12月3日、大竹28歳の誕生日。安山OK金融グループ・ウッメンに勝利した(写真/ソウルウリカード・ウリWON)
初のアジア枠トライアウトで韓国Vリーグへ
バレーボール元男子日本代表の大竹壱青は12月3日、28歳の誕生日を韓国のソウル奨忠(チャンチュン)体育館で迎えた。パナソニックパンサーズを退団し、2023/24シーズンに初めてアジア枠のトライアウトを実施した韓国Vリーグにドラフトで移籍。同体育館をホームとするソウルウリカード・ウリWON(以下ウリカード)で、プロ選手としてプレーする。この日は元男子日本代表、荻野正二監督の率いる安山OK金融グループ・ウッメンに勝利し、誕生日を白星で飾った。
背番号29、シャツネームは「イッセイ」。オポジットとしてプレーしていた日本代表で、東京2020オリンピックの最終メンバー入りを逃し、パナソニックでは若手が台頭したこともあり、海外に活路を求めた。中央大時代に短い期間ながらもイタリア、ドイツでプレーした「イッセイ」にとって、3ヵ国目となる韓国への移籍はどのような意味を持つのか?
11月25日ソウル奨忠体育館。荻野監督率いるOK金融グループ戦を控えた前日練習で。韓国でも笑顔がトレードマーク
韓国Vリーグのレギュラーラウンドは全7チームが6回総当たりする6ラウンド制で、1チーム当たりの試合数は日本のV1男子と同じ36試合。試合間隔は中2日が基本で、水土、木日など平日にも試合がある。
大竹は10月15日の開幕戦から第3ラウンド終盤まで、全試合に出場。チームは12勝4敗と、リーグ初優勝に向けて首位を走っている(12月16日現在)。より多くの出場機会を求めての渡韓は、成功といえるだろう。
「大学時代の海外経験は『挑戦』だったけれど、今回の移籍は(チームから)求められているものも立場も(大学時代と)違うし、(自分自身の)勝負を懸けてもっともっと戦っていかないと、という覚悟がある」
11月23日、三星火災戦でサーブを打つ大竹。この日はベンチスタートから大差をつけられた状態で途中出場し、リズムを変えた
ウリカードではミドルブロッカーとしてプレーする一方、主砲マテイ・コク(スロベニア)にトラブルがあった場合に、オポジットとして出る準備も求められている。通常はスタートからミドルブロッカーで出場するが、11月23日の大田三星火災・ブルーファングス戦では、体調不良の状態で出場したマテイの控えとして、ベンチスタートとなった。第1セット、チームにミスが続いて5−15と大差をつけられた場面で、大竹はミドルブロッカーでコートに入る。イタリアやドイツで使ってきた英語でジェスチャーを交えて、積極的にチームメートに話しかける。この交代をきっかけとしてチームは徐々に落ち着きを取り戻し、このセットは18−25まで点差を詰めた。
中央大1年時から3年時夏の東日本インカレまで、ミドルブロッカーとオポジットの2ポジションを経験したことが、今になって生きている。「(当時の監督・松永)理生さんにミドルという武器をつけてもらったことが今、役に立っています。ただ、昔やっていたからって、今すぐにミドルができるわけじゃない。パナソニックで清水(邦広)さんにも『ミドルやったらどうや?』と言われたこともあったけど、その時はオポとしてのプライドがあって、ミドルに変えるつもりはなかった。韓国に来てこういうことになるんだったら、もうちょっと早くミドルを始めておけばよかったかな?」と冗談混じりに笑う。
12月7日、大韓航空戦でブロックに跳ぶ大竹(写真/ソウルウリカード・ウリWON)
複数のポジションを経験することによって、「プレーの幅が広がればまた自分のよさも増える」と感じている。韓国でミドルブロッカーを本格的に始めて5ヵ月。「ブロックの見方も角度も変わる。割り切りの経験など、(長いブランクで)ゼロになっていました。毎日(技術面で)こんなにできないことが多いのかと思うことばかりですが、プレーをよりよくするためにもっともっと頑張らないと。ほんとうに難しいです。とにかく練習してナンボ」。ミドルブロッカーとしてのプレーの疑問点を日本代表の小野寺太志やエバデダン ラリーに質問することもあるという。「(髙橋)健太郎さんの天性の身体能力は、誰にもまねできない。でもオポジットからミドルに転向した共通点があるから、クイックのフォームなど参考にしています。小野寺も日本で一番うまいと思うし、ラリーもクイックの打ち分けやたたき方がうまい」。ミドルブロッカーの「難しさという壁」を、日本で一緒にプレーした先輩、仲間、後輩から貪欲に学ぶ。
生活に不自由はなく、韓国リーグは「プロチームとしてのシステムが確立している」という。日本語通訳もいるが、チームメートとは直接、英語でコミュニケーションがとれる。チームが借り上げたマンションに住み、チームが用意した食事を食堂で囲む。練習場へは送迎がある。掃除、洗濯も自分でする必要はない。自炊も禁止されているため、ドイツ時代に磨いた料理の腕を振るうことはないが、バレーボールに集中できる環境に改めて感謝し、プロ選手としての自覚を高めている。
ウリカードホームゲームの応援練習。チアやMCの音頭で拳を振り上げる
韓国リーグの雰囲気も、また独特でおもしろい。ソウル奨忠体育館は、観光客にも人気のファッション街・東大門から徒歩圏にあり、地下鉄3号線東大入口駅に直結する。ソウルで一番、つまり韓国で一番地の利がよい体育館だ。ファン層も幅広く、老若男女が拳を振り上げ、喜怒哀楽をあらわに熱い眼差しでプレーを見つめる。MCは会場内を駆け回り、チアが踊りで応援を後押しするなど、日本とはまた違った応援形態を見せる。大竹のサーブの際には、「イッセ、イッセ、イッセイ」という独特のリズムに乗った掛け声がかかり、大竹のユニフォームを掲げた女性ファンが「イッセイの魅力は笑顔」と場内放送で語るなど、韓国のファンにも愛され始めている。
