バレーボールのVリーグは2023-24シーズンが開幕し、1部(V1)から3部(V3)まで各カテゴリーの大会が各地で行われている(V3女子は11月25日に開幕予定)。その今季は、24-25シーズンから「S-Vリーグ」がスタートするなどリーグ改革が控えるため、各カテゴリー間の入れ替え戦は実施されない。リーグを制したとしても“昇格の挑戦権”が直接的には付与されない、というわけだ。その特殊なシーズンを、下位カテゴリーのチームはどんな心境で戦っているのか。11月初旬、V2男子の大阪大会で各チームに話を聞いてみた。
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チームもサポーターも幸せな気持ちに、を目指すアイシンティルマーレ
極端に言えば、勝っても昇格なし。その逆も同じで、負けても降格はない。
そんな23-24シーズンの位置づけは何なのだろうか? リーグ開幕を1週間後に控え、アイシンティルマーレはチーム全員でミーティングの場を設けた。キャプテンの水野将司が首脳陣に進言し、実現したものだという。
「明確にしてもらったほうが選手たちもわかりやすいかなと思ったんです。メリハリも生まれたでしょうし、結果的に目標もはっきりしました」
そのミーティングを経て、今季リーグ戦に向けた姿勢は定まった。長嶋彰監督はこのように話す。
「今すぐとは言わずとも、いずれS-Vリーグを目指していくためには、このリーグ戦も消化試合にするのではなく、しっかりと結果を出す。上を目指すのだというアピールの土台にしていかなければなりません。その観点で、一試合も無駄にせず戦っていこう、と」
アイシンは21-22シーズンからVリーグに参戦。初年度にV3優勝を果たし、翌年はV2に昇格。母体企業のもとで運営される一方で、ジュニアチームを含めた選手育成や競技普及など地域に根差した活動に励んでいる。シーズン開幕前のミーティングではチームの方向性として「応援してくれる方々やサポーターたちと一緒になって、全員が幸せな気持ちになれるように。その姿をティルマーレが中心となってつくりあげるんだ」(長嶋監督)と確認した。
その体現者として選手たちは、勝利を目指す。試合中には控えのメンバーも「アイシン」コールで雰囲気を盛り上げ、「一体感が生まれる。ほんとうにありがたい」と水野キャプテン。そんな姿に長嶋監督も「明らかに昨シーズンより一人一人が当事者意識を持っています。全員が『おれがやるんだ』という気持ちでいるのが見られます」とほほえむ。
チームがいかに今シーズンを戦うのか。明確になっているからこそのアクションが、そこにはある。
「優勝しなくてもいい、という考えにはなりません」(北海道イエロースターズの山田滉太)
シーズンを前に、チームの方向性をはっきりと打ち出したのが北海道イエロースターズだ。前身の「サフィルヴァ北海道」から名称やロゴを刷新。そのリブランディングは、各チームの事業化を推し進めるS-Vリーグ参戦への“意思表示”と見てとれる。
攻撃的なスタイルで臨み、チーム過去最高となる3位(V2)となった昨季を経て、「圧倒的チームワーク」をスローガンに掲げて臨む今季。浜崎勇矢監督は「V2というカテゴリー自体が今季で最後になるわけですから、絶対に優勝したい」ときっぱり口にした。自身は現役中に大分三好ヴァイセアドラーでV2優勝(16/17)を経験しているが、「監督としても」という思いで采配を振る。
その指揮官の思いに応えるべく、移籍加入ながらエースとしてチームをけん引するのが山田滉太。今季の位置づけを語るその口調には熱がこもる。
「リーグのかたちが変わることは決まっていて、現状は次がどうなるかわかりません。ですが、たとえ来シーズンにチームが戦うステージが変わったとしても、そこで戦えるチームを目指す、という思いです。
V2だから、入れ替え戦がないから、『優勝しなくてもいい』という考えにはなりません。もちろん今季のV2で優勝することで、チームとしてモチベーションを上げて、来シーズンに向かっていきたい」
チームはホームで迎えた今季開幕週で連勝スタートを飾るも、翌週の大阪大会は2試合続けてフルセット負け。山田は悔しさをにじませた。
「自分に託された場面で決めきることができませんでした。そこで決められるようにならなければいけませんし、もっともっと高いレベルを目指さないと。
来シーズンへ自信をつけるためにはパフォーマンスが大事になってきますし、最後を決めきれる選手になりたいです」
