令和5(2023)年度春季大会兼関東大会予選(東京女子)で5位に入った実践学園高を率いるのは、28歳の山田侑介監督。準々決勝で八王子実践高に惜敗も、選手と一丸となって戦い、「東京四強」撃破の予感を漂わせた
前向きになれなかった監督1年目
「全員でいくぞー!」
拳を握った若き指揮官の声が、体育館に響く。選手たちは笑顔になると「おー!」と叫んだ。
藤村女高との関東大会都予選5位決定戦。1-0で迎えた第2セットは9-18と大差をつけられた。それでも、粘り強いディフェンスを起点に猛追。山田侑介監督の声が響いた21-22の場面から、4連続得点で試合をひっくり返した。勝利の瞬間は、選手や監督だけでなく、2階席にいる保護者も一斉に拳を突き上げた。
「どんな展開でも常に選手を信じていて、それがああいうゲーム展開になったと思います。楽しくバレーしよう、といつも言っていて、保護者を含めて全員でバレーができました。自分も楽しかったです」(山田監督)
チーム全員で1点を喜び、1点を悔しがる。昨年は見られなかった光景だった。
山田が実践学園高の監督に就任したのは、27歳だった1年前。「いつかは高校バレーで日本一を目指したい」という夢のスタートラインに立ったはずが、前向きには取り組めなかった。指揮官になって1年目。一緒に戦うのは自分がスカウトした選手ではない。言い訳を探し、負ければ選手たちに責任を押し付けていた。
「選手と一緒に試合ができていないというか。戦ってあげられていない、とずっと思っていたんです。そんな自分がすごく悔しくて。やっぱり、やるんだったら選手と共にやりたい。自分の出せるものを出そう、と思いました」
心に変化が生まれ始めたころ、理想のチームに出会った。今年3月に出場した三島市バレーボールフェスティバル。和歌山信愛高(和歌山)のスタイルに心が動いた。選手とともに喜ぶ同校の山本哲耶監督の姿が、チームに一体感を生んでいた。
「自分がやりたいのはこれだ」
恥を捨て、選手と保護者に理想の監督像を打ち明けた。それまでとは180度異なるスタイルで、「ほんとうに怖かったです」と振り返るが、賛同の声は多かった。サイドラインギリギリで選手を鼓舞し、得点が決まると全身で喜びを表現。選手たちと前のめりに戦った。
八王子実践高に健闘も悔し涙
指揮官とともに、チームも変わった。酒井美優キャプテンは「自分たちの代になってから、山田先生は力を引き出そうとしてくれていて、みんなも『勝ちたい』って。先生に負けないように頑張っています」と笑顔で語る。
「自分はあくまで空気づくりしかできず、結局力を発揮するのは彼女たち。ただ、そんな彼女たちのパワーと可能性は計り知れないので、自主性を大切にしています」(山田監督)と選手たちがチームの目標を設定する。掲げたのは「東京都でいちばんの粘りと、コンビバレー」。酒井キャプテンは「これまでは(東京の)ベスト4に届かないんじゃないか、という気持ちでした」と振り返るが、今では「必ず1位で春高に行きます!」と力強く宣言。選手たちの目の色も変わってきた。
だからこそ、長年名門校が君臨する「東京四強」に本気で勝ちにいった。都予選の準々決勝では八王子実践高からセットを先取。最終第3セットも接戦を繰り広げたが、24-26で惜しくも落とした。
全国大会が懸かる試合ではなくとも、選手たちの目には涙。山田監督も「指導者になって始めて」の熱い思いがあふれた。それでも、保護者や審判団からの「感動しました」という声を受け、「バレーを通して感動を届けよう、応援されるチームを目指そうと言ってきたので。やってきたことは間違っていないと少し思えました」と前を向いた。
その後の関東大会でもベスト8入りを果たし、6月18日(日)には、ベスト4リーグ進出を懸けてインターハイ都予選3日目に挑む。「ベスト4に入るために足りないものは何かを常に考えて、選手とともに成長してきました」という日々の成果をぶつけ、分厚い壁を打ち破る。
山田侑介(やまだ・ゆうすけ)
1995年4月23日生まれ/身長163㎝/大宮東(埼玉)→日本体大/学生時代のポジションはリベロ
文/田中風太(編集部)
写真/田中風太、山岡邦彦(NBP)
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