第75回春の高校バレー全日本高等学校選手権大会(春高)に3年ぶり31回目の出場を果たす、男子の東北高(宮城)。得点を重ねる2枚エースにスポットが集まる中、指揮官が「心強い」と信頼を寄せる一人に名前を挙げるのが、3年生のアウトサイドヒッター、武山恵大だ。
武山恵大(たけやま・けいた/身長178㎝/最高到達点320㎝/広瀬中〔宮城〕→東北高/アウトサイドヒッター)
「職人みたいなプレー」と吉田康宏監督
山椒は小粒でもピリリと辛い。
そんな表現が似合う。今年10月30日、春高宮城県予選決勝を制したあと、東北高の吉田康宏監督はうなずくように語った。
「今回のチームはエースの安食浩士とキャプテンの小山暖人がどうしても目立つのですが、武山のような選手が要所で役割を果たしてくれる。職人みたいなプレーで、ね。心強いですよ」
強烈なサーブと高い決定力を備え「日本一のエースになる」と公言する安食や、中学3年生時に全日本中学生選抜入りを果たした小山の2人は高校1年生時からレギュラーに名前を連ね、3年目の今季もチームを支える。試合では2人が主に得点を重ねるが、その一方でバイプレーヤー(=脇役)も見逃せない。
身長178㎝は高校男子の全国レベルでは決して大きくなく、最高到達点も320㎝と数字に派手さはない。けれども、好レシーブやつなぎのプレーで相手のチャンスをつぶし、攻めては時間差攻撃やブロックアウトなど巧みなわざで得点を呼び込む。武山のそんな姿がピリリと、試合ではアクセントになるのだ。
本人も自らのよしあしを受け止めたうえで、口にする意気込みには熱がこもる。
「たとえ身長がなくても全国の舞台でも戦えるんだぞ、って。身長がない選手が活躍すれば、同じような選手たちにとっても自信になると思うんです。それに中学時代のクラブの後輩も、同じチームにいるので。その分、しっかりプレーでも自分の姿を見せていきたいです」
2枚エースがいる分、派手さもなければ、目立つこともないが、チームに欠かせない存在だ
中学時代に①武山が所属したTEAMiは男子日本代表の佐藤駿一郎(東海大4年)を輩出したクラブチーム
中学2年生時、悔しさのあまり試合後に大泣きした
振り返れば、中学生のころから熱い思いを持った選手だった。在籍する広瀬中(宮城)のバレーボール部と併行して、県内の名門クラブ「TEAMi」に身を置く。先輩に誘われたのと同時に、「うまくなりたい。個々の力を高めたい」と自身の意欲に従った。
実は、春高県予選最終日の舞台としておなじみのセキスイハイムスーパーアリーナ(宮城)は彼にとって縁がある場所。TEAMiが毎年年明けに主催する「プリンスカップ U14東日本男子大会」の会場であり、武山もホストチームの一員として参加していた。だが、先輩たちからバトンを受けつぎ新チームとして臨んだ2年生時(19年1月)の第10回大会では、4連覇中だったチームの歴史をストップさせる結果に終わり、人目もはばからず大粒の涙を流した。
「試合中に何本も決められる場面があったのに、そこでしっかりと決めきることができませんでした。試合後半になると焦って、レシーブもきちんと上げられなくなって…。ミスが続いた自分に責任を感じて、悔しいです」
真っ赤にさせた目は、熱い思いの裏返し。その半年後、全国ヤングクラブ男女優勝大会で優勝を果たし、日本一に輝くのである。
悔しさとふがいなさのあまり、涙がとまらなかった
“自分は何を持って戦うんだ”と自問自答し、努力を続けた
本人が明かすに、高校の進学先も悩みに悩んだそう。けれども、「全国の舞台に立ちたい」という思いで、東北高の扉をたたく。
結果として勝利はならなかったが、2年生時の春高県予選決勝では負傷退場した小山に代わってコートに送り込まれると、攻守でバランスのよさを発揮した。もっとも、「自分が出るとは思ってもいなかった」とは、時効となった今だから言えるそのときの本音。もちろん高校生活ラストイヤーの今は、「自分たちの代でもあるので、『自分がやるんだ』という気持ちで試合に臨んでいます」と胸を張る。
アップゾーンからでも最前列でチームを盛り上げる姿が見られる
名門校で過ごしてきたこれまでの2年半、脇役には脇役なりの強い思いがそこにはあった。
「自分からすれば、安食と小山の2人は『次元が違う』と思ってしまうので(笑) 高さは当然違いますし、東北の伝統であるブロックも技術に関しては、自分よりも上です。あの2人が止められたなら厳しいよな、って思うくらい信頼しています。
でも、自分が東北高の一員として“何を持って戦うんだ”と考えたときに、技術や小技で勝負するしかなかった。そこを自分はずっと磨いてきました」
高校生活3度目の春高県予選。ゆかりあるアリーナで全国大会の切符を手にし、とびきりの笑顔が弾けた。あのとき滝のように流した涙は、今となっては遠い昔の話だ。それでも―。
「中学3年目に全国大会で優勝できて、うれし涙も味わいました。ですが、高校に入ってからはインターハイや春高予選で負けが続いてきたので、その点では悔し涙のほうが多かったです。
最後の春高までに得意なプレーをさらに磨いて、苦手なブロックを克服したい。悔いのないように戦って、日本一を取りたいです」
東京体育館で、思いがあふれるときはきっとやってくる。それが喜びの味になることを願って、その技を最後まで研ぎ続ける。
春高県予選を通過し、トロフィーを手にドヤ顔
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
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