持ち前のアタックセンスと跳躍力で、トップカテゴリーを沸かせてきた“小さな巨人”は強く誓った。
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いま自分たちが立つステージでいかに戦うか、を明確にする富士通カワサキレッドスピリッツ
今オフに積極的な選手補強を敢行した北海道YSに今季初黒星をつけたのは、対照的に“主力選手の大半が引退”した富士通カワサキレッドスピリッツ。シーズン開幕戦となった11月11日の先発オーダーのうち、これまでレギュラーだったのは今季からキャプテンを務める加藤大雄とエースの谷平拓海くらい。長年チームを指揮する山本道彦監督も「ほんとうに勝てるのかな、と。戦力ダウンで迎えましたから」と不安を抱いていたが、北海道YSとのシーズン開幕戦をフルセットの末に勝利。敗れた浜崎監督は「(メンバーが変わったとしても)ディフェンスが組織的に機能している印象でした」と語った。
富士通といえばV2と前身のV・チャレンジリーグを含めた“2部”で常に上位争いを繰り広げ、過去には4連覇(17/18~20-21)の実績を持つ。ライセンス制を導入した現行のV.LEAGUEや、次のS-Vリーグしかり、リーグ変革の際には関係者やファンの間で「いよいよトップカテゴリーか」という機運は高まる。
けれども、入れ替え戦や国内の主要大会では1部に勝利できていないのが現状で、結果を出さずして運営企業にさらなるバックアップを求めることは難しい。それもまた現実だ。
勝っても入れ替え戦がない今シーズンについて「メリットはありません。やはり選手たちのモチベーションをいかに維持するか」と山本監督は難しさを語る。それでも加藤キャプテンの言葉は頼もしかった。
「僕は若手の頃に、V.LEAGUEに変わって(18-19~)ライセンスがないからトップカテゴリーに上がれない、という状況を味わいました。その頃は、『えぇ…』という気持ちでしたね。
ですが、企業名を背負って、何よりお金を払って試合を見にきてもらっている方々にバレーボールを見せるのはスポーツマンとしての義務だと思うので。僕自身のモチベーションに変わりはありません。その姿勢を見せ続けるしかないのかなと考えています」
「ミスが多くても全力でできるシーズン」と前向きなクボタスピアーズ
バレーボール選手として。舞台がVリーグであろうとなかろうと懸命にプレーしてきた一人が、クボタスピアーズの選手兼コーチの早瀬川雄也、35歳。大学を卒業して入団した当時は地域リーグに所属していた。それから10年近くが経ち、チームは20-21シーズンからVリーグに参入した。
「引退を考える年齢でしたので、正直『このタイミングで!?』とは(笑) ですが、チームを強くする方針のなか求められるのはありがたいですし、練習環境も入団時から大きく変わりました。今がいちばんバレーボールに励めています」
変わったのは、強化方針だけではない。Vリーグのチームとして、地域に根差した活動に励む機会も増えた。津崎智之監督は「バレーボール教室や、警察と協力した『なにわランニングパトロール隊』など、地域と関わる機会が徐々に出てきました。それをいかに継続して、その幅を広げるか」と話す。その成果は、今季最初のホームゲームとなった大阪大会の会場であるAsueアリーナ大阪(大阪市中央体育館)のサブアリーナを8割以上埋めた入場者数に表れた。
運営母体が企業であり、その社員や関係者が応援に駆けつけた一方で、子どもたちの姿も。「私たちはバレーボールに励む地域の子どもたちの受け皿に、そして拠点の“難波”を象徴するチームでありたい」とは津崎監督の願いである。
今シーズンの目標は2位以上。例年だと出場圏内となる入れ替え戦は実施されないが、チームは前向きだ。「ある意味、全力でできるわけですから。例えミスが多くても、ハイリスク&ハイリターンのバレーボールを展開しながら、手を緩めずに強くしていきたい」と指揮官は語り、ベテランの早瀬川も「『失敗してもいい』と若手選手を送り出せますし、もっともっとトライしてどんどん経験を積んでほしい」とエールを送る。地域とともに、成長を続けるのみだ。
S-Vリーグのライセンス申請は11月30日まで。さまざまな思いで今季を戦うチームは、次の一歩をどのように踏み出すのだろうか。
(文・写真/坂口功将)
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