9人制の普及を目指して 自主大会「BOOST CUP」第9回大会レポート
- 9人制
- 2023.03.23
3枚ブロックは特に珍しくないのが9人制
きっかけはクラブカップの中止
ピンチをチャンスに変えた「気軽な気持ち」
サーブレシーブが乱れる。2打でネット際へ届いたボールを、セッターはネットに当ててトスする。スパイカーがきれいに打ち込み得点に結びついた。
「ルールを生かした9人制ならではの戦略があって。ボールがネットに触れると3打目がリセットになる光景、6人制を見慣れていると不思議じゃないですか? 奥が深くておもしろいんですよ、9人制。それが多くの人にわかってもらえたらいいな」。
9人制のクラブチーム、群雄会(静岡)の野澤和宏監督は、試合を見ながら穏やかに話す。
群友会の野澤和宏監督。大会実行委員として、協賛や審判団の手配などを担当している
9人制のクラブチームによる「自主大会」、BOOST CUPが2月25日(土)、26日(日にスカイホール豊田(愛知県豊田市)で開催された。今年度の全日本9人制クラブカップ選手権(クラブカップ)でベスト16に入ったチームや、大会実行委員会から推薦を受けたチームなど、総勢16チームが参加するBOOST CUPは、公式の大会ではないが、日本クラブバレーボール連盟の後援や、多くの協賛・協力のもとで運営され、今年で9回目を迎える。
大会実行委員は3名。愛知ALL BLACKS(愛知)監督の上村学さん、おかやま(岡山)監督の森田英之さん、そして野澤さんだ。「初開催のきっかけは、2014年の夏に鹿児島で開催予定だったクラブカップが台風の影響で中止になってしまったこと。9人制クラブチームにとってクラブカップは最大で、目標とする大会ですから。それがなくなるのは『悔しいし残念』と、当時おかやまの監督だった吉田淳さんと話していて。『じゃあ、自分たちでやっちゃおうか!』と」
最初は気軽な気持ちで始めたんです、と軽やかに笑う野澤さん。病により志なかばで逝去した吉田監督の遺志を引き継ぎ、おかやまの監督となった森田さんとともに、大会実行委員3名の思いは共通している。BOOST CUPの開催を通じて、9人制の普及と、競技人口の増加、競技力向上につなげたい。
「例えば、学生時代に6人制をプレーしてきた人が、社会人になっても『9人制でバレーボールを続けてみようかな』と思ってくれたらいいなと思いますし、中高生などの若い世代にも競技を知ってもらいたいです。9人制が、競技を選ぶときの一つの選択肢になってほしい。魅力あるスポーツですから」
9人制の特徴と魅力
キーワードは分業制と多様性
9人制は、6人制と違ってポジションのローテーションがない。アタッカーはアタッカーの役割に特化、レシーバーはレシーブに専念と、分業されているところが特徴だ。
「ポジションが多様で固定されていますから、選手一人一人が自分の強みを終始発揮することができます。バレーボールといえば身長が大事、と思われがちですが、9人制なら活躍できるポジションが必ずあるんですよ」。これは、年齢を重ねても競技を続けられるという道にもつながっており、生涯スポーツとしての魅力の一つ、と野澤さんは解説する。
BOOST CUP最遠方からの参戦チームであるJOINT(沖縄)の主将でセッターを務める輿古田光平さんは、9人制の楽しさについてこう語る。「9人制は6人制と比べて、ラリーが長くなることが多いんです。長いラリーになればなるほど、得点できたときに『みんなでつかんだ1点だ』と、いっそう喜びを感じられます。ボールを長くつなぐことで、チームが一つになっていく感覚もあります」。また、セッターという役割を務めるうえで「9人制はアタッカーの枚数が6人制より多いので、どのタイミングで誰にどんなトスを上げるか、選択の幅が広い。トスワークを考えることも楽しいです」とも述べ、「高校、大学まで6人制をやっていましたが、今はもう9人制の競技歴の方が長くなりました」と笑顔で付け加えた。
レシーブのアタックカバーが二重になる、9人制特有の光景。日本体大
じっくりゆっくり着実に
「おいしい」大会の作り方
コロナ禍の影響で一昨年と昨年は開催を見送ったBOOST CUPだが、今年は、野澤さんたちが「体育館を押さえることができたので参加を募った」と、初めて6人制クラブ8チームによる大会も同時開催。3年ぶりの大会は、これまでよりさらに規模を大きくしての実施となった。
「今後も新しい試みをどんどんやっていきたい」と話すのは、大会実行委員の上村さん。「自分たち自身も、見に来てくれる人も『楽しい』と思える大会にしていきたいです。9人制は生涯スポーツとして老若男女が楽しめる種目ですから、それを知ってもらえるように、今後もBOOST CUPを練磨していきたいです」
来年、BOOST CUP立ち上げから10年という節目を迎えるにあたり、野澤さんも展望を語る。「いずれ、この大会を公式大会にできたらいいなと思います。そうなればこの大会を目指してくれるクラブチームも増えますし、認知度も上がり競技の普及につながります。今、日本クラブバレーボール連盟(JCVF)からの後援を頂いていますが、JCVFや日本バレーボール協会(JVA)から公認を受け、公式大会化できるよう、じっくり着実に取り組んでいきたいと思います。急がず作り上げた方が、アラがないはずですし、ゆっくり熟成させたものの方が『おいしい!』でしょ?」
競技の魅力を伝えたい、9人制が競技選択の一つになるように。野澤さんたちの挑戦は、これからも「じっくり着実に」続いてゆく。
大会は、愛知ALL BLACKSが9人制の部を制し、上村監督は「昨年夏のクラブカップでは(準優勝で)悔しい思いをしたので、優勝できてうれしい」と喜びを表にした。なお6人制の部は、SUISEN(東京)が優勝を果たした。大会出場チームと成績は下記の通り。
9人制の部で優勝した愛知ALL BLACKS。中央は大会運営に協力したトヨタ自動車サンピエナの選手たち
結果
■9人制の部(16チーム)
優勝 愛知ALL BLACKS
準優勝 球友会(広島)
第3位 倉上組(埼玉)
第4位 清原クラブ(栃木)
(以下、出場チーム)群雄会、静岡クラブ(静岡)、JOINT、寒川ACE(神奈川)、日本体大(東京)、ZERO(滋賀)、おかやま、邑久クラブ(岡山)、川越クラブ(三重)、名古屋東山クラブ(愛知)、のぞみクラブ(愛知)、岐阜羽島クラブ(岐阜)、
■6人制の部(8チーム)
優勝 SUISEN
準優勝 BREZZA(静岡)
第3位 VC富山(富山)
第4位 岐阜クラブ(岐阜)
第5位 兵庫PAOPAO組(兵庫)、SUNRICE(愛知)
第7位 山本一家(三重)、松戸ダイヤモンド(千葉)
(取材/淺井恭子)