令和5年度天皇杯全日本バレーボール選手権大会ファイナルラウンドが12月8日(金)から武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京)で行われ、春高に出場する男女3チームが出場した。Vリーグや大学生といった格上との対戦で得たものとは? 第1回は、高校女子で唯一出場し、1回戦でV1女子の岡山シーガルズと戦った金蘭会高(大阪)。ベストメンバーではないなか、それぞれの仕事を果たした
ケガで不在のメンバーも
それぞれの役割をまっとう
「チームのために」
井上未唯奈は、約5分間のインタビューで3度、そう口にした。春高まで1ヵ月を切った、格上との腕試しの場。井上がこの試合でスタメン起用されたのは、本職のミドルブロッカーではなく、アウトサイドヒッターのポジションだった。
翔凜中(千葉)2年生時には全日本中学生選抜に選ばれるなど、中学生時まではエース。金蘭会高では入学後からミドルブロッカーにコンバートされていた。再コンバートを希望し、練習を積んでいたとはいえ、ビッグゲームで巡ってきたチャンス。なかなかスパイクは決まらず、「決定率が低くて、どこに入ってもちゃんとプレーができる準備をしないといけない」と反省したが、ミドルブロッカーに戻った第2セット以降は得意のブロード攻撃が光った。「(岡山)シーガルズさん相手でもある程度通用して、改めて自分の武器だと思いました」と手応えもあった。
「アウトサイドヒッター井上」の背景には、厳しい台所事情もあった。今季レギュラーとして活躍してきたオポジットの平野シアラが、11月下旬に左足を手術。さらに、コンディションが万全ではないルーキー馬場柚希、そして「(左スネの)手術であったり、ユース合宿の招集であまり学校の試験を受けられていないので」と池条義則監督が説明したように、上村杏菜も今大会は帯同しなかった。井上の「チームに必要とされているところで、自分のいちばんの強みを出して輝けるように。どこに入っても、チームのために頑張りたい」という思いは、みんな同じだった。
平野が抜けたオポジットではサウスポーの後山七星が活躍。さらに、第1セットから途中出場していた身長175㎝の長身セッター花岡千聡をライトで起用するオプションも試した。ミドルブロッカーでは花岡明里が初スタメン。ストレート負けにも、池条監督は「最近試合ができていなかったので。プレー自体も悪くはなかったですし、いい経験になったと思います」と声を弾ませた。
スタメン奪取へ
大森咲愛もアピール
春高に向けた絶好のアピールチャンスで、アウトサイドヒッター大森咲愛も輝きを放った。2年連続でアンダーエイジカテゴリー日本代表に選ばれているが、チームでは同級生の西村美波、そして上村とポジションを争う立場。
「コートに入ってつかめるものは多いと思ったので。入らせてもらった分、ほかの人より学んで帰ろうと思っていました」
コートの奥を突くスパイクで得点を重ねると、いきなり4連続失点を喫した第3セットにはバックアタックを決めた。「サーブレシーブが返らないときに自分がもっとバックアタックに入ったほうがいいと思いました。本数的には少なかったので、もっと増やしていきたいです」と満足はしていなかったが、「パニックにならず、落ち着いて頑張ってくれた」と指揮官は好印象だ。
今季は2回戦敗退に終わったインターハイ、そして準優勝の国体でも、ともにベストメンバーでは臨めず。春高も厳しい状況になるが、アンダーエイジカテゴリー日本代表候補合宿には最多の合計12人が選ばれたスター集団が、逆境を力に変える。
「誰かが抜けても金蘭は強いチームだと証明するときだと思うので。どこで入っても、チームが勝つために頑張りたいです」(大森)
5年ぶりの春高の頂点へ。明るく結束力が強いチームが、さらに一つにまとまってきた。
文/田中風太(編集部)
写真/中川和泉(NBP)
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