佐賀県鳥栖市へと戻ってきた久光スプリングス サロンパス®アリーナから世界を目指す
- SV女子
- 2023.07.03
鳥栖駅の南側、駅前不動産スタジアム側からの外観
サロンパスアリーナが完成し、久光スプリングスは22年間拠点としてきた兵庫県神戸市から、原点である佐賀県鳥栖市へと戻ってきた。久光は、チーム名を現在のものへと変更した3年前にSAGA久光スプリングス株式会社を設立してプロ化しており、さまざまな狙いを掲げて佐賀での第2章をスタートさせる。今回は萱嶋章代表取締役に、7月6日にグランドオープンを迎えるサロンパスアリーナのコンセプトや、今後に向けたチームのビジョンを聞いた
SAGA久光スプリングス株式会社の萱嶋章代表取締役
75周年の節目 新アリーナとともに一歩を踏み出す
――素晴らしいアリーナが誕生しました
萱嶋 メインアリーナは主に久光スプリングスの練習拠点なのですが、サブアリーナは一般開放します(一般の使用可能)。すなわち地域コミュニティーの形成であったり、地域社会に貢献したり、ということがいちばん大きな役割の施設になると思います。町おこしではありませんが、我々が神戸から帰ってくる以上は、しっかりとそういった重要な役割を果たしていきたい。
女性のチームの施設ですので、女性、そしてやはり子どもたち、といったものがキーワードです。授乳室やキッズルームのほか、多目的ルームもありますので、いろいろな催しも開催できます。トレーニング施設には最新の設備を導入しており、他のプロスポーツチームにも「使いたい」と言われています。バレーボールチームでここまでの設備はなかなかないと思います。
――この施設を作るにあたって、モデルはありましたか?
萱嶋 いいえ。我々は長年、日本や海外の先進的なものも含めて、いろいろなスポーツ施設を見てきましたが、実質的には自分たちで考えて設計しました。我々から要望を出して、建築事務所と建設業者とで何年もかけてやってきたかたちです。ですから「ようやくスタートできたな」と感慨深いですね。
サブコートがあるため、エキジビションマッチなども含めていろいろな規模の大会ができます。来年の国民スポーツ大会(現在の国民体育大会)では、少年女子のバレーボール競技がここで行われる予定です。休憩所やクラブハウスなどもたくさんありますので、近々海外からすごいチームを呼ぶつもりです(笑)
バレーボール界、スポーツ界、そして地域の皆さんに貢献できるように、率先していろいろ取り組んでいきたいと思っています。運営していくのは大変ですが、「ここがやらなくては」という思いでやっていきます。
会社(SAGA久光スプリングス株式会社)を立ち上げたのはコロナ禍が広がっていたときでしたので、大変でした。それでも一年一年何とか運営して3年が終わり、4年目がスタートした、というタイミングです。チームは今年75周年を迎えますので、それも含めてこだわりはたくさんあります。
2台の大型ビジョンに、固定728席+可動700席を有するメインアリーナ
SAGAアリーナも含めて「佐賀から世界へ」
萱嶋 この5月、佐賀市にオープンしたSAGAアリーナは最大8,400人収容可能で、我々のホームゲーム会場となります。そのため、サロンパスアリーナはSAGAアリーナと比較してコンパクトなつくりになっています。SAGAアリーナでは、バスケットボールやコンサートを含めて、大きなイベントができるようになりますね。
――「佐賀から世界へ」というフレーズに本気を感じます
萱嶋 我々はほんとうに世界を目指してきました。チームとして、今まで世界クラブ選手権大会に4回出ているのはVリーグで私たちだけです。ヨーロッパを含む世界でチーム名が知られているのは、やはり世界で戦っているから。そういうチームづくりをしています。
佐賀県としてもいろいろな歴史や文化があるなかで、佐賀県にもご理解いただきながら、そういう部分では世界へ、ということを国民スポーツ大会の準備のときからキャッチフレーズとして訴えてきました。行政と我々との呼吸が合った部分です。
世界を目指すチームとして、さまざまなパイプもありますので、いろいろ海外のチームにも来てもらって、交流を深めたいと思います。また久光からもどんどん海外に出て行き、経験して戻ってきてもらうことは財産になると考えています。指導者についても同様で、そうすることによってより世界が近いものになると思います。
今回進んでいる新リーグはまさしく世界を目指す、というところで、「じゃあ世界のリーグってどんなリーグなんですか」という話ですよね。やはりそういう部分で頑張っていきたいと思っています。
――九州は昔から大陸、すなわち世界に近いという感覚もあります
萱嶋 そうですね、今回我々が佐賀に戻りましたが、Vリーグには福岡や熊本のチームもありますし、どんどん出てくればいいと思います。高校も、九州を制したら日本を制する、くらいの感覚ですから。でも九州に限らず、全国いろいろなところからこの施設に来てもらいたい。V2・V3のチームも含め、いろんな形で使っていただければいいな、と思います。
学生やママさんの大会使用も増えると思いますし、SAGAアリーナでは8月12日(土)に日本代表の紅白戦が予定されています(久光スプリングス・SSP VOLLEYBALL FES –Super Games SAGA-)。
1階エントランスにはスプリングスギャラリーを常設。これは必見!
