昨年末、中学生の全国大会「JOCジュニアオリンピックカップ第36回全国都道府県対抗中学大会」(JOC杯)が行われた。各都道府県の“金の卵”たちが集った大会で、彼らが見せた姿をクローズアップする
【第4回】昨夏に日本一に輝いた金蘭会中の泉谷美乃莉、石橋光らが流した涙
泉谷美乃莉が再び向き合った、自分の弱さ
【画像】JOC杯大阪北選抜女子 第36回JOC杯ギャラリー【15点】
確かに、勝っていた。間違いなく、勝てる試合だった。けれども、結末は違った。
昨年12月27日、第36回JOC杯は決勝トーナメントに突入し、負ければ終わりの戦いが各コートで繰り広げられていた。女子Kコートでは、大会連覇を目指す大阪北選抜が福岡県選抜と2回戦を争っていた。フルセットのゲームは最終第3セット、大阪北選抜が先にマッチポイントに到達する。だが、第2セットで大きくリードされた展開をひっくり返した勢いもあった福岡県選抜にそこから連続得点を許し、逆転負け。戦いは、ここで終わった。
試合後、大阪北選抜の面々は悲しみを隠さなかった。両手で顔を覆い、壁に額を打ちつける。
「信じられへん、というか。ほんまに負けたんや、って。この試合は負ける試合じゃなかった」
その中の一人、アウトサイドヒッター泉谷美乃莉は大粒の涙を流しながら、この結末を悔やんだ。
強気とは正反対。それでも「自分がやるんだ」「変わらなければ」と奮起
今回の大阪北選抜は、昨年夏の第52回全日本中学校選手権大会(以下、秋田全中)を制した金蘭会中と、同じく準優勝だった大阪国際中といったチームの選手が並んだ。
その中でも金蘭会中の泉谷は選抜の活動に伴い、JOC杯ではネットが高くなることからジャンプ力に磨きをかけて臨んでいた。測定では最高到達点300㎝を記録。これは今大会に参加した全選手の中でトップの数字だった。
その高さを生かしたアタックを武器に、「もっともっと強気のプレーを増やしていこう。大事な場面でも打ちきれるように頑張ろう」と意気込みJOC杯へ。だが大会初日の予選グループ戦では埼玉県選抜に敗れてしまった。要所で得点をあげられなかった泉谷は「自分の気持ちが弱くて、決めきれなくて負けたんです」と振り返る。
そもそも、泉谷は“強気”とは程遠い性格の持ち主で、そこは金蘭会中でも常に課題として指摘されてきた。決めきるんだという気持ちが弱く、ここぞの場面で消極的になってしまうのは彼女も自覚していた。だからこそ、秋田全中では最後、自分の殻を破ってみせ、日本一の立役者になっている。
秋田全中で芽生えた自信は、泉谷の“弱さ”の質を確かに変えた。今回のJOC杯では「金蘭会の名前を背負って、自分がやるんだ」という思いで臨んだ。埼玉県選抜戦でも、同じ金蘭会中のセッター丹山花椿からの「上げるよ」という言葉に「絶対に決めなあかん」と奮い立った。
けれども、その思いは同時に力みを生んだ。それは福岡県選抜戦も同じ。第2、第3セットとリードする中で、泉谷はアタックを決めきることができなかった。埼玉県選抜戦を経て、「次は変わらないといけない」と奮起していたのに、だ。
「結局、自分が決めきれなくて、追いつかれしまって…。もっとあの場面で自分が点を決めていたら、絶対に勝てていた。みんなに申し訳ないし…、勝ちたかったです」
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覇気の使い手・石橋光に生じたほんのわずかな心の緩み
その泉谷と並んで、チームをけん引したのが金蘭会中のミドルブロッカー石橋光である。左利きを生かして打ち込むCクイックは大阪北選抜の攻撃のアクセントとなった。
「自分たちのチーム(=金蘭会中)ではない分、泉谷と自分がもっともっと点を取らなければ、と。練習や試合で競り合った場面では『自分に持ってきて』とセッターに伝えていましたし、本番でそういうシチュエーションになったときに打ちきれるように、と心していました」
泉谷とは対称的に、石橋は“覇気”の持ち主。得点が決まれば、にぎりこぶしをつくり、感情をあらわにする。
また、大阪北選抜ではコミュニケーションにも力を注いだ。「ミスした仲間に声をかけるのが、自分にできることなので。サイド陣がブロックにかかりぎみだったら、ずっと『いけるよ!!』とか、手をつないだりして、とにかく落ち着かせるようにしていました」と石橋。その姿はJOC杯でも随所で見られた。
石橋自身、福岡県選抜戦でもクイックを決めていた。だが、試合が進むにつれて、決定力に陰りが。
「第3セットも点差があって、たぶんこれいける、と軽い気持ちになってしまったんです。自分たちが気を抜いてしまい、その瞬間を相手は狙ってきていました」(石橋)
ほんの少しの隙が、自身のプレーを鈍らせ、相手に流れを渡してしまった。
「ほんまに悔しい…」
試合後、そう何度も吐き出した石橋だったが、過ぎた時間は戻らない。
敗北の中で実感した、所属チームと選抜の違いと難しさ
思えば、これが泉谷や石橋ら金蘭会中の面々にとっては初めてともいえる敗北の味だった。
中学に入学して1年目はコロナ禍のため、そもそも公式戦のほとんどが実施されなかった。2年目には全国制覇を経験、そして3年目は連覇の当事者だった。その2年間、公式戦は無敗。落としたセット数は数えるほどである。
所属校と選抜で違いはあっても、負けは負けだ。石橋は敗戦をかみしめる。
「もうこれで、このチームでいられるのも最後なんや、って。終わった直後はあらためて実感しました」
違いがあったとすれば、それはコート上での心持ちだ。
「金蘭会やったら、監督の佐藤芳子先生やチームメートが“頑張ろう”と思わせてくれますし、そうして一体感も芽生えるけれど、選抜はみんなと一緒に過ごしてきた期間も短いので…。そこはまだまだ高めていく必要がありました」
その石橋の言葉と同様に、泉谷も明かす。「自分のチームやと、周りに頼ってしまう」と。
日常生活から同じ時間を過ごしているからこそ、仲間が苦しんでいたら手を差し伸べるし、自分が苦しんでいるときには助けられる。
チームスポーツならではのよさを味わってきただけに、選抜の場でもプレーで、アクションで、それを実行へと移した。一方で、それを知るからこそ、残った反省もある。結果として、大会の最後まで勝ち上がることはできなかった。
この日、彼女たちは“負けて終わる悔しさ”を知った。そして、ここからまた強くなることを胸の中で誓ったのである。
(文・取材/坂口功将〔編集部〕)
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