サイトアイコン 月バレ.com【月刊バレーボール】

オポジットのザイツェフがサーブレシーブ。スター選手の献身が窮地の昨季王者ルーベを救うか

イタリア・セリエA、2022/23シーズンはスクデット(リーグタイトル)を懸けたプレーオフに突入。3戦先勝方式の準々決勝ラウンドは全4カードのうち、石川祐希のミラノ対ペルージャも含めた3つが最終第5戦までもつれる白熱した展開となっている。その中でも昨季のリーグ王者ルーベは2連敗の崖っぷちから逆襲に打って出た(写真/legavolley.it)

 

<⑨イバン・ザイツェフ(Ivan Zaytsev/1988年10月2日生まれ/身長204㎝/最高到達点370㎝/イタリア/オポジット、アウトサイドヒッター)>

 

ザイツェフがサーブレシーブに入り、ニコロフが攻撃に専念

 

 イタリアバレーボール界の顔として君臨し、代表でも2016年リオデジャネイロオリンピックでは銀メダルを獲得。クラブでは2017/18シーズンにペルージャを初優勝に導き、昨季はルーベの通算7度目のスクデットに貢献。

 

 その容姿も相まって、アリーナでは黄色い声援が注がれる、まさにスタープレーヤー、イバン・ザイツェフ。ポジションはオポジットで、その豪快なアタックで得点を重ね、チームに勝利をもたらす。現在、34歳。実績十分の大ベテランだ。

 

 代表でもクラブでもアタックに専念する立場を与えられてきたザイツェフだが、ここにきて驚くべきことにサーブレシーブに参加している。しかも、現在戦っているプレーオフ準々決勝ラウンドの相手は、今季サービスエース決定本数2位のノーモリ―・ケイタ(マリ)擁するヴェローナ。勢いに乗れば手がつけられなくなるチームであり、昨季王者のルーベは開幕から2連敗とさっそく窮地に立たされた。

 

<レギュラーシーズンを5位で通過したヴェローナの勢いを前に、同4位のルーベは飲み込まれた。写真はプレーオフ準々決勝ラウンド第2戦>

 

 そこで打たれた一手が、ザイツェフのレシーバーとしての起用である。ポジションはオポジットつまりセッター対角のままだが、コート上ではリベロのファビオ・バラーゾ(イタリア)と一緒に相手サーブを返す。その一方で、アウトサイドヒッターのアレクサンダル・ニコロフ(ブリガリア)を攻撃に集中させるというわけだ。

 

 この戦術は準々決勝ラウンド第2戦から採り入れられ、その試合はフルセットの末に落としたものの、第3戦から効果を発揮した。攻撃に専念するニコロフは第3戦で25得点、第4戦で22得点と連日でチーム最多得点のパフォーマンスを披露。そしてザイツェフも、自ら得点すると同時に、第3戦ではサーブレシーブ返球率38%(16本中/エラー1本)、第4戦では返球率62%(21本中/エラー2本)とていねいにボールを返球するなど、堂々と攻撃の起点になっているのである。そうしてチームは2連勝をあげて、勝敗をタイに戻すことに成功した。

 

<今季新加入の若きエース、⑪ニコロフが大爆発。ルーベが逆襲に転じた>

 

>>><次ページ>「もっとできるし、もっとやらなければ」とザイツェフ

<キャリアも晩年に差し掛かり、⑨ザイツェフのプレーには円熟味が増している>

 

「もっとできるし、もっとやらなければ」とザイツェフ

 

 世界で指折りのオポジットであり、抜群のアタック力を備えるザイツェフ。だが、純粋な大砲としてだけではない姿が今、コート上で見られる。自身も、その役割にしっかりと向き合っている。

 

「レシーバーの役割を託され、それは難しいものでしたが、やりがいがありました。私自身はもっとできますし、もっとやらなければと考えています」

 

 プレーオフに入ってから、ましてや崖っぷちの状態から繰り出す“奥の手”になるとは、チームも想定していなかっただろうし、それがジャンロレンツォ・ブレンジーニ監督の頭にあったかは聞いてみないことにはわからない。

 

 けれども振り返れば、今季の開幕当初、ザイツェフはアウトサイドヒッターとして起用されていた。そこでのサーブレシーブ返球率も、第1戦は50%(18本中)、第2戦は58%(33本中)とまずまずだったが、あくまでもチームの台所事情を踏まえた応急措置的な意味合いが大きかった。以降は本来のオポジットに戻り、ガビ・ガルシア(アメリカ)と併用される中、試合でもサーブレシーブの受け数は一桁だった。

 

<イタリア代表の新時代エース、アレッサンドロ・ミキエレット(コート奥/トレンティーノ所属)らの台頭も見られるが、ザイツェフの存在感は揺るがない>

 

 それが、今ではチームを救う“神の手”になっているのだ。イタリア代表でも正リベロを務めるバラーゾは第3戦を終えて、このように語った。

 

「ニコロフの負担を減らすことで、相手の意表をつくことができました。ザイツェフは経験とテクニックを備えており、チームに安定感をもたらします。ファンダメンタル(基礎)に秀でているのはもちろんのこと、お手本のようなアスリートです」

 

 今季のルーベは、19歳のニコロフや21歳のマーロン・ヤント(キューバ)、23歳のマッティア・ボットロ(イタリア)を積極的に起用するなど世代交代に踏み切った。そこには痛みが伴い、レギュラーシーズンでは最大4連敗と苦しい時期もあった。それでもプレーオフを戦う以上は、ここで負けるわけにはいかない。なぜなら、「私たちはルーベだから」(スーペルコッパ決勝で敗れたあとのボットロのコメント)だ。

 

 そんな若獅子たちに、百獣の王が未来を託す。ザイツェフのサーブレシーブに、そんな絵が浮かぶのである。

<世代を超えて、チームを“あるべき場所”へと押し上げるザイツェフとニコロフ>

 

(文/坂口功将〔編集部〕)

モバイルバージョンを終了