バレーボールの男子日本代表が国際舞台で快挙を遂げている。なかでも、長年ウイークポイントと呼ばれてきたブロックに関しては、ブロックポイントこそまだまだ少なくとも、相手に決定機を与えない効果的な武器となっている。とはいえ、あらゆる世代で、競技者から「難しい」「苦手」と聞かれるのが、このブロックでもある。今回、自身も現役時代は長身ミドルブロッカーとして名を馳せたサントリーサンバーズの山村宏太監督に、その見解を聞いた。
山村宏太(やまむら・こうた/1980年10月20日生まれ/現役時代は身長205㎝/錦城高〔東京〕→筑波大→サントリーサンバーズ/08年北京オリンピック出場/サントリー監督)
「ブロックはかなり重要なスキル」と山村監督
相手のアタックをねじふせるかのように、ボールをたたき落とす。ブロックシャットは、観客たちのボルテージを上げ、決めた側は試合の流れを一気にたぐりよせる。
また、戦術的なサーブを起点として後衛のレシーバーたちを絡めた“トータルディフェンス”の面でも、ブロックは欠かせない要素だ。
けれども、その習得は難しいとよく聞かれる。競技に励む学生たちを始め、長年プレーしてきている現役Vリーガーでさえ、「課題はブロック」「ブロック力を伸ばしたい」と話すもの。
そして、それは指導者視点でも同じのようだ。サントリーの山村監督は言う。
「確かに、我々Vリーグのカテゴリーでも、ブロック練習は難しくて。セッターのトスも難しいのですが、おそらくはブロックがいちばん難易度は高いでしょう。
ただ、ブロックはかなり重要なスキルの一つです。今の男子日本代表を見ても、あのレベルになればブロックができない選手は生き残れないのではないか、と思えるくらい。それほど必要とされてくる能力です」
試合本番で得る成功体験にまさるものはない
それなのに、ブロックのスキルアップが難しいのはなぜか。
例えば、プレーの成長を促す要素の一つに“成功体験”がある。練習してきたことが「結果に表れる=成功した」ときにさらにレベルアップできる、という具合だ。まずその点に関して、ブロックは難しいのだと山村監督は話す。
「そもそも、相手の打つスパイクに対してのブロック、なので。練習だと、同じチームなだけに『こっちに打ってくるからわかっているよね』となるもの。たとえシャットできたとしても、ブロッカー側は『やった!!』ってならないんですよね、不思議と。
練習だけでは成功体験とはいけないし、練習でやってきたことが試合で発揮できたからこそ楽しいわけで。こればかりは、大事な場面で1本止めた、という経験にまさるものはないのではと思います」
いかに成功体験を積み重ねられるか、が鍵だ。それはプレーヤーだけでなく、指導者にとっても同じだろう。
そもそも経験すること自体が難しい?
極端な例を挙げたい。バレーボールを始めたばかりの学生がいて、その選手の身長が高ければ、その高さを生かすべく、試合ではブロックの役割を求められることがしばしある。指導者は「ネットに張り付いて、ボールに向かって手を出すんだ」というシンプルな指示を出し、選手はそれを遂行することから始める。「体の大きな初心者がミドルブロッカーにされがち、というものですよね」と山村監督。
とはいえ、そのプレー自体はスキルアップが実に難しい。試合ではシャットどころかワンタッチすらままならないこともしばしば。そのことも、成功体験を重ねにくい要因にある。
「おもしろくなくなってしまうんですよね、ボールに触る回数が少ないので。
練習にしても、ではブロックにどれだけ時間を割けるか、ほかの基礎的なスキルも確立できていないなかでどれだけ取り組めるか、と言われれば…。時間があれば段階的に取り組めるし、それができれば個々の上達も可能で、チームとしてもブロック力を強みにできるでしょう。それは私も監督として課題に感じている部分ではあります」
サイズに恵まれた“ダイヤの原石”は全国各地にいる(写真はイメージ。JOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会のもの)
いかにしてブロックのおもしろさを知ってもらうか
そこで、若年層に対するブロック指導について山村監督はこんなアイディアを出してくれた。
「毎日ではなくても、ブロック練習の時間を設ける。そこでは、ふだんボールを触る回数の少ない選手たちが、たくさんボールに触れることのできる機会をつくる、というのはどうでしょうか。
また、練習以外の遊びでいいかもしれません。2対2や3対3のゲーム形式の際に、Vリーガーや今だと日本代表の真似をしてみるのも。子どもたちって『自分はあの選手!!』と、なりきって遊ぶことがあるじゃないですか。そうやってプレーやブロックの楽しさ、相手の攻撃を止めたときの気持ちよさを覚えていけば、いっそうブロックに“ハマって”くるのかなと思います」
ブロックの中心として仲間の信頼を得ることは欠かせない
山村監督は自身を「ブロックが売りと呼べるほどのミドルブロッカーではなかった」と話すも、そのポジションにおけるブロックとの向き合い方、そして重要性を知っているからこそ、その言葉には熱がこもる。
「僕はやはりミドルブロッカーがブロックの中心になっていかなければいけないと思っているので。バレーボールでは点を取るアタッカーや、それを組み立てるセッターがいわば花形で、チーム内で持つ影響力は大きい。
ですが、ミドルブロッカーがいちばん、相手の攻撃やローテーション、セッターの特徴などをわかっていて、とくにブロックに関しては試合中、仲間に指示を出す係なんです」
先に例を挙げたような“経験は浅いけれど、大柄な選手”がミドルブロッカーとしてコートに立ったとしよう。そのときの胸中について、山村監督は「やっぱり自信がないんですよ。体は大きくて武器だけれど、ボールを触ってない。なので、怖くて発信できないんですよね」と理解を示す。だからこそ、周りに指示を出す勇気を持ってほしいのだとも。
「たとえ触る回数が少なくても、仲間の信頼を勝ち取っていく作業は必要だと思っています。知識量はもちろん、逆にサイドアタッカーたちから『お前の言うことを実践したらブロックできた』と言ってもらえるような経験ができれば、それが信頼にもなるし、本人の自信にもつながります。そこからさらに、『次はここを抑えよう』『ここは任せて』というコミュニケーションができることで、関係性もよくなる。そういう成功体験の積ませ方もありますね。
また監督という立場からも、すべて指示するよりも、もし余裕があるならば、ミドルブロッカーに『どう思う?』と聞いて発信させる、意見を発しやすい環境をつくることも一つです。『よし、それでいこう』と監督が言えば、選手本人にとっては認めてもらえたという絶好な体験なわけですから」
幼少期から大柄だった山村監督も、そのポテンシャルを見初められ、やがて身長205㎝の大型選手として現役時代を過ごした。「体が大きい選手は、もうそれだけで一つ能力が秀でているという評価ができる」という言葉は、何より説得力がある。
と同時に、その口から語られるブロックの重要性や伴う難しさ。そこには、ミドルブロッカー育成のヒントが存分に詰まっていた。
(取材/坂口功将〔編集部〕 写真/山岡邦彦、石塚康隆、編集部)
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