元慶應義塾大学体育会バレーボール部監督の宗雲健司です。3回目のレポートとなります。今回のテーマは「少ない練習量」とそれを補う「大型選手の育成」です。前編・後編に分けてお届けします。
高さに慣れることでレベルアップを促進
さて、いよいよ後編です。アメリカの育成年代においては「練習量」が圧倒的に少ないのに、なぜシニアクラスになると彼ら彼女らは世界トップレベルに成長するのでしょうか。大きな要因の一つに、海外選手の「高さ」による優位性があるのは間違いないでしょう。前編で述べましたが、大学ではアメリカのみならず海外からも優秀な選手がスカウトされて集まっています。既にその高さはワールドクラスです。大学入学後の4年間は、その高さに慣れるのに十分な期間となります。また、それに付随して高校では「大会の規模や運営方式」による「育成のゆとり」が考えられます。アメリカの高校では何回戦も行うリーグ戦形式が主体となっており、州選手権が最高位で全国大会はありません。一方、クラブチームには統括する複数の団体が主催する全国大会が年に2回あり、州ごとのトーナメントも数試合開催されています。レベルによって適したカテゴリーを選んでエントリーするため、未熟な大型選手を含む多くの選手を起用するチャンスもあるようです。
これまで幼少期から高校生までの指導を見ていると、特に大型選手が大学生で急に伸びてくる「大器晩成型」の育成システムが結果的に出来上がっているのではないかと推測します(あくまでも推測の域を出ていませんが)。さらには、アメリカにはバレーボールのプロリーグや実業団リーグも存在しないので、大学卒業後は海外のプロリーグで活動することも要因の一つではないでしょうか。
以下に、少ない練習量をどのように補っているかを列記してみます。
・複数の指導者による多角的な指導や他校の生徒との交流
・年齢、レベルによるカテゴリー分けの活動
・技術習得に特化した指導方法
・高校や大学におけるリーグ戦主体の試合形式
・指導者を含め、バレーボール以外の時間を有効活用することによる、さらなるバレーボールへの集中
・大学で経験する世界基準の高さ
他方、体格差を練習量で補ってきた日本でも、「高さ」に対しては1964年、オリンピック東京大会直後から全日本男子監督となった松平康隆さんが問題意識を持たれ、大古誠司、横田忠義、森田淳悟選手などの大型選手を8年がかりで強化し、1972年のミュンヘン大会において見事、金メダルを獲得されました(参考:NHK スポーツ大陸「スポーツ史の一瞬 金メダルへの2900日プロジェクト~ミュンヘン五輪・男子バレーボール」)。
その後、私が中学3年生の時(1979年)に中学生の長身者発掘合宿や東西対抗(現JOC杯の前身)などの取り組みが始まりました。当時のメンバーには中学生にして身長200cm、法政大や日本リーグでも活躍した神林正文さん(元サントリーサンバーズ)や、後に代表監督を務めた中田久美さんが参加していました。さらには高校でも長身者中心を選抜した「ドリームマッチ」を開催し、長身者の発掘、育成に取り組んでいます。この取り組み自体は、バレーボールの経験が浅くとも県の代表として選抜され、そこから順調に成長し、日本代表として活躍している選手もいるので成功と言えるでしょう。
中学や高校には全国大会が存在し、「日本一」を目標に努力するチームが多く存在します。中学や高校の短期間で「日本一」や「春高出場」を目指す場合、時間的なゆとりがないため、どうしても守備の上手な中型選手の起用が多くなるようですが、日本一を目指すことは、すべての選手たちに人生でも大きな目標、夢の達成に向けた貴重な経験をもたらします。
さて、テーマの「少ない練習量」から「大型選手育成」へと話が進みました。私の疑問は完全には解決していませんが、再び世界のトップレベルを維持するためには、日本ならではの「大型選手」の育成をさらに前へ進める必要があると考えます。
現在でも中学生や高校生の長身者選手の強化合宿や国際大会などで実戦経験は積めますが、そこではどうしても結果が求められますし、参加できるメンバーは限られます。さらに、高校で活躍しても大学のレベルで埋もれてしまう高身長の選手は数多くいます。高校でレギュラーとして活躍しても、大学で主に試合に出られるメンバーは上級生がメインとなります。18~19歳という伸び盛りの時期に、慣れない大学の授業や雑用に追われて試合経験が乏しくなるのは日本のバレーボール界の損失ではないでしょうか。ぜひ、統括する組織や協会は、六大学野球の新人戦のような大会企画、大学1、2年生の大型選手を中心としたリーグ戦やV3リーグへ参戦させるなどの一歩前進した育成システムを検討してはいかがでしょうか。
このような無責任で突拍子もないアイディアにはさまざまなご意見があると承知しますが、「ヒト、モノ、カネ」も含めて一つ一つ解決していけば、日本の「大器晩成型」育成システムが構築されるのではないかと期待しています。
最後に、今回のレポートでは「練習量」の疑問から「大型選手育成」の考えを述べさせていただきましたが、もちろん大型選手以外は強化不要、というわけではありません。前述したように既に非大型選手たちが実戦経験を積むシステムは十分に構築されています。日本には浅野博亮選手や柳田将洋選手、西田有志選手、髙橋藍選手ら、190㎝を超えなくても世界で通用する魅力的な選手たちがいます。その選手たちと、動ける大型選手を生かした日本のチームスタイルで、ミュンヘン以来の金メダル獲得を実現して欲しいと思います。日本バレーボール界のさらなる発展を期待して。
補足1. 私が考える世界トップレベルとは「常にベスト4」を狙える位置にいることです
補足2. ここでの非大型選手は190cm未満(男子)、と個人的に定義させていただきます
お読みいただきましてありがとうございました。
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