バレーボールの「第26回全国ヤングクラブ優勝大会」(以下、全国ヤング)が9月30日(土)から男子は和歌山、女子は大阪で開幕する。大会は男女ともU14とU19の2世代のカテゴリーが設けられており、特にU14は全国から集った48チームによって争われる日本一決定戦(U19は12チーム)。とりわけ男子は今年の全日本中学校選手権に出場したクラブチームやVリーグのジュニアチーム、そしてU16日本代表選手が所属するチームが並ぶ。(カッコ内の学年は現在のもの)
<今年の全国ヤングに出場する岩野泰雅(左)と新山明(右)は男子U16日本代表のメンバーでも>
クラブチーム「福岡PROCEED.VBC」に所属する新山明と岩野泰雅
今年7月中旬、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京)には12名の若き才能が集っていた。今年から新設された国際大会「第1回アジア男子U16選手権大会」に臨む面々だ。シニア代表とデザインは異なるものの、真紅のユニフォームの左胸には日の丸が光る。
その中の2人、背番号2の新山明(学業院中〔福岡〕3年)と背番号12の岩野泰雅(朝日中〔大分〕3年)がコートに並ぶ。ともにポジションはアウトサイドヒッター、だが、ここでは岩野がチーム唯一のリベロとして招集された。
「やっぱり存在感があって、頼りになります。いつも一緒にプレーしている分、安心する感じが。リベロとして難しいボールも上げて、周りを助けてくれています」
とっさの反応でボールを拾い上げる岩野の姿を、新山はそう語った。反対に、新山の姿は岩野にこのように映っていた。
「相手ブロックがきたときの対応力が、ふだんとまるで違います。ばぁーん! と弾いてアタックを決めている。すごいなと感じます」
中学は違うが、2人は同じクラブチーム「福岡PROCEED.VBC」(福岡/以下、福岡プロシード)でプレーし、そこではエース対角を組むどうし。だからこそ、変化と成長に気づき、目を丸くし、どこか安心感を覚えたのである。
<今年、国際大会に臨んだ男子U16日本代表の選手たち。②が新山、⑫が岩野>
2年生時からチームの主軸として活躍してきた2人
福岡プロシードでは2年生の頃からすでに主力を務め、2枚看板を形成してきた新山と岩野。SNS上ではプロフィールの欄に、そろって“相棒”と載せるほどの間柄だ。その関係性は、彼らが2年生時の取材で口にしたお互いへの期待からも見られた。
「自分が全部レシーブするから、全部決めてほしいです」(岩野)
「ミスしても自分がキャプテンとして励ましたり、支えてあげるから、思いきり攻めてほしいです」(新山)
頼りがいに満ちあふれ、それでいてコート上では支え合う。そんな絆がきらりと輝く。
その存在の大きさを思い知ったのが、今年春の「第3回U14 PROGRESS CUP」だった。全国各地から有力チームが集ったこの大会で、福岡プロシードは昨年末の第2回大会に続く連覇を目指し勝ち進む。準決勝では、身長180㎝超えの大型選手が並ぶWOLFDOGS名古屋U-14(愛知)と対戦。その第1セットで、岩野が足をねんざし途中退場を余儀なくされたのである。
<全国ヤングの県予選を控えた重要な大会として、PROGRESS CUPに臨んだが…>
<次ページ>無念の負傷退場となった岩野に言葉をかけることができなかった新山
<岩野がコートを離れたあと、闘志をむき出しにしてプレーした新山>
無念の負傷退場となった岩野に言葉をかけることができなかった新山
治療のためプレー続行は不可能となり、福岡プロシードは片翼をもがれた。その状況下で、新山は何度も相手の高いブロックを破った。攻撃枚数の差で相手にリードされようとも、前衛後衛問わず力強いスパイクを放つ。「正直、自分だけで勝てるのかなという不安はありました。でも、それと同じくらいに、“やってやる!!”という気持ちも。覚悟を決めて、絶対に勝つんだ、とプレーしていました」と新山。
