Vリーグの東京グレートベアーズは今春、イタリア・セリエAのパドヴァと戦略的パートナーシップ契約の締結を発表した。パドヴァといえばイタリア国内でも、とりわけ選手の育成に定評があるクラブ。そうして8月に東京GBはパドヴァの育成コーチ、ジョルジオ・サバディン氏を招き、主に小中高生を対象にしたバレーボールクリニックを開催している。今回、東京GBのカスパー・ヴオリネン監督とジョルジオ氏の対談が実現。そのなかから、バレーボールを始める適正年齢や指導論について紹介したい。
今夏、来日したジョルジオ氏(右)と東京GBを指揮するカスパー監督(左)
15歳から競技を始めてもトップレベルに到達できる
――それぞれ出身はジョルジオ氏がイタリア、カスパー監督がフィンランドになります。ご自身の国におけるバレーボールの位置づけを聞かせてください
ジョルジオ氏 イタリアではサッカーやバスケットボール以上にバレーボールを好む人は少ないでしょう。ですが、それでも代表とクラブは最高の結果を出しています。決して他競技に劣っていない、というメンタリティーが必要だと私は思いますし、そのために指導者として努力していきます。
カスパー監督 フィンランドは北欧の国なのでアイスホッケーは当然のもの。ほかにもサッカーやバスケットボールとたくさんのスポーツがありますが…、おそらくバレーボールは上位6つに入っていません。ですが強いて言うならば、男子よりも女子バレーのほうが人気はあります。
――子どもたちがどの競技を始めるか、にも左右されますか?
ジョルジオ氏 これは私の考えですが、子どもたちがバレーボールを始めるうえで年齢の若さは重要ではありません。例えば、アンドレア・ルケッタ(1980年代の男子イタリア代表黄金期を支えた名選手)は15歳で競技を始めましたし、同様の選手はほかにもたくさんいます。
それに指導者としてバレーボールに携わる人間としては、「競技そのもののファンを育てること」「ボールを追いかけるすべての人材を育てること」を考えています。子どもたちが将来いい選手になるかどうかは二の次。10歳の頃はただ見て、楽しむことが大事だと思います。
カスパー監督 適正年齢については多くの研究がありますね。科学的な文献には、早い段階からバレーボールに取り組むことは有益だとありました。それは学校やクラブで、たとえ週1回の練習や観戦で少しずつ触れることであっても。そこでは並行して、ほかの競技に励んでいても大丈夫。多目的な背景を持つのはいいことです。ジョルジオ氏の言うとおり、15歳からバレーボールに特化しても高いレベルに到達することはできます。
2022年の男子U20ヨーロッパ選手権で優勝したU20イタリア代表。コーチとして携わったジョルジオ氏の姿も(右から2番目)
「成長しながら難しいことにも取り組めるようになる」(ジョルジオ氏)
――若年層への指導方法は年齢によって変わるものですか?
ジョルジオ氏 そうですね。例えるならば、ペダリング(自転車をこぐこと)と同じです。
10歳前後でバレーボールを始めたとしましょう。そのときは体育館に足を運ぶたびに「ああ、自分はボールをセット(トス)できる、スパイクができる、パス(レシーブ)ができるんだ」と実感します。これがスタート地点。
次に子どもたちが14、15歳になるにつれて、私たちは一つの競技に専念するように促します。そうして本人は「自分は一つのこと、バレーボールに力を注げるんだ」と。
そこから16~18歳になると、子どもたちはさらに特定の要素に集中するようになります。「自分の技術を向上させるためには、これを改善しなければならない」と考えるようになります。やがて18~20歳になった子どもたちは一人の選手として、自分のスキルを上げることがチーム全体のパフォーマンス向上につながると体感し、そこにいっそうフォーカスするわけです。
こうしたプロセスの中で、子どもたちは成長しながら難しいことにも取り組めるようになります。やはりバレーボールは理解するのも、練習するのも難しいですからね。
最終的には選手たち自身で「これをやるんだ」「チームのために自分はこうしたい」と考えます。そうなれば、あとは心配ありません。
カスパー監督 私自身のコーチング哲学は、科学的な見地をベースにしています。そこで言えるのは、バレーボールは求められる運動スキルが非常に特殊、だということ。
いつも例に出すのは、バスケットボール選手のマイケル・ジョーダンです。彼は世界最高のプレーヤーでしたが、キャリア絶頂期に野球に転向しました。そこでは努力の結果、平均的なレベルに達することはできましたが、バスケットボールでの彼自身の境地には到底及びませんでした。
この例を踏まえるに、バレーボールでトップになりたければ、基本的にはどの年代であってもバレーボールをたくさんプレーすることが大前提だと私は考えています。
今年9月のエキシビションマッチでエスコートキッズたちに温かいまなざしを送るカスパー監督
「バレーボールをすること、がいちばん」(カスパー監督)
――国によって競技する環境も異なります
カスパー監督 どんな国であれ、そこにあらゆるカルチャーがあり、それぞれの国のやり方で高いレベルに到達することはできるでしょう。
それに、例えば私がプレーしたイランは指導者の文化はそれほど存在しませんが、バレーボール自体は盛んで代表チームも長年、世界のトップ10に君臨してきました。そこには、選手の絶対数が多く、コーチングを受けずとも、あらゆる年代で常にプレーしていることが背景にあります。
つまり、“バレーボールをする”こと自体がいちばんなわけで。いつも私はイタリアに対して、若い選手たちが少人数でゲームをこなす際のスキルの正確さに感心させられます。6対6よりも多くボールを触れる、それこそ人数が4対4や3対3の形式になるほど、あらゆるスキルの高さが明らかになる。ミニゲームそのものが素晴らしいトレーニングになっていますよね。私も選手たちがより早く、よりすぐれたプレーができるようにコーチングで活用しています。
「あなたは今、プレーをしていて、こういう技術を持っている」と明確にして、そこに少しばかりの技術的トレーニングやメンタルのアプローチを加えるだけで素晴らしい選手になれます。
ですから基本的には、とにかくバレーボールをする、これが若年層に必要なことではないでしょうか。
ジョルジオ氏 素晴らしい。この講義をもっともっと受けたいものです。
(取材/坂口功将)
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