「あれはたまらなかったです」早稲田大 水町泰杜が憧れのクビアクと興じた一瞬の駆け引き
- SV男子
- 2023.05.25
<今年の黒鷲旗ではパナソニックから1セットを奪取した>
クビアクをまねてフェイクセットにトライしたことも
クビアクといえば、トリッキーなプレーで見るものを魅了してきた。巧みなブロックアウトやフェイントで得点を重ねる姿に競技者はうなり、バックアタックと見せかけてフェイクセットを繰り出す姿にファンは歓声をあげる。
その姿を見た水町も実は高校時代、フェイクセットにトライしている。3年生時の夏、練習試合でのことだ。
「やってみました。セッターが1本目を触ったので、自分がバックアタックからフェイク入れてライト側にトスを。うまく上げることはできたんですけど、ちょっとトスが伸びてしまってアタッカーが打てなかった。先生から怒られましたね(笑)」
当時、鎮西高の畑野久雄監督は「水町がクビアクのまねをして、チョンボする」と嘆き節も。そう言っていたことを本人に伝えると、「恥ずかしい(笑) でも、いつまでたっても憧れですから」とほほえんだ。
クビアクに自分を重ねたのはこれだけでなく、今や水町の武器であるサーブに関しても、ジャンプサーブにトライし、トスを上げる利き手を変えたのも「クビアクがやっていたので」と、かつて明かしている。
<鎮西高時代(写真)、サーブを改良するときはいつも、憧れの存在を重ねていた>
直接対決で、強烈なサーブを何度も浴びた
そんな憧れの存在と、初めて直接触れ合ったのは高校2年生時の黒鷲旗。
「あの大会、パナソニックはずっと4試合目で。自分たちは畑野監督が3試合目くらいに『帰るぞ』って言うけん、全然試合が見れなくて(笑) でも一日だけ自分たちが3試合目、そのあとがパナソニックの試合で、目の前にクビアクがきたんです。『どうしよ。行くしかね!?』って。何て言えばいいかわからないし、日本語伝わるのかもわからなかったけれど、とりあえず握手だけはしようと思って手を差し出しました。そしたら、頭をポンポンされました」
小学生くらいの自分に戻りました、と本人は笑って振り返ったものだ。
そんなファーストコンタクトから5年後、同じ舞台で今度はネットを挟んで向かい合うと…、「実際の身長(192㎝)より大きく見えました」。
憧れに変わりなかったが、今回は倒したい相手。けれども、そう甘くはない。トッププレーヤーのパフォーマンスをまざまざと味わうことになる。
第1セット、6-9でクビアクにサーブ順が回ると、8度のブレイクを許した。サービスエースもあれば、サーブレシーブに入った水町が完全に崩される場面も。
「ちゃんと4枚レシーブしているのに、選手の間を狙ってくるあたり。生で受けるのは初めてだったので、『すげぇな』って。2セット目以降はチームとしても耐えることができたと思います」
狙いを細かに変えて打ち出される正確無比なサーブを振り返り、思わずため息がこぼれる。
「はぁ、かっこいいスね」
<サーブレシーブに定評ある水町だったが、クビアクの狙いすましたサーブに苦しめられる場面も>
【次ページ】「読んでいました」と思わず笑った、ラリー中のワンシーン