バレーボールの中学生世代の全国大会「第53回全日本中学校選手権大会」(以下、全中)は今年、愛媛県松山市を舞台に8月23日まで行われた。2年生のダブルエースを擁し、前評判の高かった男子の城南中(広島)は最終日に到達。準決勝で死闘を繰り広げた。
通算14度目の出場を果たした城南中
優勝候補の一角だった城南中
今年3月、全国各地の中学生57チームで争われた「パナソニック旗 第37回全国東西中学生交流バレーボール大会」(以下、東西交流杯)で、ひときわ注目を集めたのが城南中だった。
機動力、ジャンプ力、テクニック、どれもピカイチ。そんな寺岡蒼大と前田鳴斗の2人のエースが得点を重ねる姿に、関係者たちはうなった。しかも2人とも当時1年生だというから、そのインパクトは強烈だった。
あれから約半年、城南中は全中の舞台でも強さを見せた。決勝トーナメントではサレジオ中(東京)、昇陽中(大阪)といった、日本一の実績を持つ有力校を撃破。昇陽中の元成喜一郎監督は敗れた直後、「うまい!! どれも相手が上回っていた」と潔く白旗を上げた。
東西交流杯で「今年と(来年の)自分たちの年、2年連続日本一を取ります」と力強く意気込んだ寺岡の言葉も現実味を帯びた。
城南中の2年生エース寺岡(コート左)が名門・サレジオ中のキャプテン水嶋勇吹とネット上で攻防
太宰府U14クラブとの準決勝
迎えた最終日、会場の松山市総合コミュニティセンター体育館には、勝ち残った男女各4チームの応援団だけでなく、大会に参加していたチームの姿も数多くあった。その熱気を受けて、城南中の中村蒼実キャプテンは「いろんなチームが見に来たりして、応援もすごかった。プレッシャーを感じましたし、緊張もしました」と明かす。
そうして臨んだ太宰府U14クラブ(福岡)との準決勝は寺岡のアタックで先制すると、前田が強烈なスパイクを突き刺すなどセット中盤で6連続得点を奪い一気にリード。そのまま第1セットを先取する。
続く第2セットは相手のサーブとミドルブロッカーの多彩な攻撃を前に競り合う展開となり、22-20から5連続得点を許して落とした。相手に渡った流れは変わらず、最終第3セットは序盤で6連続失点を喫し、4-10と苦しい状況に陥る。
そんななかでも、チームを盛り上げたのが3年生たちで、その筆頭はやはり中村だった。「泥臭くボールをみんなで追いかけたり、ミスしたときこそ自分たちで声を出して、決まったらしっかり喜ぶ。それが自分たちのバレーです」とは東西交流杯で語っていた言葉。それを集大成の場でも貫く。
チーム内の雰囲気を盛り上げる⑥中村キャプテン
アタッカーたちと密にコミュニケーションをとりながら、攻撃を組み立てた⑥中村キャプテン
あとがない状況からキャプテンが決めた
じりじりと追い上げるも、22-24と先に相手にマッチポイントを握られた。それでもあきらめず、寺岡が得点してサイドアウト。中村にサーブ順が回ってきた。
「すごく緊張しました。でも3年間やってきて、これが『最後の一球だ』と思って、しっかりと打つことができました」
きれいな弧を描いた打球は、足が固まった相手レシーバーの手前に落ちる。同点に追いつくサービスエース。歓喜する仲間たちを前に、もう一度エンドラインに立った中村の目には涙が浮かんでいた。
その姿に中山雄太監督も胸を熱くした。
「大会を通して3年生が当たっていたんです。きっと活躍するだろうなと思っていましたので、私もうれしかったです。
3年生は初心者も多い学年で、今回の全中でも登録メンバーから外れた部員はいました。それに、あれだけのプレーをする2年生ばかりが注目されるなかで、肩身の狭い思いをしてきました。最後はやはり、活躍してくれましたね」
サービスエースを決め、もう一度サーブに。その目には涙
「あの1点で報われたな」(中山監督)
試合後、中村はほほえみながら、あの場面を振り返った。
「涙が出てきたのはサーブが決まった瞬間です。うれしい、それしかありませんでした」
一度は同点に追いついたものの、そこから寺岡がブロックされ、最後は相手エースの得点を許し、第3セットは24-26。日本一への挑戦は幕を閉じた。
セッターであり、2人のエースにボールを供給し続けた中村は「2年生でレギュラーになってから、肉体的にも精神的にも追い込まれるときもあって、それはすごくきつかったです」と明かした。けれども、最後は「しっかりと戦えたのでよかったです」と晴れやかに言う。
「勝ち負けもそうですが、上手い下手関係なく一生懸命やることの大切さを後輩たちに見せてくれた」と3年生に感謝してやまない中山監督は、今夏最後のサービスエースを思い返し、こう語った。
「きつい思いをしてきたキャプテンも、あの1点で報われたな、と思いました」
2年生にスポットライトが当たるなか、中山監督は「3年生たちの存在あってこそ」と感謝した
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
■中之口(新潟)が初優勝 愛媛全中男子最終順位と全試合結果一覧【愛媛全中2023】
■雄新中男子 小山千「あと一分一秒でも多く練習していれば」と後悔も胸を張る 地元開催の全国大会で
■「夢を選手たちがかなえてくれた」太宰府U14クラブが初の全国大会へ 30年来の指導者の思い
****
夏のドラマがここに!!
愛媛全中の大会レポート&全出場名鑑は
【ギャラリー】ベストゲームの声 愛媛全中男子準決勝 城南中vs.太宰府U14クラブ
■中之口(新潟)が初優勝 愛媛全中男子最終順位と全試合結果一覧【愛媛全中2023】