シャツネームはイッセイ (잇세이)。背番号29は自分で選んだ。理由は「肉(ニク)にちなんでつけたらおもしろいかも」
背番号の「29」は自分で選んだ。「肉(ニク)が由来という理由ならおもしろいかも」と茶目っ気を見せるが、まじめな理由もある。父であり元日本代表でもある大竹秀之さんと、1997年からNECブルーロケッツ(2009年休部)で共にプレーしたオロフ・ファンダールミューレンさん(元オランダ男子代表オポジット・1996年アトランタ五輪金メダリスト)が、NEC時代につけていたのが背番号29だったのだ。「初めて見た外国人選手がオーリーで、オポジットとしてのコースの幅の広さとか打ち方が好きでした」。韓国で日本人初のドラフト入団選手となった大竹に、子どものころ日本で接した外国人選手の記憶がよみがえった。
大竹は自身のインスタグラムで、ウリカードの観戦情報を発信している。「OQTで初めて日本代表のファンになった人は、大竹壱青という選手が代表にいたことを、知らない人もいるでしょう。でも、日本から新しい場で新しい挑戦をしている選手がいる。そんな姿をお見せしたいし、うちの(チームの)応援の熱気もすごいですよ。韓国旅行でいらした方も、日本とは違う雰囲気の韓国バレーも見に来てください」
ほかにもVリーグゆかりの選手や監督が活躍
韓国Vリーグは年末年始にも休むことなく開催される。男子リーグには荻野監督をはじめ、トミー・ティリカイネン監督(元ウルフドッグス名古屋監督)や伊賀亮平(元パナソニックパンサーズ)、女子リーグの仁川興国生命・ピンクスパイダーズには東谷玲衣奈(元デンソーエアリービーズ)など、Vリーグゆかりの監督や選手が所属している。その対戦も楽しめるだろう。
ウリカードのチケットの購入方法などは、別記事で解説する。
11月26日、荻野監督と対戦しスパイクを打つ大竹
*ウリカード 日程と結果(韓国語)
http://www.woorivolleyballclub.com/game/schedule.asp
*ウリカード インスタグラム
https://www.instagram.com/wooricard_volleyball_club/
*大竹壱青選手 インスタグラム
https://www.instagram.com/issei_otake/
- ウリカード 今季の日程(予定)
対戦相手と開催地
<第3ラウンド>
12月20日(水) 19:00~ 天安現代キャピタル・スカイウォーカーズ ソウル奨忠体育館
12月23日(土) 14:00~ 議政府KB損害保険・スターズ 議政府体育館
<第4ラウンド>
12月27日(水) 19:00~ KB損害保険 ソウル奨忠体育館
12月31日(日) 14:00~ 現代キャピタル 天安柳寛順体育館
2024年1月5日(金) 19:00~ 仁川大韓航空・ジャンボス 仁川桂陽体育館 ※ティリカイネン監督所属
1月10日(水) 19:00~ 安山OK金融グループ・ウッメン ソウル奨忠体育館 ※荻野監督所属
1月14日(日) 14:00~ 水原KEPCO(韓国電力)・ビッグストーム ソウル奨忠体育館 ※伊賀選手所属
1月19日(金) 19:00~ 大田三星火災・ブルーファングス 大田忠武体育館
<第5ラウンド>
1月31日(水) 19:00~ 三星火災 ソウル奨忠体育館
2月4日(日) 14:00~ 韓国電力 水原体育館 ※伊賀選手所属
2月9日(金) 14:00~ OK金融グループ 安山常緑樹体育館 ※荻野監督所属
2月12日(月) 14:00~ 現代キャピタル ソウル奨忠体育館
2月17日(土) 14:00~ 大韓航空 ソウル奨忠体育館 ※ティリカイネン監督所属
2月22日(木) 19:00~ KB損害保険 議政府体育館
<第6ラウンド>
2月28日(水) 19:00~ OK金融グループ ソウル奨忠体育館 ※荻野監督所属
3月2日(土) 14:00~ 韓国電力 ソウル奨忠体育館 ※伊賀選手所属
3月6日(水) 19:00~ 大韓航空 仁川桂陽体育館 ※ティリカイネン監督所属
3月9日(土) 14:00~ KB損害保険 ソウル奨忠体育館
3月12日(火) 19:00~ 現代キャピタル 天安柳寛順体育館
3月16日(土) 14:00~ 三星火災 大田忠武体育館
<プレーオフ>
2024年3月21日(木)~4月6日(土)
取材/石川京子
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■パナソニックを退団して韓国リーグへ 伊賀亮平&大竹壱青が語った挑戦への思い
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■男子はパナソニックが5大会ぶりに優勝 天皇杯・皇后杯全日本選手権
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11月25日ソウル奨忠体育館。荻野監督率いるOK金融グループ戦を控えた前日練習
イッセイファンの男の子(写真/ソウルウリカード・ウリWON)
11月26日、OK金融グループ戦でサーブに向かう大竹
ホームゲームでは老若男女、応援に力が入る
12月12日、三星火災戦で仲間と喜ぶ大竹(写真/ソウルウリカード・ウリWON)