある。

 

 

入れ替え戦を終えて、思わず感極まる場面も

 

 

 

022-23シーズンもV1で戦える。自らの手でその権利を手にしたVC長野

 

チームの発展を味わってきたからこそ、抱く願い

 

 大学を卒業し、VC長野に入団したのが2015/16シーズン。当時はV・チャレンジリーグⅡ(現・V3)で戦い、その後、V・チャレンジリーグⅠ(現・V2)そしてV1、と昇格するチームの当事者としてコートに立ってきた。その変化を森﨑自身は、こう振り返る。

 「長野県にはサッカーやバスケットボール、野球などたくさんのスポーツチームがあるなかで、最初は地元でもVC長野の名前が知られていませんでした。僕も1軒ずつお店を回って、チームや自分を紹介させてもらって、チラシを配ることから始めて。そう思うと、今では新聞やテレビでも取り上げていただけますし、ファンやスポンサー企業も増えたことを実感しますね」

 

 だからこそ、生き残る必要があった。森﨑も長年リーグを経験し、浮き沈みを体感してきたことも背景にはある。

 「仮に一つ下のカテゴリーに落ちたとして、その次のシーズンで全勝して入れ替え戦で勝って再昇格できるか、と言われれば、そう簡単なものではないと思っているので。スポンサーの方々や応援してくださる方々がいる分、V1とV2でもまるで変ってくる。それは選手もそうですし、チームにとっての損益という面でも同じです。こうしてたどりつけたV1という舞台だからこそ、そこにいることは絶対に守らなきゃいけないと思って、V・チャレンジマッチに臨んでいました」

 

 ベテランと呼ばれる年代に入り、それでも森﨑は今季もVリーグで戦う決断をした。そこには、こんな願いがある。

 「昨シーズン、今にも壊れそうなチームを見たファンの方々から『勝っても負けてもいいから、もっと楽しくバレーボールをしてほしい』という言葉をいただきました。そう言わせてしまったことが申し訳なかった。

 自分たちを見て、『楽しかった、よかった、元気になれた』と思ってもらえる試合がしたい。どれだけ点差が離れても、ひたむきに、あきらめずにプレーしたい。いちばんは“楽しく”ですけど、特にホームゲームでたくさんの応援してくださる方々の前で勝利したいと思います」

 

 ホームゲームであげる1勝。それは人の思いの分だけ、重く、そして大きいのである。

 

 

チーム最年長が見せた姿を刻み、チームはV1のステージを戦う

 

(文・写真/坂口功将〔編集部〕)

 

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