第76回全日本高等学校バレーボール選手権大会(春の高校バレー)は2024年1月4日(木)に開幕する。本戦出場は逃したものの、同予選で力を尽くした選手たちを紹介する「次の勝者たち」。インターハイ、国体で準優勝した東山高(京都)は、府予選決勝でライバル洛南高に2-3で惜敗。キャプテンの花村知哉は悔しさをにじませたが、胸を張れる3年間だった
府予選決勝でもエースを奪った
ハイブリッドサーブ
ネットの向こうに狙いを定め、花村知哉は静かに息を整えた。1-2とあとがない第4セット。12-7からサービスエースを決めた直後だった。飛び込んだ相手リベロの指先をかすめ、打球はサイドライン上へ。連続サービスエース。花村が雄たけびを上げると、会場は再び沸き上がった。
0-1とされた第2セットには、この日1本目のエース。自身のサーブから6連続得点と勢いづけ、試合を振り出しに戻していた。まだまだこれから。そう言わんばかりに、打球に思いを込めた。
勝負の第5セットもサーブで崩し、3-0とリード。だが、その次の一本がわずかにエンドラインを割ると、勢いづく相手にのまれていく。
「SP(サーブポイント)が3つで、ミスも3つ。もう少しミスを減らせたらよかったです。特に5セット目のサーブが決まっていたら、というのはいちばん後悔しますね」
今季は2度の全国準優勝を成し遂げながら、最後は宿敵・洛南高に屈した。
サーブがアウトになった場面だけでなく、「もう少し自分もトスを呼んでスパイクを決めていたら、(エースの尾藤)大輝も、チームも助かったんじゃないか」と反省点を上げればきりはない。だが、「チームにいい影響を与えられたし、流れを持ってこられたのはすごくうれしかった。高校生活は終わりですが、これからももっとサーブを磨いていきたいです」と胸を張った。
雄新中(愛媛)3年時から取り組み、今や花村の代名詞であるハイブリッドサーブ。「自分の武器になりました」と自信が芽生えたのは、高校3年生になってから。左ヒザをケガし、満足に練習できなかった2年生時、上半身を鍛え抜いたことが転機になった。
「ケガをしたことでチームに迷惑をかけたし、悪いことのほうが多かったです。でも、ウェイトトレーニングやストレッチの大切さであったり、自分の考え方がすごく変わって。より重い重量で取り組むようになってからは、特にサーブの速さやキレが増しました」
洛南高をストレートで下したインターハイ府予選決勝など、今季はそのサーブで何度も劣勢を打開してきた。お手本にされることも多く、8月の全日本中学校選手権大会では、花村がアドバイスを送った選手がサービスエースを決めたこともあった。
「もともと、そんなにハイブリッドサーブを打っている人はいなかったじゃないですか。前田凌吾(清風高〔大阪〕→早稲田大2年)さんや、いろんな方が高校生で打っていたから、僕も強くなりたいと思って練習してきて。そうやって打つ人が増えるとすごくうれしいですね」
兄や先輩を追って
自らのスタイルを確立
自分の武器は何か。これまで自問自答を繰り返してきたのは、常に前を行く兄の影響が大きかった。バレーボールを始めるきっかけとなったのが3歳上の和哉(東山高→順天堂大3年)。東山高では、3年生時に身長186㎝で最高到達点345㎝をマークしていた。一方で、知哉は中学生時に身長170㎝台。兄のようなスケールはなかった。「超えたい」という思いを抱きながら、その難しさも悟っていた。
「自分は無理だ。地元の高校に進学しよう」
そう考えることもあったが、和哉の縁もあって東山高の練習に参加。豊田充浩監督(現・総監督)からの言葉が道しるべになった。
「お兄ちゃんみたいに身長があるわけではないし、君はお兄ちゃんみたいにならなくていい。これから伸びる保証もないから、今、その身長でできることを考えなさい」
お手本にしたのが東山高で和哉とともにプレーした吉村颯太(日本体大3年)と楠本岳(天理大3年)。ともに身長170㎝台とスパイカーとしては小柄だが、攻守で抜群の安定感を放つ選手だった。
動画を研究した成果も実り、東山高では1年生時からレギュラー入り。2年生時にはインターハイで初の日本一に輝いた。「人にちょっかいをかけたり、笑わせたいタイプ」と自己分析するが、今季はキャプテンとして40人を超える大所帯を束ねた。
「リオさん(松永理生監督)と豊田先生に言われ続けてきたことですが、いくら言葉で伝えても、自分が姿勢で見せないと人はついてこない。キャプテンになった当初は人に頼ってばかりでしたが、そのままではダメだと気づいて。人を動かしたいのであれば、言葉ではなくて、姿勢で見せること。それはこの1年間でいちばん痛感しました」
憧れの「師匠」もそうだった。昨年度は副キャプテンとして、池田幸紀(関西大1年)キャプテンの背中を見てきた。レギュラーとしてプレーした2年生時のインターハイ府予選決勝で敗れ、Bチーム落ちも経験した池田は、苦手だったサーブレシーブを徹底的に練習。3年生時にはディフェンスの要として活躍した。花村の脳裏には、妥協なく取り組む池田の姿が焼きついている。
「幸紀さんみたいになりたいと思いながら、ずっとやっていました」
兄、そして先輩の背中を追い、3年間で自分なりの選手像を確立してきた。
将来のVリーグ入りを目標に、卒業後は天理大へ。「憧れの先輩、(楠本)岳さんと1年間一緒にできるので。スタメンを勝ち取って、関西1位を目指して頑張りたいです」と胸を踊らせる。そして、「いちばんの目標」に挙げるのが、全日本インカレで和哉がいる順天堂大に勝利することだ。
「タイプは違えど、ずっと憧れで、追い越そうと思って頑張ってきました。その影響もあって東山に入って。しんどいこともあったけど、ときどきアドバイスをもらったり、すごく気にしてくれて。兄がいなかったらバレーボールをしていなかったと思うので、めちゃくちゃ感謝している存在です。人生初の兄弟対決を目指して頑張りたいですね」
自分しだいで未来は変えられる。高校での大きな学びを胸に、目標を実現していく。
花村知哉はなむら・ともや/身長181㎝/最高到達点335㎝/雄新中(愛媛)/アウトサイドヒッター
文/田中風太(編集部)
写真/山岡邦彦(NBP)、田中風太
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