第71回黒鷲旗全日本男女選抜大会が5月1日(月)から6日(土)に丸善インテックアリーナ大阪(大阪府)で行われた。引退、退団を決めた選手たちにとってはラストゲームとなる今大会。今季限りで退団を決めていた柳澤広平(ジェイテクトSTINGS)には、涙を流してくれる同期がいた
同期入団でコート内外での拠りどころ
引退するわけでも、退団するわけでもない。それでも、福山汰一は感情を抑えられなかった。準決勝でウルフドッグス名古屋に敗れると、何度も目元を覆う。ふだんはクールな男が流した、早稲田大3年生時以来という涙。驚いていたのは誰よりも自分自身だった。
「試合が終わったら急にふっときて。あ、やばいって」
入団以来、苦楽を共にしてきた柳澤の退団は、それだけ大きな出来事だった。
「ずっと一緒にやってきたんで。『これでいなくなるんだな』と思って。決勝を楽しんでもらいたかったので、それができなかったことか、何かわかんないですけど…。(感情が)ぐっちゃぐちゃになっちゃって(笑)」
ともに写真に収まり、福山は柳澤に詫びた。「ほんとうにごめん」。だが、その福山の様子に、柳澤は「僕も切ない気持ちはあるんですけど、違う惑星に行くわけではないので」と明るく振る舞った。この7年は、2人にとってかけがえのない時間だった。
大学時代から仲がよく、ジェイテクトに同期として入団した。職場は近く、寮の部屋は隣。いつもそばには福山がいた。早朝、深夜を問わず釣りに行き、何度もゲームをしたりと、思い出は尽きない。柳澤にとって「話が合いますし、お互いのバレー観も尊重し合える部分があったので。助けになっていました」とコート内外での拠りどころだった。「兄弟みたいな関係ですね」と目尻を下げる。
冒険の末にいつかは2人で挑戦を
だが、7年目のシーズンを終える前に、柳澤は新たな道に進む決断を下した。「チームメートの人柄のおかげで、ふだんの練習、私生活がすごく充実していました。そういう人たちと一緒に生活できなくなるのはすごくさびしいです」という思いもある。しかし、「いつかは新しいことにトライすることを昔から夢見ていたので。体力があるうちに決断してみよう」と腹をくくった。
幼いころから冒険が好きだった。誰も行かない山道を突き進み、親からは「そんなところに行っちゃダメ」と注意されたこともある。
「大人になると、いろんな制限があって、『仕事を辞めます』って言うと、『周りは大丈夫?』って思うじゃないですか。だけど、自分としてはそういう決断が冒険だと思っています。ほんとうにそれです、動機は。バレーをしたいし、冒険したくなっちゃった、って(笑)」
この7年間は途中出場が多く、ジェイテクトでの最後のプレーとなった黒鷲旗でもそうだった。それでも、グループ戦では豪快にスパイクを決めるなど、役割をまっとうした。新たな道でも「『バレーが楽しかったな』って思えるくらいまでのめり込みたい」と力を尽くす覚悟だ。その先には、相棒と描く未来がある。
「しっかりやりきったあとに、新しいことに一緒に挑戦できればと思います」
バレーボールがつないだ2人の縁。チームが変わっても、またワクワクする日々は待っている。
仲のいい後輩・西田もエール
「ええやん、やったろうぜ!」
6歳差ながら、プライベートでも仲がよかったのが西田有志。退団の意向を伝えると「あいつは常にスーパーポジティブ人間なので『ええやん、やったろうぜ!』みたいな感じでしたね(笑)」とエールを受けていた。
日本代表合宿に参加し、今大会に西田は不在だったが、「『頑張ってこい』みたいな言葉をもらって。いつもどおり、軽い感じでしたね」と笑いながらも、かわいい弟分からの言葉も力に変えていた。
文/田中風太
写真/山岡邦彦(NBP)、長尾里絵、編集部
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