各都道府県の中学校体育連盟(以下、中体連)主催のバレーボール選手権大会が各地で実施されている。夏の全国大会に向けた登竜門であり、同時に、中学バレーボール部に所属する選手たちにとっては集大成ともいえる舞台だ。ただし、例年と違うのは今年から地域クラブの参加が導入されたこと。今回、第77回東京都中学校選手権大会(以下、都大会)への出場を果たした男子のクラブチーム「DropJYVC」の姿を追った。
初めての都大会に臨んだDropJYVCのメンバーたち
初めての都大会は初日で思わぬ? 敗戦を喫する
活動歴は10年以上、中学世代のクラブチームにとっての全国大会に位置づけられる「全国ヤングクラブ男女優勝大会」への出場実績を持つDropJYVC。中体連がクラブチームの大会参加を全面解禁した今年、都大会の男子に参加した第一号となった。
さて、その戦いぶりは。これまでの活動実績や、ふだんはヤングクラブバレーボールの基準である【5号球/ネットの高さ243㎝】でプレーしていることを踏まえると、中体連の【4号球/ネットの高さ230㎝】ルールは、試合において優位になると想像できた。けれども、実際は違った。
都大会初日の7月16日、会場は調布市立神代中学校。DropJYVCは“ホームチーム”神代中と一回戦を争った。第1セットの出だしは相手のミスなど5連続得点で9-5とリードを奪う。だが、18-15から7連続失点を喫して逆転を許すと第1セットを落とす。続く第2セットは中盤まで競り合うも13-14から8連続失点で突き放され、結果0-2(23-25、15-25)で初の都大会を終えた。
試合後、ひざに手をついたエースの篠原虎太郎(3年)は「試合の入りはよかったのですが、終盤につれて巻き返されて、『取り返さなきゃ』『決めなければ』と思って焦ってしまいました」と反省を口にした。聞くに、アタックとサーブレシーブ、攻守両面で“違い”に悩んだそう。
試合後、篠原(左端)はがっくし
アタックは力み、レシーブはサーブの軌道に苦しむ
アタックでいえば、いつも使っているボール(5号球)より小さくて軽くため、「打ちづらかったです」と篠原。また、ネットが低い分、「下に打ち過ぎました。長いコースを狙って打てればよかった」と力みを生んでいた。
そのネットの低さはサーブにも影響を及ぼした。243㎝だと、その高さに対して弧を描くような軌道になるが、これが低いだけ直線的に。なおかつ、スピードあるフローターサーブが打ち込まれる。DropJYVCでリベロを経験し、この日はアウトサイドヒッターとしてプレーした浅見南月は「低い弾道で真っすぐ飛んできたので、少しびびってしまいました」と振り返った。浅見もボールの違いから「スパイクもアウトが多かったと感じました」と力加減に苦労した様子だった。
思いのほかの早期敗退に、杣木浩三監督は「もう少しできるかなと思ったのですが…」と苦い表情だ。ただ、4号球を用いた練習は大会前日に行ったぐらいで、「さすがに昨日今日で慣れるかと言われれば厳しい」と原因を受け止めている。
「選手たちは首をかしげながらプレーしていましたね。いつもは大きいボールで高いネットに対して、全力で跳んで全力で打っているのが、今日はそうでなくても打てる。逆に、相手ブロックもネットから出てくるわけですから。243㎝だとほとんどブロックは出てきませんので、その違いもあったと思います」(杣木監督)
いつも以上にネットの上から相手ブロックの腕が出てきた。手前がDropJYVC
クラブチームの大会を戦う本来のレギュラーメンバーとは異なった
都大会への参加を決めた理由とは
いざ試合が始まり、いつもと違う状況下でプレーをすることになったわけだが、「そこで対応する力がなかった、と選手たちもわかったことでしょう」と杣木監督。もちろん大会に出る以上は一つでも多く勝ち上がりたかったが、今回は“経験”の場としてとらえていたのも事実。というのも、大会の登録メンバー自体、本来のレギュラーメンバーとは異なっていた。DropJYVCは選手たちがそれぞれの学校でバレーボール部に所属しているケースもあり、その面々は今回、チームにはいなかったというわけだ。
中体連主催大会への参加が正式に発表されたのが今年の春。説明会を経て、クラブチームは参加ないし不参加を判断した。杣木監督は悩んだというが…。
「チームには、学校でほかの部活に所属している選手もいます。その子たちは、同年代の中学生たちがどんなバレーボールをして、中学校のチームがどう戦っているのか、を知りません。特に、近年はコロナ禍で試合を見られること自体が少なかったので。知らないまま高校に進むよりも、せっかくのいい機会になると思ったんです」
