第20回2023全日本ジュニアオールスタードリームマッチが2月18(土)、19(日)にパナソニックアリーナ、近畿大学記念会館(ともに大阪)で行われる。3年ぶりに開催される、全国の有望選手たちが一堂に会する夢の大会の注目選手を紹介。春高で準優勝した鎮西高(熊本)の井坂太郎は、ラストイヤーへ課題がある
穏やかに話していたそれまでの口調とは明らかに違う。井坂の視線が鋭くなった。
「それは絶対に違います!」
春高決勝で駿台学園(東京)に敗れた後、エース舛本颯真が「自分のことを(井坂は)もう超えていると思っている」と言っていた。井坂にその話題を振ったときのことだった。
小学生時代から何度も対戦し、中学2年生時のJOC杯からはチームメイト。敵、味方としてよく知る先輩への尊敬の念は、年齢を重ねるごとに強くなった。右ヒザに痛みを抱えながら、チームを決勝に導いた今大会も同じだった。
「3回戦の東北(宮城)戦、準々決勝の福井工大附福井(福井)戦ではブロックに捕まることもありましたが、最後は決めてくれました。駿台学園戦は最初からすごいスパイクで、5セット目も一人で打ちきって。負けましたが、試合を通して同じチームにいることでとても安心しました」
そう語る井坂は、今大会でブレイクを果たした一人だ。舛本をカバーすべく、最高到達点335㎝から鋭いスパイクを決め、何度もチームを救った。だが、期待を高める周囲とは違い、憧れの存在との差を誰よりも自覚している。
その象徴的なシーンが、2セットを先取し、14-10とリードした決勝の第3セット。井坂がネット際のボールの処理をミスするなど、4連続失点。試合の潮目が変わったのはそこからだった。
「雑に処理してしまって、自分のミスから流れが変わってしまいました。取れたはずのセットを落としてしたので。それを4セット目にも引きずってしまって、負けたのは自分のせいです」
舛本のようなチームに安心感をもたらす選手になるために必要なのは、プレーの安定感だろう。「当たり前のことを当たり前に」をモットーに掲げる鎮西において、畑野久雄監督は1年生時から井坂へ要求を続ける。
「ここに来たときから、コートに入れてはミスをして外しての繰り返しでした。
(決勝の第3セットは)まずいなと思ったんです。それから弱気になって、まったくダメだったでしょう。ああいう甘さがあるのは彼の特徴です。だからまだ信用ならん、と。やらんでいいようなミスがちょくちょく出てきますから。
例えばオーバーハンドパス。絶対返さないかんというボールをミスしたり、人がフォローしたボールをたたくときにミスをしたり。集中できるかどうかが大切。人に信用されるようにならないといかんですね」
舛本ら3年生が抜け、新チームではエースでキャプテンと、舛本と同じ道を歩む。だが、大役を担っても安泰ではない。春には畑野監督が「ここ何年間かでは結構いいと思います。大きいし、本人たちも意欲がある」と太鼓判を押す1年生が入部。指揮官は「来年はレギュラーと思うな」とハッパをかける。
その厳しい言葉も「ミスを極力なくしていけば、ジャンプ力はありますから」と認める部分もあるからこそ。井坂は「歴代のエースが化け物すぎて。全然届いていない」と控えめだが、舛本が「キャプテンになって成長することができた」と語るように、その大役は心身ともに成長できるチャンス。伝統の3番のユニフォームを身にまとい、殻を破る1年にできるか。
井坂太郎
いざか・たろう/身長185㎝/最高到達点335㎝/長嶺中(熊本)出身/アウトサイドヒッター
文/田中風太
写真/中川和泉、石塚康隆(NBP)、平野敬久
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