AGF鈴鹿体育館(三重県鈴鹿市)でV3男子を観戦した、トヨタ自動車サンホークスのファンは驚いたのではないだろうか。1月28日(土)の千葉ZELVA戦で、トヨタ自動車のミドルブロッカー石黒拓未、平野太一が一人時間差攻撃を披露。石黒はライトに走り込んでのブロード攻撃も決めてみせた。「今日の試合で初めて見ました。いつの間にこんなこと練習していたんだろう、という感じですね」と、近藤浩監督は表情を緩める。監督が初めて見たのだから、ファンも息をのんだことだろう。
最短でのV2復帰が至上命題
昨季はトヨタ自動車にとって苦いシーズンだった。コロナ禍の影響を大きく受けて、V2男子のV・レギュラーラウンドを10位で終え、V3男子で1位だったアイシンティルマーレとV・チャレンジマッチ(入替戦)で戦い、敗れた。V3降格が決まったその瞬間に、「1シーズンでV2復帰」というチームの目標が決まった。
「全勝してチャレンジマッチに行く、と決めてシーズンインしたので、現状にはまったく納得いっていないです。選手、スタッフみんなの総意です」と言うのはリベロでキャプテンの神代優司。29日(日)を終えた段階で、トヨタ自動車は13勝4敗。1位にいるが、2位の奈良ドリーマーズは12勝3敗、3位の警視庁フォートファイターズは11勝4敗と、上位はいつ順位が入れ替わってもおかしくない混戦の様相を呈している。
上位2チームが進出できるチャレンジマッチ出場に向けて残り10試合、もう負けられないトヨタ自動車は、自分たちの戦い方を信じて戦い抜く決意を固めている。「自分たちの戦い方」とは、「データに頼らないバレー」だ。
試合で対戦相手のデータをとり、戦力分析を行って対応する戦い方が主流の昨今、トヨタ自動車産はあえてデータをほとんど活用しない。「データに頼って相手の動きを気にする前に、自分たちのやるべきことを徹底するのが先だよね、と選手たちには言っています」と近藤監督。神代も、「データを使わないことで、相手を気にせず、自分たち一人一人が何をやるか、調子のピークを合わせられるか、ということに集中できている」とメリットを語る。
「一人時間差攻撃やブロード攻撃も、『勝つために自分はどうしたらいいか』と考えて、人知れず練習したんでしょうね」と、選手たちのパフォーマンス向上に近藤監督はニヤリ。「やらされるのではなく、自分で考えて生み出したプレーならば、仮にミスをしても修正できる。その積み重ねが土壇場で生きてくる。もう最後に泣くのは嫌だからね」。
入団した昨シーズンに降格を経験したアウトサイドヒッターの川端下大は、「残りの試合は全部勝つ気持ち。チャレンジマッチに臨めるかどうかは、他のチームが何勝するかも関係するが、まずは自分たちが確実に一戦一戦勝つことを意識したい」と意気込む。神代も「川端下は今季スタメンに定着してくれた。生きのいいスパイクが持ち味で、期待している。自分は試合に出てもベンチでも、チームの勝ちにつながる、士気が上がるムード作りから尽力したい」と気合いを入れた。
リーグ後半戦突入にあたり、近藤監督も「あの 1点、あのワンプレー、と後悔しないように、甘えを一切捨てて臨みます」と覚悟を示す。V3男子の、優勝争いの行方はどうなるのだろうか。
取材/淺井恭子
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