その最たる例が浅見で、DropJYVCでキャプテンを務める彼は学校にバレーボール部がなく、ふだんは陸上部で走り幅跳びに励んでいる。今回、中体連の大会に参加した印象は。
「部活で一緒に取り組んでいる周りのチームのほうが自分たちよりも、連係や声のかけ合いができていると感じました。雰囲気がいいな、って」
小学生時代から在籍する④浅見キャプテンは「DropJYVCは練習から楽しそうで入団を決めた」という
クラブチームの存在意義とDropJYVCのケース
そもそも試合のメンバーはイレギュラーであり、またルールが異なるため求められるプレーも戦い方も異なった。かといって、“中体連仕様”をつくりあげる時間があったか、そして、あるかと言われれば、そうはいかない。杣木監督はチームの現状を語る。
「決まった練習場所はなく、毎回、みんな一生懸命に道具を一式持って体育館へ足を運んでくれます。チームとしては基本的に強制参加ではありません。練習に来れるようならおいで、休むなら休んでいいよ、という具合です。
それに、学校でバレーボール部に所属していても、クラブに入団してもらうことは可能です。今のところは『部活動をやめてまでクラブにこないで』と伝えています。ですが、いずれはどちらかを選択してもらう必要が出てくるかもしれません。『部活動と並行してクラブは難しいから』と、私は言いたくないですが…」
元々、DropJYVCは練馬区や板橋区を拠点に社会人たちが集まって結成したチームだ。やがて、その地域の学校に部活がない子供たちのために中学生カテゴリーを設け、クラブチーム化した背景がある。部活の減少がささやかれる中、競技に励むことができる環境としてクラブチームの存在意義は大きいが、同時に、別の見方が当事者としてもある。
「例えば、生活面に関しては見ることができませんから。学校生活がしっかりできていないのにバレーボールだけ、では本末転倒ですよね」
ほかの試合で記録係を務める選手たちをサポートする杣木監督(右端)
アップゾーンから熱心にエールを送る控えのメンバーたち。コールがやむことはなかった
変化する中学バレー界において、変わらぬ思い
そこにあるのは、部活とクラブチームのどちらがいい悪い、という議論ではない。杣木監督は思いを語る。
「私自身、本来は部活動で取り組んでほしいと思っています。学校の先生のもとで、学校生活を通じて心と体を育んでいくのが最善ですから。クラブチームでは技術を磨くことはできますが、生活面までフォローするのは難しいと感じます」
実際、全国各地を見渡せば、教員が在籍校とはまったく別でクラブチームに従事しているケースはある。もっとも、杣木監督自身は会社勤めのサラリーマン。そうした事情も、自身の部活動とクラブチームの向き合い方につながっている。
今は、狭間にいる。中体連への参加が可能である以上、これまで以上にそちらへ重きを置いたり、それに応じた運営方法を模索する必要が出てくるかもしれない。この先、活動していくうえで、その決断は常に隣り合わせだ。それでも胸に留めているのは、子どもたちの成長である。
「変えていく必要がある、変えなければいけない部分を精査しながら、引き続きチャレンジしていきます。根底にあるのは、子どもたちにたくさんのことを経験させて、その子の可能性を大きくすること。そのチャンスがあるならば、どんどん取り組んでいきたいです」
10年以上、チームに携わる杣木監督が見守る中、初めての舞台を戦った
初めての都大会を終えて、キャプテンの感想は
たくさんの経験を積む。DropJYVCにとって今年は、その機会が中体連の都大会だった。初日の、それも一試合だけで戦い終えることになったとはいえ、やはり試合があることが選手たちにとっては価値があった様子。浅見キャプテンはこのように語った。
「試合がないと、練習もばく然としたものになってしまうので。試合に向けて取り組んでいるんだと思えると、練習の士気も高くなる。それが、やっぱり試合や大会があるといいな、って思えるところです」
チームの活動は続く。今後は中体連の大会に参加していた面々が戻ってき、すでに出場権を獲得している秋の全国大会に向けて再び歩みを進める。
「去年も全国大会に出場できましたが、そこで強いチームとわたり合うところまではいってないので。全国でもしっかりと勝負できるような、粘り強いチームになりたいです」(浅見キャプテン)
精いっぱいバレーボールに励み、楽しみ、そして成長したいと願う。その思いは、学校であろうとクラブチームであろうと、きっと変わらない。
秋には全国大会が控える。まだまだ切磋琢磨し続ける
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
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