多くの人の声を聞き入れて新たな取り組みを
――あらためて、この施設を作るにあたっては、使い手の声をどう反映させたのでしょうか?
萱嶋 声を聞けるOGがたくさんいますからね。プロジェクトには岩坂(名奈)始めOG選手の声も聞きながらやっていました。スタッフも、メディカル陣やトレーナーたちもそうです。現場の“これから”というところが大事ですから。将来、未来はどうなるんだ、と意識して作っています。これからもっと、新しい時代に入っていきますからね。
データとコーチングのマッチングもますます重要ですし、栄養学やメンタルもそうですが、一番大事なところは社会性です。スポーツ選手の傾向ですが、我々も含めてバレーボールだけをやっているところがありました。
我々は(これまで)地域の皆さんと触れ合うなど、いろいろなことをしていないんです。それでも、ファン感謝イベントなどでは多くの方に来ていただいています。ですから、今回は強い思いがありまして、これからは地域に密着し、さらに県や九州の方、特に学校の先生も含めてどんどん声を聞いて、やっていくことでムーブメントが起こせると思っています。
これまでバレー界は、いい試合をしていれば人は来るだろう、という考え方をしていました。そうこうしている内にBリーグ(バスケットボール)と差をつけられてしまいました。実業団のチームは、やはり会社、社内を見た運営になってしまいます。しかし我々を支えてくれているのは、地域や社会のいろいろな人なわけですから、そういうところにフォーカスして全部変えていこう、と。我々も勉強中ですが、新しいことにどんどん取り組んでいきます。
スタッフには「失敗は気にしなくていい、とにかく停滞しないこと。新しいトライを常にやっていくんだ」と言っています。ですから、毎年違うことをやっていますね。
エネルギーは要りますが、そこには夢があるわけです。社会に貢献していくことが大事ですから。
そういう試み、取り組みをしているチームは私も応援しています。ただ、自分たちで努力して頑張っていく、そういったマインドを持ったチームは小さいところが多いので、そこを支えていけるようなリーグでなければいけないと思います。
キッズルーム(左)とベビールームも設けられている
社会に貢献しながら一歩ずつ、前へ
萱嶋 私たちは何のためにスポーツをやっているのか? と言われたら、いちばんは社会貢献です。これは私の考えですが、社会に貢献できないようなスポーツはだめですよ。それはもう昔の時代です。
ですが、バレーボール界はこれまで恵まれていたからこそ、改革が遅れたわけです。そこは少しずつ変わっていきつつあると思います。スポーツの、我々の使命。口で言うのは簡単ですが、何とか進めていけるように、停滞せず、一歩ずつ前に進んでいきたい。何年かかるかわかりませんが、できると思っています。
――その一歩を、このサロンパスアリーナから
萱嶋 そうですね。ですから、この施設は単に久光スプリングスの練習拠点ではないということ。地域コミュニティーの形成や、地域社会に貢献するための重要な役割を持っている施設であり、その役割を我々が担っていくんだ、ということです。
競技的には、佐賀のこの鳥栖から世界へと広げていく。世界とも交流し、世界で勝てるチームづくりも進めながらやっていきたいです。
男子のチーム競技は、とても発展しています。ですが、いろいろな競技を見ても、女子のトップチームでこれだけの施設はありません。育児室や授乳室など、女性ならではという部分を含めて、社会貢献も展開していければ。そういう意味で、バレーボールはチャンスなんです。
今ようやく、バレー界は大きく前進しようとしています。やはり、そこにしっかりフォーカスしていくチームが、これからの新しいバレー界を担うのではないでしょうか。
充実のトレーニングルーム。2Fには一般の方が利用できるエリアも整備
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