だが奮闘むなしく、フルセットの末に敗れる結果に終わった。試合後、新山は“相棒”の存在をひしひしと感じていた。
「いつもは(岩野)泰雅がいるから、後衛でもバックアタックはたまに打つだけ。アタックも自分に相手ブロックが3枚つくことがほとんどなかったので…。
泰雅はレシーブが役目と言うけれど、ここぞのところで決めてくれる。泰雅が決めたら絶対に自分も決める、という気持ちになる。お互いに高め合える、やっぱりでかい存在だなと思いました」
試合後も岩野は治療のため、体育館の端で安静にしていた。何人かのチームメートは声をかけていたが、新山はいちばん遠い位置で悔しさにひしがれていた。
「絶対に優勝する、という約束を果たせなかったので…。泰雅に申し訳なくて。話せませんでした」
<試合後、うなだれる福岡プロシードの面々。右端が岩野。左端に新山の姿が>
今年6月の全国ヤング県予選で岩野が“恩返し”の奮闘
一方の岩野もこの日、新山と話すことはなかった。大会を終えてから、インスタグラムのダイレクトメールで「ごめん」と伝えた。すると、新山から「話しかけづらかった」と返ってきた。負傷退場して以降、初めてのやりとりだった。
「でも、ほんとうに頼もしかったですよね、あのときの(新山)明は。一枚であれだけ決めるんですから。
なので、ずっと自分も『出たかったかな』『ケガせんかったらよかったな』という思いで外から見ていました」
岩野のケガは幸いにも1週間ほどで完治し、コートに戻ることができた。そうして臨んだ6月の全国ヤング福岡県予選で、今度は岩野が気を吐く。実はこの大会の終盤、新山の足は限界にきていた。
「最後は足がつってしまい、自分はもう限界でした。そんななか、泰雅が『PROGRESS CUPで明が頑張ってくれた分、恩返しだ』ってプレーしてくれたんです」
自分たちのチームが始まってから日本一を目標にしてきた。その切符をたぐりよせた試合をそう振り返る新山は、うれしそうに口にした。
「県予選があったから、また信頼が深まった気がしますね」
<アタッカーとしても高い素質を備える岩野>
<次ページ>日の丸をつけた2人にきいてみた。自分にとって…
<存在の大きさを誰よりも感じているからこそ。PROGRESS CUPでは涙があふれた>
日の丸をつけた2人にきいてみた。自分にとって…
福岡プロシードは全国ヤングを区切りとして代替わりとなる。新山たち3年生にとっては、これがクラブチームで臨む最後の大会だ。新山は「中学3年生になって、一つ一つの試合が最後になるわけじゃないですか。PROGRESS CUPも県予選も経て、いよいよ全国ヤング。勝っても負けても(中学バレーは)引退なので、悔いがないように頑張りたいです」と思いを明かす。
もちろん、そこには相棒への思いも。今夏、U16日本代表の合宿の際にあらためて聞いてみた。
新山にとって岩野とは?
「やっぱり泰雅がいると、自分は自然と“負けたくない”という思いになれるんですよ。頼りにしているし、同時にライバル心を持って取り組めるので、自分も成長できています」
では、岩野にとって新山とは?
「クラブでもU16日本代表でも一緒にやれるのは、ほんとうにうれしいです。明は、まぁ…、相棒でもあるし、ライバルみたいな感じですね」
集大成となる全国ヤングでは予選グループ戦で、偶然にもWOLFDOGS名古屋U-14と同じ組になった。因縁ともいえる相手に対し、次こそは2人そろって勝利を目指す。
<全国制覇を目指す福岡PROCEED.VBC>
(文・写真/坂口功将〔編集部〕)
<次ページ>未来の日の丸戦士がここに。男子U16日本代表 国内合宿の様子